【6】New World~海竜と戦いし者たち~
New World-01
【6】
New World~海竜と戦いし者たち~
魔術書も買えなかった魔法使いが、僅か1週間でホワイト等級昇格。そして1か月でミノタウロスを退治。更には聖剣バルドルを所持している……そんな仰天ニュースがバスターの間に広まってから更に2週間。
爽やかな風が流れるも、止めばすぐに汗ばむ季節が始まった。
ギリングの町は南西方向に草原が広がり、北方面は草がまばらで乾いた大地が広がりつつある。大河は変わらずに流れつづけ、北東の山にぶつかる雲はギリングの東にある沼地に雨を降らせる。
ギリング周辺に雨が降らない季節であっても水の心配はなく、実はこの時期が一番過ごしやすい。そんな良い時期にも関わらず、シーク達はギリングの町にはいなかった。
ひたすらクエストをこなして稼ぎ、3人はとにかく貯金に全力を注いだ。ゴウン達から戦力が上がったと判断され、ようやくギリングを離れて隣町のリベラへ出発したのだ。
街道を朝から夕方まで歩けば隣町へ行ける。しかしある程度貯金もできたシーク達は、2台の馬車で向かっていた。
「もうそろそろリベラの街並みが見えて来るぜ」
「あ、あの白い外壁かな」
「ああ、ギリングよりも大きな街だから、拠点にしているバスターも多いかもしれないな」
「とすると、クエストの取り合いは熾烈だろうね」
「どうだろうな、全く同じモンスターとも限らないぜ」
シークは地図と照らし合わせてようやく位置関係を把握したようだ。自分とビアンカを表彰してくれた町だというのに、初めて訪れるというのも変な話だが。
「アスタやノウみたいな農村が近くにないし、食べ物は高い。1泊だけしたら鉄道に乗る予定だったわね」
「ゴウンさんがそう言ってたな。シークは町を見て回りたいところだろうけど」
「大丈夫、いつでも来れるよ」
「ご心配なく。きっとシークは迷子になってしまうから、ウロウロする暇は与えない方がいい」
バルドルがまるでシークの主のように言って聞かせる。これではどっちが持ち主なのか分からない。
「最近バルドルって俺の事を田舎者呼ばわりするよね。人すら住んでいない森の中に300年いたバルドルに言われると、なんだか納得いかないな」
「僕の事を『田舎物』扱いするとはね。これでも僕は色んな町を見て来たというのに」
「はいはい、300歳超えのバルドルおじいちゃんの昔話が始まるかな」
「むーっ! ねえ聞いておくれよ、シークが最近僕の事を年寄り扱いするんだ」
どっちもどっちだと笑うゼスタとビアンカの声が幌の中に響き渡る中、馬車はリベラの町の門へと辿り着く。鉄製の大きな門をくぐってすぐの所にある馬車用の停車場で下車し、後に続いているゴウン達の到着を待った。
「この辺りはギリングとそんなに変わらないように見えるけど」
「人の流れは西側の方に集中しているんだよ。鉄道の駅もあるし、ギリング方面なんて、リベラの人からすれば田舎だぜ?」
そんな田舎から更に2時間も歩くド田舎に住んでいたシークは、いかにアスタが辺境の村だったのかと思い知る。
南の砂漠や西の山越えをするバスターが立ち寄る程度、それでもシークにとっては比較対象がギリングしかなかった。
これまでは。
ギリングすら田舎町に思えるリベラでは、とても1人で歩くなんて事は出来そうにない。
「ゴウンさん達の馬車も着いたわね」
「俺、みんなからはぐれないようにする」
「勇者の聖剣を持っているバスターとは思えない発言だな」
ゴウン達と合流し、一行は駅の方へと向かって歩き出す。
キョロキョロと落ち着きがないシークの手はビアンカとゼスタがしっかりと繋ぐ。綺麗な石畳とレンガ造りの家が立ち並ぶ街並みの中、3人は絶対に迷子にならない、させないという強い意志をもって歩きだした。
* * * * * * * * *
「えっと……」
「さあ、さあ! あなたがシーク・イグニスタさん、それにビアンカ・ユレイナスさん! ようこそリベラへ!」
