第16話 定番に手を出すことに決めた

あのお茶会の日以降、メロディから剃刀入りの手紙が届くようになった。

全て処分せずに取ってある。

「ばればれのストーカーするだけあって馬鹿ね」

筆跡鑑定すれば誰が書いたのかすぐに分かる。しかも内容は健全なものではない。誰が見ても脅迫だと分かるもの。

「これ、どうしよう」

父に知らせれば侯爵家の令嬢が公女を脅迫したということでメロディにはしかるべき処分が下されるだろう。

メロディはすでにアシュベルに対して何らかの行動を起こしているのだろうか?

もしそうならば、これをうまく使えばアシュベルは私を信頼するだろう。地位だけは高い私の父と違ってアシュベルの父は宰相で、実権を握っている。公爵家でもバルトロマイ伯爵には下手なことが言えなくなる。

アシュベルを味方に引き込む。同時に公爵家も地位だけではない。力をつけなくてはいけない。その為にはお金だ。

これほど強い力はないだろう。

現在、公爵領には特産と呼べるものはない。ないなら作ればいい。

ゲームや小説の転生ものでよくある。前世の知識を使った特産品だ。

「善は急げね」

そうと決まれば私は前世で自分が何を得意としていたのか、何に嵌っていたのかを思い出しながら紙にまとめていく。

その中から実現可能なものを選択する。


・果実酒

・フルーツティー

・スイーツ

・パン


「この三点ね」

近所にバーがあった。そこの店長と私は知り合いで兄のように慕っていた。その人の恋人がお酒が苦手な人だったからそういう人でも飲めるお酒を研究していた。私はよくそれに付き合わされていたのだ。未成年だから法律的にはアウトだけど。

でも、お兄さんと一緒にお酒を作る時間は楽しくて好きだったな。

しんみりしそうな空気を霧散させるために私は首を左右に振る。

「この世界で飲まれているお酒にワインがあるから果実酒は馴染みやすいと思うのよね」

お酒は女性でも飲まれるけど度数が少し強かったりお酒特有の癖があったりして飲みにくいからあまり好んで飲まれない。

フルーツティーもいいと思う。この世界はお茶で喉を潤す。それに合わせたスイーツを出せばカフェができるわね。こういうのは転生もののゲームや小説では定番だと思う。

マヤほどではないけど、転生ものの話の基本的な知識ぐらいはある。

「この世界の主食はパンだけど、日本みたいに可愛いパンはないのよね。パンダとか猫とか動物を模したものが」

どれも魅力的だけど最初に手掛けるものはインパクトが大事だと思う。

最初に「凄いっ!」と思わせておけば後にどんなものを出そうともみんなの興味をひかせることができる。やっぱり最初が肝心よね。

そうなると、インパクトがあるのは果実酒ね。

女性が飲みやすい甘いお酒ってこの世界にはないし。それに弱い女性の為に度数を低くして出せばお代わりもできる。甘いお酒に合わせた甘いスイーツを出しても良いと思う。

おつまみと言えばチーズになる。スイーツとお酒を一緒にというのはあまりない。ならば、この世界では衝撃的だろう。

「果物が特産の領地から直接仕入れるルートがいるわね」

私はすぐに侍女に調査を命じた。

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