【18】Volcanic island~魔王教徒・アジト決戦~
Volcanic island-01
【18】Volcanic island~魔王教徒・アジト決戦~
アマナ共和国ミスラ町。南半球のマガナン大陸から見て、真西に位置する大きな島だ。南東にはエインダー島がある。
シーク達は今回も管理所の小型船を出してもらう事になった。途中の寄港を合わせて2週程、ようやくアマナ島最東端のミスラに到着した。
「ちょっと暑いわね。こっちって冬なんじゃなかったの?」
「この緯度じゃちょっと涼しくなるかどうかだろ。案ずるな、俺達にはシークのブリザードがある」
「えー……またブリザード係」
「鉄道があって、これだけ船の中継基地として賑わっていて、4階建ての建物もあるってのに、冷房設備はねえんだな」
「だーいじょうぶ! ブリザードがあれば問題なし!」
アマナ島について2日目、おおよそこの町の事を把握したシーク達は、宿に泊まってエインダー島の地図を眺めていた。
地形は噴火と溶岩のせいでかなり変わっていると言われたが、おおよその土地勘すらない3人には重宝するものだ。
「あのー……シーク」
「なんだい」
「モウ狩りでいいんだ」
「それ以上強いアークモウが狩られた以上、モウより強いモンスターがいないからね、この島」
この島に着いた後、3人は昨日1体の「モウ」を狩っただけ。船での2週間を耐えに耐えたバルドル達は、我慢の限界だ。
この島だけに生息する牛型の獰猛なモンスター「モウ」は、自分より大きな標的を見つけると突進してくる。牛車や馬車旅はとても危ない。
そのため、ミスラ以外に栄えた町がないアマナ島であっても、最西端の小さな漁村まで鉄道が伸びている。だが、日常において脅威なのはモウくらいだ。
「ああもう! 斬り足りないって言っているのが分からないのかい? 僕達の存在意義は? 剣権は?」
「ああモウだって、あはは」
「笑い事じゃないよシーク!」
例えばウサギのような見た目の「ラビ」は、人に飼われる方が生き易いと知ったのか、人を襲わなくなりペットとして人気がある。
他の大陸や島からも離れているせいか、動物もモンスターも独自の進化を続けてきたのかもしれない。
「いいよねシーク達は。戦いがなくとも鍛錬の方法は何とでもなる。でもあの狭い船の中では武器すら振れない、つまり僕達は何も出来ていないんだ!」
「あんたらまだええよ。あたしなんかこの長さやけ、動かしてすら貰えんかったんよ」
「バスターとして、モンスター退治という本分を忘れちゃいけねえよ。なあ、ちょっと町の外に行こうぜ?」
グングニルは少し控えめに、ケルベロスはとてもストレートにモンスター退治に行こうと訴える。手入れ道具が揃っても肝心の戦いがない。新品のまま使われておらず、不満は更に溜まっていた。
「分かった分かった。今日はモンスター退治に変更でいいかな」
「いいわ。体も鈍ってるし、動かなきゃ石になりそう」
「よっしゃ! じゃあ行くか。どうせなら管理所でクエスト受けようぜ」
「出来るだけ強いモンスター頼むぜ」
「モウ以下しかねえよ、文句言うな」
武器に促され、3人は管理所へと向かう。
季節は冬だというのに、家々の花壇には南国らしい色鮮やかな花が咲いている。ヤシの木が海岸沿いに生え、ヤシの実が至る所で売られている。
昼前から酒を飲んでいるのは、きっと漁が終わった漁師達だろう。
「陽気な町に比べたら、この管理所の安定したどこでも一緒っぷり」
「そうね、なんだかいつでも何処でも帰って来たって気分になるわ」
管理所に入って職員に挨拶し、シーク達はクエストを見るために階段を上がる。どこでも造りが同じなのだから迷う事は無い。
……が、受けるクエストの中身を見て、シーク達は随分と悩んでいた。
「戦闘系のクエストが、殆ど無い……」
島の中は鉄道での移動が主流だ。町の外に出なくても、町の中に小高い山の斜面を利用した棚田がある。
少しずつ拡張した町の2重壁の内側には、草が伸び放題生えている。家畜の放牧にも困らない。
