第8話 説得
何だか手紙の最後で妙なお願いをされた気もするけど、大体事情は分かったわ。後、気になるのはーー
「お姉様」
「GA?」
「ちょっと、こっちに来てくださいな」
「A、A……(コクコク)」
「ありがとうございます。それじゃあ動かないでくださいね」
お姉様の顔を完全に隠している長い金色の髪に触れる。
……緊張するわ。もちろんお姉様のお顔がどうなっていたとしても、それで私のお姉様を想う気持ちが揺らぐことはない。でもお姉様も年頃の乙女。どうか神様、これ以上お姉様に辛い試練をお与えになりませんように。
意を決して髪で出来たカーテンを退ける。そこから現れた顔はーー
「ああっ。お姉様、良かった」
すらりと通った鼻筋にぷっくらとした魅力的な唇。炎のように鮮烈な赤い瞳は女王のような気品に溢れており、その美しさに双子の私でも思わず見入ってしまう。
「U。UU~」
お姉様が嫌そうに顔を振るので仕方なく手を離す。すると強さと美しさを併せ持った類まれな美貌がボサボサの髪に隠れて見えなくなった。
「……お姉様、一先ずお風呂に入りましょうか」
「GA!? (ブンブン)」
「ダメです。お食事の前に着替えてもらう必要もありますし……って、今脱がないでください。脱ぐならお風呂場でお願いします」
「YA、A、AA……(ブンブン)」
「すみませんお姉様。お父様からも言付かってますし、私もお風呂には入るべきだと思います。さぁ、行きましょ……って、全然動かない!?」
何これ!? お姉様の背中、まるでお城の壁を押しているかのようにビクともしないわ。お姉様は普通に立っているだけなのに。
「もう、お姉さまったら。そんなにお風呂に入るのが嫌なんですか?」
「U、UU……(コク、コク)」
「ひょっとして、お風呂に入れない事情でもあるんですか?」
だとしたら無理強いはできない。
「GA? A~……(コク、コク)」
「……お姉様? 今嘘つきましたよね?」
双子としての直感が働くのか、昔から私にはお姉様の嘘がすぐに分かった。お姉様の嘘を見破れなかったのはあの夜が初めてで、長年離れていた今はどうかと不安だったけど、双子の直感は今でも有効のようだ。
「U、UU~」
「もう、お姉様ったら。そんなにお風呂に入りたくないんですか? 私は久しぶりにお姉様とお風呂に入れるのを楽しみにしていたのに」
ちょっとずるいけど軽く泣き真似をしてみる。ここで入らなくていいと言ったしまったらお姉様のことだからきっと言質をとったとばかりに、これからも入ろうとしないに決まっているわ。でもお姉様だって年頃の乙女、お風呂に入る習慣くらいは取り戻してもらわないと困る。
「A、AA、シ……ィ」
泣き真似をする私の肩にお姉様が手を伸ばそうとして、しかしやはり触ろうとはせずに手を引っ込める。私はその手をガシリと掴んだ。
「GA!?」
「ヘレナお姉様。私と一緒にお風呂、入ってくださいますね?」
「U、UU……(コクン)」
普段は私の意見なんてまるで聞いてくれないのに、本気で頼めば最後は折れてくれる。そんなところもまったく変わってないお姉様だった。
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