第18話 アシュベルの信頼を勝ち取る

「王女殿下と仲たがいが続いているけど、その、大丈夫?」

アシュベルに久しぶりに会うと開口一番で聞かれた。どう答えようかと考えあぐねているとなぜか同席しているカーディルが鼻で笑った。

「寧ろせいせいしているだろう。あんなお花畑のお姫様の相手をさせられずに済んで」

「カーディル、幾ら君でも失礼だよ」

他国の王族に対する言いようではなかったのでアシュベルが窘めるがカーディルは更に追加する。

「俺は国民が口にできないことを代弁したまでだ」

事実そうなので何とも言えない。

正確にはアイルのあの性格には国民には知れ渡っていないので彼女に関係のある使用人や騎士の代弁者になるが。

この話題で一貴族でしかない私とアシュベルは賛同を求められても答えられないのでさっさと話題を変えることにした。

「本題に入ってよろしいですか?」

「あっ、うん。そうだね。それで、今日はどうしたの?」

「私宛に脅迫まがいの手紙が届いています」

「えっ?公爵にはそのことは?」

「まだ報告していません」

「何で?」

カーディルは私の考えを読もうとしているのか鋭い眼光で睨んでくる。

「高位の方なのでどう対応しようか考えあぐねているところです。それで、この脅迫はバルトロマイ伯爵令息にも関係してくることなのですが」

「僕?」

「はい。あなたの近くで最近、奇妙なことはありませんか?」

「ああ、分かった」

被害者であるはずのアシュベルではなくなぜか第三者のカーディルが先に心当たりを見つけたようだ。

「脅迫者はメロディ・モーガンだな」

「どうしてメロディが?」

アシュベルは目を丸くして驚いている。その様子から察するにメロディはまだ具体的に行動には移していないようだ。

「メロディ・モーガンはお前にご執心だからな。あの女はお前の前ではしおらしい女を演じていたが陰ではお前に近づく女を排除していたから。恐ろしい女だ」

アシュベルは寝耳に水だったようだ。

「その様子ならそちらに被害はいっていないようですね」

「‥…はい。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

「あなたの責任ではありません。自分でアプローチもできずに陰で動くことしかできない陰険女の行動を読めというのは無茶ですから」

「‥‥‥陰険女。メロディは些細なことで笑ったり、泣いたりして、確かに我儘なところもあったけどでも、許容できる程度で、本当に可愛らしい子で、僕にとっては妹みたいな子なんです」

アシュベルの前限定ね。

お茶会での様子を見るに彼女は気に入らない子を自分の権力を使って集めた子たちに指示を出して虐めていた。

脅迫まがいの手紙もそうだけど彼女は相手を精神的に追い詰めるやり方を好むようだ。

「あなたに見せている面だけが全てではなかったということでしょう。どうされますか?今なら内々に処理できます」

こんなことを公にすれば彼女の縁談も難しくなるだろう。子供のしたことだと片付けられるレベルではないのだ。上の身分に脅迫状を送るというのは。

「ご迷惑をおかけしてすみません。寛大な配慮、ありがとうございます。このことは父と相談し、できればメロディの経歴に傷がつかないように内々に処理をさせていただきます。彼女がこのような行動に出てしまったのは彼女の心に気づいてあげられなかった僕のせいでもあります」

「そうですか。では、これはバルトロマイ伯爵令息に預けますね」

私はメロディが送ってきた脅迫状の一部をアシュベルに渡した。

「ありがとうございます。それと、僕のことはアシュベルとお呼びください」

「はい。私のことも名前で呼んでください」

幼馴染だと事前の情報で知っていたからアシュベルは絶対にメロディに対して情があると踏んで良かった。

おかげで公女に脅迫状を送った罪を内々で片付けられるからアシュベルもそして彼女の父であるモーガン侯爵も私に感謝するだろう。

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