Reunion-02


 

 ミラは知人つながりのパーティーへの加入で揉め、バスター登録初日に突如1人になってしまった。仲間が急に治癒術士に転向した事であぶれたんだ。


 そのパーティーは結局壊滅。悲しい結果に終わったけど、バスターは本来ならばそれほど危険な仕事。仲間を諌める事も庇う事もなかったそのパーティーにいたら、ミラも命を落としていたかもしれない。


「他に何の目的があるわけでも、義務があるわけでもない。バスターとしてやるべきと考えたことをやるまでだよ」


「そうね」


「私も賛成」


「まあ、確かにそうだけど。仕方ない、情報を仕入れに行くつもりでやってみるか」


 3人とも、シークさん達がいたお陰で出会えた最高の仲間だ。


「バスターとしての活動に明確な目標を設定して、それに向かって色々な冒険をする。それって本来あるべき姿だよね」


「ああ。それに英雄達がシークさんの事に専念できるよう、俺たちの世代がもっと強くならないとな。魔王アークドラゴンの脅威は去っても、強いモンスターはたくさんいる」


「私達は強くなるために色々教わったもんね、恩返し大作戦」


「うん。手の内を晒してくれる先輩なんて、そう多くないし」


「だから次は私達が誰かのためになる番。治癒術士やってて誰かの役に立てないなんて、不甲斐ないもん」


 かつてシークさんが応援を頼んでいると知った時、ぼくはアンナ達3人に頼み込んで、管理所からの呼びかけにすぐに応じた。初めて向かうアマナ島でシークさんと再会し、火山活動が止まらないエインダー島にも上陸した。


 魔王教徒との戦いも経験した。その結果は言葉には出来ないような結末だったけど、それからムゲン特別自治区へと入り、ナイダ高地を共に歩いた。


「英雄と一緒に旅をして、立入制限地域に入ってさ、その経験を全く活かさないなんて罰が当たる」


「前人未到とまではいかないけど、エインダー島も、ムゲン特別自治区も、新人が入れるような場所じゃない。あんな旅が出来て、ぼく達も活動の幅が広がったからね」


「チャンスには飛びつかないとね!」


「アンナはゴウンさんも来ると聞くまで渋ってたじゃない」


「いいの! 最終的に飛びついたんだから」


 封印の仕組みについては後でビアンカさんに聞いた。術者が解除するか、死なない限り解けない、と。


 聖剣バルドルには術式が刻まれ、少し細工がなされている。シークさんの分身のようなものが入っていて、この状態なら封印を維持できるらしい。


 聖剣バルドルが、シークさんを守っている事にもなる。けれど、だからこそ封印の解除が出来ないという、八方塞がりの状態でもある。ぼく達はこの状況を打破すべく活動しているんだ。


「じゃあ、次の目的地はオンドー大陸のバース共和国、メメリ市ね! さあ出発!」


「魔力を離れた所に送る装置があるって情報のやつね。眉唾と思っても先に確かめたい情報ではあるからちょうどいい」


「ゴウンさん達に会いに行くついでくらいに思っていようぜ」


「そうだね。早く目的を達成したいけど、やっぱり久しぶりに会いたいよね」





 * * * * * * * * *





 ギリングから隣町のリベラまで歩き、そこからは鉄道で西にある主都ヴィエスまで向かう。乗り換えると今度は更に西へと進み、エンリケ公国の港カインズで船に乗る。


 カインズは船の往来が頻繁で、常に人や物資が動く、シュトレイ大陸最大の商業港だ。付近の海はとても深くて、青くキラキラして見えるのは海底に砂が堆積している湾の中だけ。


 小高い丘から青黒い大海を眺めると、水平線の先まで何も見えない。


 そこから船で1週間、ようやく辿り着く距離にある南西の町が、オンドー大陸にあるバース共和国の首都、メメリ市だ。


「うわ、暑い……。陽射しで肌も装備も焼けそうよ」


「どうする? いったん宿を見つけてから動こうか」


「賛成。せめてローブを脱いで薄手の服に着替えてから動きたい」


「ミスリル製のプレートはまだ熱を吸収しない方だけど、わざわざこの格好で歩く必要ないな。宿探そうぜ」


 メメリ市はオンドー大陸の北西に位置し、北に大海が広がる。遠浅の海は青と砂浜の白のコントラストが綺麗で、リゾート地も近い。


 反面、赤道直下程ではないにしても、冷涼なジルダ出身だとやっぱり暑さが堪える。おまけに温かい海流が付近を流れるため雲が発生しやすく、湿度も高い。ぼく達にとっては苦手な条件が揃っている。