「あ、はい……」
ゴウン達に案内されながら、3人は強い決意を持って歩き出したはずだった。はずだったのだが……リベラのバスター管理所に入り、休憩を取っていた時に突然それは起きた。
ギリングからこの町に移動したバスターが数人おり、見つかるとシークの名がその場でたちまち広まってしまった。そこからリベラ町長の耳にまで入ってしまったのだ。
以前感謝状を贈ってくれた町長は、シークの情報逐一確認していた。バスター管理所にシークとビアンカが立ち寄ったなら、必ず知らせるようにと通達していたのだ。
あっという間に町長の使いの者が現れ、シーク達は揃って町の会館へと招待……いや、半ば強引に連行された。石造りの大きな建物の中に入ると、初めて会うリベラの町長が赤い絨毯の上で出迎えていた。
50代くらいだろうか。腹回りが気になる町長は、ニコニコと微笑みながら一行を奥へと案内し、大きく長いテーブルに7人を着かせた。
「我が町の民を救出して下さったシーク殿、ビアンカ殿、それに同行の皆様に是非とも我々の感謝の意を表したく。今宵はささやかではございますが食事会を開きたく思っておりまして」
「は、はい……あの、こんなに盛大な歓迎をいただけるほどの事はしていないのですが……」
「いえいえ、大切な町民を救って下さいました。しかもバスターとして最速昇格を果たし、聖剣バルドルを操るとなれば、是非もてなしをしたいと思っておったのです! さ、すぐに準備が出来ますので」
「あの、俺達はただこの子達と一緒にいるだけで、この場には相応しくないのですが」
同じパーティーにいるゼスタはともかく、ゴウン達は一緒に行動しているだけで、招待を受ける理由がないと思っていた。そんなゴウン達にも、町長はニッコリと笑う。
「存じ上げておりますよ、スタイナー夫妻、カイトスター・マイス殿、レイダー・ヨーク殿。世界に100人といないシルバーバスターであり、数々の賞状を授与された一流の皆さんを、知らないはずはありません」
「いや、しかし……シルバーバスターだからと言っても」
「シーク殿とビアンカ殿の指導もしていると聞いております。おまけにゼスタ殿もシーク殿とパーティーを組み、早速ホワイト等級に昇格。この場に相応しくないのはむしろ私かもしれません、わっはっは!」
「いや、まあ、歓迎してくれるというのなら有難い。シーク、君達のお陰だな」
「お、俺もパーティーが一緒ってだけで誘っていただいて、その……有難うございます」
ひとしきり挨拶をした後、シーク達は簡単にリベラの町の概要などを説明された。その間、急な来訪にも関わらず豪華な料理が目の前に並べられる。
オニオンスープ、カリカリのパン、ベーコンとじゃがいものサラダ、その後には海魚のムニエルと羊のステーキも出るのだという。
「さあ、沢山召し上がって下さい」
「いただきます!」
「私このオニオンスープ好き! とっても美味しい! 臭くなくてアッサリ」
「みんな美味しそうに食べているけれど、僕は気持ちだけ受け取っておくよ、町長さん、どうもね」
バルドルは特に羨ましく思っていない。バルドルにとって、食事は必要のないものであって、興味がないわけではないが特に憧れるものでもない。
「バルドル殿、気が利かず申し訳ない。バルドル様に何かご用意したいのですが」
「ん~、じゃあちょっと斬り応えがありそうなモンスターの2、3匹でも用意してくれると嬉しい」
「ちょ、ちょっとバルドル、そういうのは今はナシ」
「代わりにと言って僕をステーキ用のナイフの代わりにしたりは止めておくれよ」
「聞いてる?」
町長はバルドルとシークのやり取りに笑いながらも、笑顔を少し押さえて自身のナイフとフォークを置いた。
「バルドルさんのご要望に応える事は出来ますよ。……実は、みなさんにお願いがありまして」
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