第26話 最後の攻略対象者
「本日より、公女様に護身術を教えることになりました。ユニアス・ヤバエルと申します」
「‥‥‥」
「どこから聞きつけたのか陛下が騎士団長殿を貸してくださった」
そう言って嬉しそうに微笑む父に私は顔を引き攣らせた。
遂に最後の攻略対象者と対面した。
誰でも良いとは言ったけどまさか騎士団長直々にご教授願えるとは。しかも陛下の計らい?
絶対に裏に何かあるでしょう。
「喜べ、レイファ」
無理っ!
「レイファ・ミラノです。よろしくお願いします」
三〇代ぐらいかしら。渋めのおじ様という感じね。
残りの婚約者も既に決まった。マクミラン・マクベイン公爵令息。
アイルは陛下に私とタカ‥‥‥アグニを婚約させて欲しい。二人は想いあっているのだと告げていた。勝手に話は進められないので陛下から父に、そして私に確認がされた。もちろん私と父はそんな事実はない。アイルが何か勘違いしているのではないかと主張。
アイルは私が父に気を遣って言い出せないだけだと主張したので既成事実を作られる前に父が慌てて婚約者を用意した。
「呑み込みが早いですね」
「ありがとうございます」
これも神様がくれたチートの一つだ。勉強や運動。全てにおいてチート能力が与えられているので人より少ない努力で習得可能だ。
「時に先生、私にも魔術は使用可能ですか?」
体術と剣術をユニアスに教えてもらえることになったけど魔術は別の先生が必要になる。
「魔力があり、魔術式を理解すれば可能です。ご興味がおありで?」
「自分の身を守る為に武器は多い方が良いかと思いまして」
「成程。しかし、公爵閣下はあまりいい顔をされないのでは?」
「説得は得意です」
ただ、魔術だとアグニの家とも関係してくるから迷い中。
「興味があるだけなので実際にするかは迷っている最中です。余計な情報が耳に入れば要らぬ苦労を背負い込む可能性もあるのでもう少し吟味してみるつもりです」
誰の、とは言わなかった。それでもユニアスには通じた。
「それが良いでしょう」
最悪、独学でもいい。魔術が使えなくても知識として頭に入れるぐらいなら可能だ。
◇◇◇
「何を考えているっ!直ぐに追い出せっ!」
喧嘩してから王宮には行っていなかった。けれどアイルから王宮に来るように手紙が来た。
そう言えば私はまだアイルの専属侍女だったなと思い出した。
髪を茶色に染めて、侍女服を着てアイルの部屋の前に来た。するとカーディルの怒鳴り声が部屋の中から聞こえた。
ノックして入室の許可を求めても返答はない。勝手に入ろうかと迷っているとアシュベルがにっこりと笑って出てきた。
「どうしてここに?」
「私は王女殿下の専属侍女ですので。王女から登城するように手紙が来たため」
「‥‥‥」
アシュベルはにっこりとしているけど明らかに何か隠している。
部屋の中に見られたくない何かがあるのだろうか。
中を覗く前にぱたりとアシュベルに部屋のドアを閉められた。
「中に入りたいのだけど」
「日を改めて頂けませんか。王女殿下には僕の方から伝えておきますので」
「都合が悪いようですね」
「ええ、まぁ」
カーディルが部屋の中でずっと怒鳴っているようだし、出直した方が良いだろうと思っていた時部屋のドアが開いた。
「ミキちゃん、待っていたのよ。さぁ、中に入って」
「王女殿下っ!」
アシュベルが止めるよりも早くアイルは私の腕を引っ張った。たたらを踏むように中に入ると部屋の中にはカーディルとアグニがいた。
そうか。アイルは私とアグニの逢引きを手助けするつもりで私をここに呼んだのか。そしてそんな非常識なことを考えるアイルをアシュベルとカーディルで考え直すように説得していたと。
「この前の夜会はびっくりしちゃった。急に倒れるんだもん。タカに会えて感激したのね」
私もびっくりだよ。
あれだけ拒絶して、悲鳴を上げて倒れたのにそんな捉え方できるお前の能天気さに。
「王女殿下、私は“ミキちゃん”ではありません。レイファ・ミラノです。それと私と彼はこの前の夜会が初対面です。それなのに“想いあっている”などと言われた挙句、知らぬ殿方に急に手を掴まれ恐怖のあまり気を失ってしまっただけです。それをなぜそのような解釈されたのか疑問しか浮かびません」
「ミキちゃんは昔から男の人と仲が良かったじゃない」
前世で男友達はいたよ。マヤと違って適切な距離を保ったただの友達なら。でも今世ではいない。カーディルとアシュベルを除いては。
公爵令嬢なのだ。貞淑さを求められる貴族の令嬢は宝箱にいれるように家という檻に閉じ込められ、大切に育てられる。婚約や結婚するまで殿方に会ったことがないという令嬢だって中に入るだろう。
そこまででなくとも社交界デビューするまで身内以外の男性と接することがないのが普通だ。
だけどマヤは前世と今世を混ぜて考えているし、発言もそうだ。
今の発言では私が複数の殿方と関係を持っていると言っているようなものだ。事実無根の噂を流されて殺されることだってあるこんな世界で。
「王女殿下、私はあなたの専属侍女になるまで殿方は家族以外で会ったことがありません。そのような事実無根を口にするようなことは止めて頂きたい。それと私は“ミキちゃん”ではありません。レイファです。いい加減、私の名前を憶えて頂けないでしょうか」
「でも私にとってミキちゃんはミキちゃんだもの」
どこまでも平行線。
だから疲れるのだ。彼女との会話は。
「王女殿下、私は現在婚約者がいる身。変な噂を流されたくはないので彼と二人きりにさせるような気づかいはしないで頂きたい」
アイルは花が咲いたような笑みを浮かべた。また自分の都合の良いように解釈したようだ。どんな才能だよ。
「タカと婚約したのね」
「ミキちゃん、婚約を承諾してくれたの?」
馬鹿コンビっ!!
「公爵令嬢の私が男爵令息と婚約するなどあり得ません。仮につりあった身分であろうと私は彼と婚約する気はありませんっ!それと王女殿下、専属侍女を辞したいと思います」
「どうして?」
悲しそうに目を伏せるアイル。これだけのことをやらかしてもまだ分からないのね。言っても通じないのは分かっていたけど。
「色々と忙しくなってきたので専属侍女を続けるのが難しく」
「聞いたわ!ユニアスに剣術や体術を学んでいるんですってね。私の為に」
「‥‥‥は?」
あんぐりと口をあける私に構わずアイルは続ける。
「ヒロインである私を守る為でしょ。でも、だからって私より先に攻略対象者であるユニアスに接触するのはルール違反よ。アシュベルの時も私より先に会っているし、ミキちゃんって相変わらず手が早いよね」
ぶん殴ってやろうかしら。
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