モンスターは町の人間よりも、簡単に見つかる動物や、もっと弱いモンスターを襲う。人間への被害を懸念するような事があまりなく、モンスターを倒す必要がない。
「ペットにするため、ラビを捕まえて下さい。報酬5000ゴールド……案外高いな」
「あ、あった! ラビを襲うキラーウルフを退治して下さい……3体で1万ゴールド……おいおい、ラビがそんなに大事なのかこの島」
「どうやらラビがモンスターだと認識されてないみたいだね。外と隔離された島だとモンスターの進化も違うのかな」
「あの……僕達が希望するクエストは」
「ん~、殆どなさそうだね。ああケルピー退治……1体10万ゴールド!? なんだこのクエスト、ケルピーって、どんなモンスター?」
1つぽつんと残っていたクエストの討伐対象は、シーク達が聞いたことのないモンスターだった。
「馬のようだけど、近づくと湖に引き摺り込む……。肉食で肝臓以外を全て喰らう……。馬の群れに混じっていて、不用意に触れた者の手は体表から離れなくなり、そのまま湖へ……リディカさんのノートからよ」
「なんだそれ、怖いな」
「だからこの島って馬の文化があまり育たずに、鉄道や牛車が多いのか。まあ馬もモンスターではあるけど」
「育ててきた馬じゃないと、捕まえたらケルピーだったってリスクがあるのね」
3人は触れたら湖に引き摺り込まれると聞いてゾッとする。だがバルドル達は未知のモンスターに興味津々だ。「あー戦いたいなあ」「伝説の武器が斬った事のないモンスターがいるなんて」と、恨めしそうな声で受注するように促している。
「湖までは歩いて2時間くらいか……いるか分からないけど、行くか」
「行こう! 困っている人を助けよう!」
「斬りたいだけだろ」
戦いもなく退屈だったせいか、シーク達はそのケルピー討伐を受注した。
コンクリートや石造りの四角い家々や、高い建物が並ぶ中心部を過ぎると、板と丸太で作られた家やレンガの町並みに変わる。
中心部に比べると質素な街並みは、2メーテ程しかない外壁まで続いていた。
「ホントに普段は安全なんだな」
「これを越えるってなると、ゴブリンみたいな奴か、猫くらい跳躍できるやつか」
「それがいないからこの壁の高さなんだろ」
「猫がいないだって!? それは武器の楽園だね! アークドラゴンを倒した後はこの島に住むことを提案するよ、その……僕と一緒に」
「それは名案。強いモンスターもいないから、穏やかに暮らせるね」
「おっと、『改心』の一撃。僕に穏やかな日々は必要ない。この島を早いとこ脱出して、モンスターに苦しむ村々を放浪しよう。えっと……その、僕と一緒に」
荒野に出るというのに緊張感がない。強いモンスターがいないと分かっている以上、シーク達にとってはただの散歩だ。
しかし、ケルピーについてあまり情報を集めなかった3人は、現地に着いてからひとしきり困る事になった。
「ねえ、どれが……ケルピー?」
背丈の高い草がまだらに生える平原は、いくつかの大きな川や湿地を挟み、湖へと続いている。その湖のほとりでは、すぐに馬の群れを見つける事が出来た。
だが、どれがケルピーなのか分からない。
「ケルピーがいると思う? それともいないかしら」
「加えて、何体いるか、それとも1体もいないか」
ケルピーは馬に擬態をし、体の色まで変えることが出来る。野生馬もモンスターである以上、過度に刺激をすれば人間を襲う。ケルピーと見分けるのは難しい。
「全部、馬に見えるな。どうやって……」
「あ? そんなの簡単だろ馬は何食うんだ?」
ゼスタが腕組みをして考え込むも、ケルベロスは見分け方が分かっているらしい。
「何って、草を食ってんのが見えねえのか」
「んで、ケルピーは何食うんだ? ゼスタの鞄には何が入ってる」
「肉……そっか! 肉に反応するのがケルピーか!」
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