第10話 訓練

 お姉様が家に戻られて数日が経った。その間、屋敷に戻られたお母様がお姉様を抱きしめて泣きじゃくるなどの出来事はあったものの、巨大な力を持って戻って来られたお姉様はその力に振り回される様子もなく、意外なほど平穏な日々に順応していた。ただ相変わらず自分からは決して私達に触れようとして来ないけれど。


 一見上手く出来ている様に見えても、やっぱり力のコントロールが難しいのかしら?


「そんなわけで今日はお姉さまの力の確認をしたいと思います」

「GA?」

「良いからほら、中庭に来てください。お姉様」


 色々な物語が描かれた空想絵巻。それをベッドの上に山積みにして読み耽っているお姉様の腕を取って引っ張る。


「U、UU」


 でもお姉様は全然動いてくれない。ベッドに寝そべったまま、私が引っ張ってるのとは逆の手で絵巻を読み進めていく。


「もう、お姉様ったら。……分かりました。付き合ってくれたらお姉様が昔好きだったプリンを私が作ってあげます」

「GA!?」

「え? なんですかその指は、五つ欲しいということですか?」

「GA…(コクコク)」

「まぁ、良いですけど。それじゃあ五つ作って上げますから、ほら、行きますよ」


 お姉様はベッドの上を若干名残惜しそうにしながらも、今度は私に付き合ってくれた。


「それではまずはお姉様のパワーを確認します。お姉様、地面を思いっきり殴ってみてください」

「GA?」

「そうです。全力でです」

「GAAA……(ブンブン)」

「嫌なんですか?」

「U、UU……(コクコク)」


 地面を殴るのがお姉様の力を知るのに一番分かりやすいと思ったんだけど、ひょっとしてまだ本気の力を使えるほど体調が戻られてないのかしら?


「それならこれくらいかなってくらいの力でいいですよ。無理せずに。それならどうですか?」

「U、UU~」


 お姉様は渋々と言った様子で拳を固めた。途端、お姉様の右腕がメキメキと変形していってあっという間に竜の右手となった。


 あれ? これ思ってたよりもまずいかも。


「お姉様、ちょっとまっーー」

「GA!!」


 叩きつけれる竜の拳。瞬間、世界から音が消えた。先日の比じゃない程に大地が大きく砕かれ、離れたところにある屋敷が揺れた。


 あ、甘かったわ。単純な力でこれだなんて、お姉様の力を測るのは止めておいた方がいいかも。


「お、お嬢様!? これは一体?」


 当たり前だけど屋敷から大勢の使用人達が出てくる。


「えっと、これはその、何というか……」

「ヘレナ! シルビィ!」

「お、お母様!?」


 スカートの端を掴んで、こちらに駆け足でやってくるお母様。その瞳はこれでもかと釣り上がっていた。


「貴方達、これは一体どういうことですか?」

「これはですね、えっと。少しお姉様の力の確認をしたくて、それで、その……」

「ヘレナはこれから普通に生活するのだから、そのようなことをする必要ありません。まぁ、ヘレナ。何ですかその腕は!? 早く戻しなさい」

「GA、A、A」


 お姉様が慌てて手をブンブンと振れば、竜の右手は瞬く間に人のものに戻った。


「貴方達には庭を壊した罰として今から夕飯まで勉強をしてもらいます」

「え? お母様それは……」

「GAGA!!」

「いいですね?」


 ギラリと光るお母様の瞳。それに私達姉妹はただただ竦み上がった。


「は、はい。お母様」

「U、UU~」


 そうして私とヘレナお姉様は肩を落として屋敷に戻るのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る