ま×ま
空白メア
第1話始まり
この世界には大きくわけて二つの魔法使いがいる。
天性より魔法の才を授かっている『聖魔』。
大悪魔に魂を売り力を得る『悪魔』。
大悪魔は聖魔を倒すために人に魔法の力を与え悪さをした。それを阻止するべく政府は悪魔死刑令を発布。見つけ次第悪魔は殺す。その命令に特化し組織されたのが聖魔団だった。
『昨日千葉県の聖魔学校を魔人が襲う事件がありました。魔人は同学校に通う生徒によって倒されました。そして…』
朝のニュースが流れてくる。
「昨日はすごかったわね……」
母さんは報道に興味無さそうに朝ごはんを食べる。
ニュースに出てきたその生徒は俺、
外では賞賛されたが、家では怒られた。母に俺が死んだらどうするのと泣きながら言われた。
この静かな声もこれ以上触れるなと言う意味なのだろう。
「……そうだね。ご馳走様。」
朝ごはんを食べ終わると席を立ち、歯磨きをし、制服を着る。その一連の動作を無意識に行う。
「行ってきます。」
ドアの玄関を開ける。外の世界の眩しさに一瞬目が眩む。目が慣れてくると二人の人物が俺を待ってるのを映し出した。
「あ、りっくんやっと来た!!」
「律遅いぞ。」
俺を愛称で呼ぶのは
「ごめんごめん」
そう言って2人の元に小走りで向かう。
「昨日は凄かったね。」
「それな。もう英雄だよな。」
二人はとても俺を褒めてくれた。俺を馬鹿にするクラスのヤツ共ざまぁみろだ!
「でも、りっくんついにクラスVになるんだね。私も負けてられないなぁ」
クラスV。勉強、魔法が共に優秀な人がいるクラスのことだ。今回俺は特別にそこに移ることになった。理由は、話題のニュースがあるからだろう。
ちなみにクラスVは強制聖魔団コースだ。聖魔団に行きたくないやつはわざと実力を落としたりする。しかし、俺は聖魔団志望なので好都合だった。まぁ、わざわざクラスVにならなくても高等部を卒業したら普通に研修生になるんだけどね。クラスVは早めに実践が詰めると言うだけのクラスだ。
「昨日はご馳走だったんじゃない?」
なんて天は茶化してくる。
「そんな事はねぇよ。まぁ、喜んでくれたけどさ。」
嘘だ。今朝だってお通夜の如く静かだったんだ。
母さんは俺が聖魔団に入るのを良く思っていない。父さんみたいにいなくなって欲しくないのだろう。或いは……
ちなみにこのことは二人を含め仲のいい人にすら言っていなかった。
「そっか。」
「そういえば、クラスVってつまりは研修生になるってことじゃん。実践が多くてほとんど学校に居ないんでしょ?俺、寂しいなぁ。」
と藍色が擦り寄ってくるのでキモと言って逃げた。
「けど、考えてくれてるんでしょ?“お供”にさ。」
クラスVには仲間配属制度、通称“お供”がある。それは、他クラスの生徒でも聖魔団研修生へ道連れにできるというものだ。研修生になるのを面倒くさがって成績を落とす人を減らすために作られたものらしい。まぁ、知ってる人が少ないから意味ないんだけど。俺も三年生になってから知った身だった。ちなみにお供は三人まで決められる。
「当たり前だろ。お前らを選ぶって。」
そう言うと俺は歩くスピードを早めて二人の前を歩く。
俺はそのテンポをキープして学校に到着する。ここは、国立聖魔高等学校千葉校舎。聖魔の力を持つ人間が通う学校だ。
いや、俺はこんな説明がしたいんじゃなくて、何故校長が校門にいるかを聞きたいんだ。
「あれ、校長じゃね?」
俺は正門の前に立つちょっと偉そうな風貌の老人を指さす。
「あれが校長なんだ。入学式以来見てないから覚えてなかった。」
天はそうだろう。俺も昨日までそうだった。昨日の事件の後、俺は校長に会っていた。話した内容は今日行われる俺の表彰式についてだ。
制服が整っているか軽く確認しつつ、校長に普通に挨拶をして横を通り過ぎようとした
「やぁ、有馬君。」
明るいガラガラ声にそちらを見る。絶対に校長の声だ。
「……おはようございます」
困惑した俺は改めて彼に挨拶をする。何もしてないのに緊張して声が若干裏返る。
「少し話がしたいんだが、ちょっといいかな?」
「分かりました。」
俺は藍色達と別れて校長について行く。校長室に着くと彼は話し始めた。
