ささやかな反抗3
サンドール王国 駐留軍基地司令部
「斥候より連絡、敵部隊およそ18000を確認。このままいけば80分程で射程距離内に入ります。」
「引き続き監視を続けさせろ。」
「了解!」
基地司令は考える。魔導砲は共和国の火薬弾と違い炸裂しない。おまけに直線的に進み、少しでも起伏のある土地では安全ゾーンが生まれてしまう。対地攻撃には意外と不向きな兵器なのだ。
「なくなってから大切さが分かると言うが、私が竜をあれほど乞い願うとはな。」
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ミュルンヘルハン街道 終点近く
遠くに階段のようにレンガの建物が並ぶのが見える。遠くから見れば美麗の一言だ。しかし、王都に入ったならば狭く汚れた道、壊れかけのまま修理されない建物、そして目が死んだ住民によりイメージが払拭されることだろう。
「敵の主力は?」ツェザール公爵聞がく。
「前衛部隊によると敵主力は戦列艦だとのことです。我々は陸の敵を数で圧倒できても敵艦を叩くことはできないのでは?泳いで渡るわけにもいきませんし。」アウグストが不安そうに答える。
「砲を揚陸して、王都に我々を入れるものかと戦ってくれることを期待したのだがな。」ツェザールは自らの予想の甘さを呪う。
「いかがなさいますか?」
「帰るぞ。」
「はっ!えっ?」アウグストは意外な言葉に動揺する。ここまで来て帰る?行軍のためにこつこつとこっそり貯めた食糧だけでも馬鹿にならないほど消費したというのに。
「陸戦に持ち込めるのならば帝国と戦っても勝てるかもしれん。だが戦列艦を持ち出してきたということは帝国は王都すら焼くことを厭わんということだろう。」
「しかし司令部は陸の上です。そこさえ占拠できれば…」アウグストの言葉は遮られる。
「我々がこのまま進軍すると王都は焼け野原になる。となると王都民はどう思うか分かるか?」
「帝国を恨むか恐怖するのではないですか?」公爵は指を振る。
「いいや、我々を恨むのだ。それだけは避けたい。我々は正義の味方でなくてはならないのだ。」王になる野望を持つ公爵は断言する。
「全軍に撤退命令を出せ!」
「了解しました!」出撃する気満々であった兵士達は突然の命令に戸惑ったが、しぶしぶと帰っていった。
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「敵軍、撤退していきます。」
「どうやら、我々はこれ以上王国民の気を逆撫でせんでいいらしい。」基地司令は安堵する。
「帝国とあろうもの、衛星国の機嫌を取ってどうします?」
「この国には負担を掛けすぎた。一揆が起こるペースは異常だ。」
「帝国の力を見せつければ…」参謀の発言に司令が割り込む。
「人は食わねば生きていけん。そしてどうせ死ぬならと最後の食糧を奪い取った相手に矛を向けるのは当然だ。何もしなくとも飢え死ぬのだからな。死を目の前にした相手に力を見せても意味はない。しかも今度は王都だ。何万もの人が家と職を失うところだっただろう。そのうち何人が反乱を画策する?」司令は煙草に火を着けて、ゆっくりと咥える。
「いずれにせよ現有戦力で、内陸に引きこもった敵を撃破する術はない。だが、援軍を乞おうにもそれを支えるための現地資材はない。輸送船も余裕はない。困ったものだ。」
しばらくの間、ツェザール領とアンゴラス帝国駐留軍は奇妙な小康状態を保つのだった。
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