「ああだめだ、この暑さ。乾燥してるムゲン特別自治区やナイダ王国の方がマシだったよ。もうちょっと涼しい時期に一度来たいね」


「ディズ、あんたこの暑さを楽しみに来てる観光客に混じって、さりげなく爆弾発言するわね」


 石やレンガの家が多く、道は土よりも灰色の石に近い。よく整備された国内最大の町なのに、高い建物は少ない。聞くと、秋には強風が吹き荒れるので、建物は低い方が安全とのことだった。


 行き交う人々の装いも、シュトレイ大陸で見かける姿と全く違う。女の人は下着と見間違うほど薄着で、男はタンクトップや、上に何も着ていない人だっている。


 暑いなんて言った所で「だからどうした、夏だぞ?」と帰って来るのが当たり前な土地。ぼく達は肩を落としてゆっくりと宿屋を目指した。





 * * * * * * * * *





「ゴウンさん、リディカさん!」


「やあ、久しいね。よく訪ねてくれた」


「お久しぶりです! あ、もしかして……」


「ええ。今2人目がお腹の中。上の子はもう3歳よ、今日はうちの両親に預けているの」


 ゴウンさんの家は、メメリ市の繁華街を抜けた、海に近い郊外の一角にあった。緑の芝生に覆われた大きな庭、白くて広いコンクリート製の家。奥に見えるのはプール? どう捉えても豪邸だ。


 装備ではなく半袖のシャツやワンピース姿の夫妻を見ると、本当に引退したんだなという寂しさを感じる。


「ゴウンさん、髭は剃られたんですね」


「ああ、この国は暑いからな。邪魔になって剃ったんだ」


「爽やかでとても素敵です!」


「もっと褒めておいて? この人、隙あらば伸ばそうとするの。子供がチクチクして痛がるのに頬ずりするんだから」


 ゴウンさんはもみ上げから続く顎鬚がなくなり、意外にもほっそりした顔を晒している。とても爽やかでカッコいいけど、ソードガードとしては以前の方が頼もしく思えた。人の印象も場合によるんだな。


 リディカさんは少しふっくらしたかも。妊娠中ならそんなもんなのかな、以前よりももっと優しそうな雰囲気なのは、それ以上に戦いを離れた事が理由なのかもしれない。


 何はともあれ2人とも仲が良さそうでよかった。引退後、ぼくもこんな風に幸せな家庭を築く事になるんだろうか。


「さあ、ひとまずゆっくりしてくれ。シャワーもあるし、暑かったらプールに飛び込んでもいい」


「やった! あ~でも水着……」


「流石に他人の家のプールに、パンツで入る訳にもいかねえよなあ」


「男はまだいいわよ、私達なんて絶対に無理だもん」


 アンナとミラが恨めしそうにこっちを睨む。別にぼく達だってパンツで入るつもりはないんだけど。そこでゴウンさんがニッと笑い、リディカさんがソファーの近くの紙製の箱を指差した。


「君達が訪ねてくれると聞いて、一応は用意もしているんだ。身重のリディカがいるから俺達は行けないが、この時期に訪れて、若者がビーチもプールも楽しまずに去るなんて勿体ないからね」


「気に入るか分からないから派手なものは選んでいないけど、勘で選んだサイズもそんなに間違っていないと思うわ」


 そう言うと、リディカさんは箱に近づいて黄色い水着を1着持ち上げた。ハンガーに掛けられたままのそれは、およそジルダ共和国内で見かける事なんてないものだ。


 下着よりも布が少なく、胸元と腰の部分には同色のレースが施されている。


 その、なんとなく凝視しちゃいけない気がするんだけど……これで派手じゃないってどういう事なんだ?

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