話を要約するとこうだ。
一に昇格のお祝い
二に今日の表彰式の段取りの再確認
三にクラス異動に伴う日常の変化
俺は校長先生の話をぼーっと聞いていると、“お供”の話になった。
「ところで、お供制度の利用はどうする?」
俺はその質問に自信満々にこう言った。
「利用します。相手は物井天と皆川藍色です。」
「3-IVの物井君と3-Ⅰの皆川君だね?」
「はい」
校長って、人の名前とクラスちゃんと覚えているんだな。中等部と合わせると全校生徒は千人超えるだろうに凄いな。
「承知した。では、あと少ししかないが移動指示があるまでクラスで待機しててくれ。」
俺はその言葉を聞いてホットして校長室を出た。ただ、クラスにはあんまりいたくないので寄り道しながらゆっくりと向かった。
時は流れて、昨日の騒ぎがあった体育館に集まる。
昨日の事件がなかったかのように綺麗な体育館に俺はなんとも思わなかった。多分、魔法で修繕したのだろう。そういったことが得意な魔法師もいるからだ。
「うわぁ。もう直ってるよ。あんなに凄かったのにな。」
「そうだな。」
とクラス連中は話していた。
並ぶ途中に俺が移るクラスVの列を見た。そこには誰一人として並んでいなかった。まぁ、ここは卒業式以外埋まった試しは無いんだがな。どんなやつなんだろう。たしか今年は五人だったはずだ。そう思いながら、前との間隔をあけて椅子に座った。
式は先生の話が長い以外は滞りなく進んでいた。……進んでいたはずだった。
俺は表彰を受け取るためにステージに上がっていた。
メリッ
急にそんな音が上から聞こえたのだ。初めは気のせいだと思っていた。
メリメリッ
次第に音は大きくなり。皆の声が騒がしくなる。それを見兼ねた先生達が静かにするように促す。俺が賞状を貰う瞬間、轟音が後ろから響いた。振り返ると、天井が落ちてきていた。しかし、負傷者は誰もいなかった。重いものが落ちた時に生じる風で飛ばされた物ものいなかった。俺は前に視線を戻すと校長と教頭が協力して生徒たちを守るシールド魔法を発動させていた。
「みんな今すぐに避難しなさい!」
俺の担任のその一声に皆は一斉に体育館に出ようとする。パニック状態の上に一斉に出ようとした為、そこで怪我人が出る。全くこいつら何してるんだか。外に出ようと働くだけで先生の指示を全く聞こうとしていない。
「有馬君。君も先生の指示に従って逃げなさい。」
ステージの上から生徒たちを見下ろしていると校長先生に怒られてしまう。今あの集団の中に俺は入ってもいいのものなのだろうか。ただ、いつまでもここにいては怒られてしまう。俺は、とりあえず天井の落ちてこない部分を確認して、はしつこから降りる。
「キャーッ!」
パニック集団の方へ行こうとすると女子の悲鳴が上がった。この状況は昨日の体育の時間にやけに似ている。視線を階段から目の前に再び写すと一人の……いや、二人の生徒では無い誰かが立っていた。
やけに彼らの場所だけ明るいと思った。それは、シールドが破られていたからだ。先生の努力も虚しく魔法は崩され天井が落ちてきたのだ。俺は風圧に飛ばされて壁に背中を打ち付けた。
「りっくん!」
聞き馴染んだ声が俺を呼んでいる。天だ。
周りはキラキラ光る魔法粒子の結晶が降り注いでいた。直接言うとこれは先生の生み出した元シールドだったものだ。結晶化と言って魔法の構築が急に崩れた際に周りで起こる現象なのだ。
「大丈夫!?」
正直背中が痛いこと以外考えられなかった。
「二人とも逃げるぞ」
天で見えていなかったが、さらに後ろには藍色がいたようだ。俺は二人に肩を貸してもらい避難しようとした。
出入口に向かおうとしたその時黒い物体か目の前に飛んできて壁に刺さった。正体は、包丁だった。
「!?」
俺は、包丁飛んできた方向を見た。
その時初めて不審者の細かな外見を確認した。一人は着崩した制服を着た女子。ツインテールと左端だけ裂けた口が印象によく残った。
二人目は全身真っ黒の青年だった。彼の長い前髪の合間には光を通さない強い瞳があった。また、広範囲に及ぶ火傷の跡が見える。二人とも手には悪魔との契約の紋様があった。
