第14話 不機嫌なカーディル
予想通り、アイルはカーディルと会うことを陛下に許可してもらったようだ。
陛下も溺愛している娘に言われたから仕方がなかったんだろう。
「‥…」
「どうかしましたか?」
アイルに許可をもらってアシュベルと一緒に王女宮から出た後、視線を感じた。
紫色の髪を赤いリボンで左右に結んだ少女が睨むように私を見ていた。
アイルからはストーカーの情報は得られなかった。
「あれ、メロディだ。おーい、メロディ」
アシュベルが手を振って彼女に呼び掛けるけど彼女は逃げるように行ってしまった。
「どうしたんだろう?」
メロディ・モーガン侯爵令嬢。
「お知り合いですか?」
「幼馴染です」
じゃあ、彼女がアシュベルにトラウマを植え付けるストーカーか。そう判断するのは早計かもしれないけど私を睨む彼女の目には幼いながらも嫉妬が宿っていた。
「敵認定されたかな」
「何か言いました?」
「いいえ」
◇◇◇
翌日、カーディルが王女の部屋にいた。明らかに不機嫌そうだけどアイルは気にしない。アイルのそういうところ、マヤの時から凄いなと思っていた。
相手が自分に対してどのような感情を抱こうと気にしない。正確には相手が自分の悪感情を抱くはずがないと思っているのだけど。どこからそんな自信が来るのだろう。
「カーディル、格好いい」
「呼び捨てにするな」
「カーディル、私のことどう思う」
「呼び捨てにするな」
「可愛いと思う?」
「‥‥‥」
話が通じないと思ったのかカーディルは何を聞かれてもだんまりになってしまった。
私は侍女なのでアイルの後ろでその光景を黙って見ていたが、なぜか私の横に立っているアシュベルははらはらした様子でカーディルとアイルの様子を見ている。
多分、あの中に入るのが嫌だから私の横に立っているのだろう。
「ねぇ、聞いているの?カーディル、女嫌いなのは分かるけど、そういう態度はどうかと思うよ」
ゲームの中ではカーディルは女嫌いだけど、今の段階で女嫌いかは分からない。それに、ゲームの知識があるからってカーディルをそういう人間だと決めつけるのはかなり失礼だと思う。
「カーディル?」
アイルがカーディルの肩に触れた時、「触るなっ!」と言ってカーディルはアイルの手を弾いた。これにはアイルも驚いたようだ。目を丸くしてカーディルを見た後目に涙を溜めて泣き出した。
自分でカーディルは「女嫌い」とさっき言っていたじゃないか。
女嫌いのカーディルが女であるアイルに触られて拒絶するのは想像できた事態だと思うけど。
「王女殿下、同じ王族でも今日が初対面ですし相手の許可もなく敬称なしに呼ぶのは無礼に当たります。当然ですがお体に触れるのもあまりよろしくはありません。それが異性なのであればなおのこと」
「ミキちゃん、ミキちゃんはどうしてそんな酷いことを言うの?」
「王女殿下、私の名前は“ミキ”ではなく、レイファです。それと、何をもって酷いというのか教えていただきたい。この程度のことは既に家庭教師から教わっていると思いますが」
マヤの時から彼女は勉強嫌いだ。大学も親のコネとお金を使った裏口入学だと噂されていた。
娘を溺愛している王は勉強面でもアイルに甘いのかもしれない。だからって最低限の礼儀は身につけさせないと困るのだけど。
「私が馬鹿だって言いたいの?ミキちゃんは私がヒロインで、可愛いから嫉妬しているのね」
嫉妬しているのは寧ろアイルじゃないの。
髪の色とか変えさせたり、公爵令嬢を自分の専属侍女にさせたり。行動だけ見たら私に嫉妬して私を貶めていると思われてもおかしくはないんじゃないの。
そもそもあなたが私を今のポジションに転生させたんだよね。なのにヒロインの自分に嫉妬しているって言葉はおかしいでしょう。
私が嫉妬するかもって分かっていてそういうポジションに転生させたことになる。
そこまで考えて転生させていないことは分かる。その場限りの思い付きだったってことも理解している。それでも不快だ。
公爵令嬢の私が王女であるアイルに怒鳴るような馬鹿な真似はしないけど。
「王女殿下、あなたはルシファーノ国の第一王女です。そしてカーディル殿下はオルジェイトゥ帝国の第一皇子です。あなたの先ほどの言動はルシファーノ国の顔に泥を塗ることですし、オルジェイトゥ帝国を侮辱していると捉えられても文句は言えません。お二人の関係悪化は国同士の関係を悪化させることにもなります。そうなれば、王族として守らなければならない民の生活にも影響します。もう少し考えて行動されてはいかがでしょう」
「ミキちゃんはいつもそうだよね」
アイルは怒ったように私を睨みつける。
「いつもそうやって私を悪者にする」
逆だろ。それに、今の人生と前世を混同させてひとくくりにしないで欲しい。私はミキだけど、ミキと同じ人生を歩むつもりはないのだ。レイファ・ミラノとしての人生を歩むつもりだ。
「ミキちゃんなんか嫌い。帰って」
「失礼いたします」
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