第10話 四月四-五週(後編・南視点)
遼太郎が助けに来てくれた……ッッ!?
そう思い振り返った私の目に飛び込んできたのは、ファーストフードの紙袋を目出し帽にして被った不審者だった。
私は予想外の登場に動揺し、そっと目を逸らした。
「な、なんなんだぁっ!!」
もう一度紙袋が叫ぶ。
私は思ってしまった。
『お前が何なんだ』、と。
奇しくも、いや、まったく奇しくも何ともないが、三名も同じことを思っていたようだ。
私が考えたのと同時に、同じ疑問を言葉にしていた。
「通りすがりの一般市民だっ!」
「どうみても不審者じゃねーか!!」
奇天烈な彼の言動に、私はどんどん冷静になる。
彼に対しての内心のツッコミが輩と同じだったことが、それに拍車をかける。
自分よりもパニックになっている人を見るとどんどん落ち着いていく、そんな状態だ。
「なんだこいつ」
「やっちまうか……」
注意が紙袋に逸れている。
遠目からでも、紙袋が震えているのが分かる。
そんな状態になってまで、出てきてくれた理由は……。
「そこの女ぁ、さっさと行け! 走れぇッ!!」
「っ!!」
紙袋の叫び声が聞こえ、私は弾かれたかのように走り出す。
輩達は追いかけてこない、紙袋を追っていったようだ。
私は警戒しながら少しだけペースを落とし、明るい場所に向かう。
……やっぱり、私を助けてくれたんだ。
危ないところを抜け出した安堵から、紙袋の行動を冷静に振り返る。
紙袋を被っていたのは、きっと顔を見られないようにするためだろう。
それ以外の理由だとしたら……彼は変態だ。
しばらく走って、コンビニに駆け込み、親に電話をする。
今から自転車を取りに行く気にはとてもなれない。
私は親に車で迎えに来てもらうことにした。
紙袋に輩は追いついただろうか……。
もし、紙袋が遼太郎なら、というか間違いなく遼太郎だろうが、あの輩三人が束になっても敵わないだろう。
それくらい遼太郎が強いことを、私は知っている。
私と遼太郎が疎遠になった原因も、そこにあるのだから……。
過去の追憶に浸りかけたが、今はそんなことはどうでもいい。
助けに来てくれた紙袋に思いを馳せ、心の中で感謝する。
そして、駅前には戻れないが、無事を祈る。
私のピンチに颯爽と現れた紙袋は、とてもカッコ……良くはなかったが、うん、間違いなくいい人だった。
次に遼太郎に会ったら、お礼を伝えられるだろうか。
伝えたとしても、『人違いだ』と言われてしまうだろうか。
あの姿を忘れてあげるのが感謝の形なのかもしれないが、私は今日の出来事を忘れられそうにもない。
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