彼らの周りには赤い何かが付着した体育館の天井だったものと、腰が抜けて動けなくなっている生徒がいた。
「あれぇ。逃げ遅れた分際で逃げられると思った?」
女はそう言って笑った。そんな彼女の口角はとても不気味に写った。
「おいおい、今日はそういうんじゃないだろ。」
「そうでした。ねぇ、そこの君!昨日仲間を殺ったの君だよね?観察してたから間違えないと思うんだけど。」
こいつらは俺を殺しに来たのか。仲間の為に?しかし、殺したのは俺では無い。俺は、聖魔団の人にあの悪魔を引き渡しただけだ。
「ねぇ、早く!正直に!答えて?じゃないと殺しちゃうよ。」
そういうと女はいつの間にか手にした日本刀を腰が抜けた生徒に向ける。その生徒は拘束されてる訳でもないのにただただ悲鳴をあげていた。
「そうだよ。」
「バカっ」
「相手にしちゃダメ!」
俺は二人の言葉を無視してふらつく足で二人に向かった。
「へぇ〜やるじゃん。タカヤはどう思う?」
そういうと女はもう一人の不審者に話を振った。
「は?いや。どうも思わねぇけど。」
「タカヤはそうだよねぇー笑。ねぇ、君。今回は見逃してあげよっか?」
彼女はそう言いながら人質にとっていた生徒を一人殺した。
「え?」
「いや、何言って……」
「えー。タカヤまでそういうの〜。もしかしたらタカヤを殺してくれるかもしれないのに?」
「……」
それを聞くと男は黙った。
「アハ〜。素直じゃん。でも、この勘は当たるわよ。」
俺は二人が話してる隙に天と藍色と避難口に移動しようとした。するとまた何かが飛んで来る。俺はそれを魔法で生み出した剣で打ち返す。相手の投げたものの威力が強く俺は一瞬よろめいた。しかし、大丈夫そうだな。剣の異質なデザインは自分の好きなソシャゲの武器をパクっているからだ。投げられた武器はどうやらクナイにそっくりだった。
「あら、跳ね返されちった。」
「当てる気なんてなかったろ。」
「バレてた?」
多分二人の会話は俺らを油断させるものだ。だから天と藍色と三人で慎重に動いた。改めて敵の位置を確認すると女一人しかいなかった。は、男はどこへ行ったんだ!?
周りを確認しようとした瞬間、いなくなった方が視界に映る。それも顔面ズームアップで。確か視線を逸らしたのは一秒もなかったはずだ。何故?
漆黒の瞳を近くで見れば見るほど、絶望の思想が頭に浮かぶ。
「敵意なんて向けるだけ無駄だ。」
そう言うと男は俺のつくり出した剣を素手で触った。なぜ血が出ないんだ?怖くないのか?
俺は手が震えた。男が手に力を入れると、剣は見事に砕けて結晶化した。
俺は目を白黒させた。昨日とはまるで違った。
「やめてあげなよ〜。そんな事しなくても私は死なないよ」
「知ってる。おい、お前これは忠告だ。俺を殺す前に殺されるなよ。」
男はそう言うと、ジャンプして天井から外に出た。
「あ、ちょ。タカヤ。じゃぁ、お邪魔しました〜」
と言うと女の方も男に続いていなくなった。待て!なんて言えたらどれだけ俺はかっこよかったろう。
しかし、俺の体は言うことを聞かなかった。足から崩れ落ちる。聞き慣れた二人の声が耳に心地いい。二人ともなんて言ってるか分からないや。疲れた。寝てしまおう。
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体育館裏に行くと見覚えのある顔が一人
「あーあ。ありゃ、魔力もそんな残って無いんだろうな」
「あ、リオンいたんだ?」
「あんまフラフラしてるとお前。またイズミに怒られるぞ」
「うわぁ。怖いこと言わないでくださいよ。でも、今回はマキの命令できてますから。しっかり二人の仕事記録させていただきます。」
「へー。リオンが大悪魔の言うこと聞くなんて珍しいこともあるもんね」
「そんな褒めないでくださいよ。それに、二人が殺す人数の賭けをしてたんですよ。」
「相変わらずだな。」
「それが私(わたくし)の役目ですから。まぁ、ひとまず仕事は終わので帰ります。お疲れ様でした。」
「そうね。私達も帰ろ」
「ああ、そうだな」
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