第247話 戦勝パーティーへの招待状

 エスサミネ王国との戦争が終わって1ヶ月もすると、会戦に参加した貴族や帰還兵が海路で進み、王都エシャンハシルや、ここジクスにも現れ始める。コウ達はあまり気にしなかったが、この世界では異例の早さだった。なぜならこの世界の文明レベルにおいて海とは天然の城壁であり、兵員の輸送に使うなど論外だったからだ。

 だが、リューミナ王国は大陸にありながら、元々海運によって国力を伸ばした国である。それ故に兵の帰還にも船が使われていた。もっともそれは絶対的な制海権をリューミナ王国が握っているという証でもある。


 コウ達はレッドドラゴンの解体をしてもらった後、更にマンティコア、ワイバーン、コカトリスなどを解体してもらった。そしてその間のんびりと街で過ごしていた。特に依頼を受けるわけでもなく、街を散策したり、時々解体の様子を見に行ったり、解体された物を収納したり、又は新しく解体する物を出したりといった具合である。約束通りレッドドラゴンの肉をショガンに渡し、料理の研究も行なってもらっている。

 冒険者ギルドに行った時に依頼ボードを見たりもするのだが、最早コウ達にとって興味を引くような依頼は無かった。もっとも他の者に言わせれば、コウ達の興味を引くような依頼がそんなにちょくちょくあるようだったら、国が亡ぶと言われるだろう。


 そんな折、オーロラが予想したように王宮から戦勝パーティーの招待状が届く。しかも、ちゃんとした王宮に勤める使者が持ってきた。招待状自体もペラペラのチケット一枚というわけではなく、装飾も施されきちんと王家の封蠟もしてあるものだ。冒険者として招かれるのは自分達だけではないが、どれもAランクとのこと。貴族は男爵以上のみが招かれるパーティーだった。


「これを見ると、自分達が如何にこの国で影響力を持ち始めているかがわかるな」


「欲望のままに動きすぎたからですよ。目立たないようにするには幾らでも方法があったはずです」


 チクリとユキが嫌味を言う。


「ふむ。だが、それだと一般レベルの生活を送らねばならないだろう。お世辞にもこの世界の一般レベルの生活水準は高いとは言えないからな。生活水準を快適にすれば嫌でも目立つだろう。どうせ目立つのなら、中途半端なものより大きく目立った方が良い。そうすれば多少のことは驚かれなくなるからな」


 実際最初は装備どころか顔だけでも驚かれたのに、今や殆どの者が自分達を見て驚いたりはしない。時々店の料理を買い占めたりもしているが、特に不審に思われることもない。最早慣れたのか、それとも諦めたのか、オーロラやジェイクが何かを言ってくることもない。


「それは、まあ、そうですが……」


 ユキが煮え切らない返事をする。確かに曲がりなりにも調査と銘打った以上色々思うところもあるのだろう。だが自分の人生は長い間連邦軍のために捧げてきたのだ、ここで数十年遊んだところで罰は当たらないと思う。もっとも帰る手段が見つかったら、すぐに帰るつもりではある。だが現実は厳しい。未だにこれといった手がかりはない。召喚魔法というものは存在するし、神や悪魔といった者も存在するらしいが、全く異世界の存在というわけではなく、この世界に付属する亜空間の住人のようだった。

 ここで亜空間と世界についての関係を説明した方が良いだろう。世界つまり宇宙はよく風船に例えられる。その風船を歪め、ある地点とある地点を短距離で結ぶのがワープ。そして、風船の一部を膨らませ突起を作り、風船と隔絶させる、若しくは元々風船にくっ付いていながらも違う空間。それが亜空間だ。あくまで亜空間はその風船に付属する空間であって、世界そのものではない。

 そして異世界とは違う風船のことだ。人類の科学技術は空間を歪め、亜空間を作り出すことは可能にしていたが、全く違った世界、つまり風船から違う風船に渡る技術は持っていなかった。そしてこの世界は元の世界とは全く違った異世界なのである。

 もしかしてその手の研究船が巻き込まれていたら、観測事項により色々な研究が進んだかもしれないが、軍事行動にそのような船を連れていけるはずもなく、得られるのは一般的な偵察任務で得られる情報だけである。帰ることができる可能性は低い。もう一度超新星爆発に巻き込まれる気もない。なので、半分諦めているというのが正直なところだった。


「それはそうと、初めての招待状が来て参加するパーティーだよな。一応この間コウに体験はさせてもらったけどさ……あれって、本当にあんな風にするのかな?」


 どことなく疑い深げにサラが尋ねてくる。ちょっとした嫌がらせが根に持たれたのだろうか?


「事前情報だとそう的外れでもないはずだ。勿論細かい違いはあるだろうが、誤差の範囲内だろう。Aランクのみとはいえ、冒険者も参加するんだ。少しは砕けたパーティーになるかもしれないな」


「それにしても冒険者ってのは国家の干渉を嫌うって聞いてたけど、そんなに参加するものなのかな」


「しない者もいるだろうが、大抵の者はするだろう。最早リューミナ王国の機嫌を損ねて逃げ込める国なんて、この大陸には無いんだから。Aランクの冒険者が結託して反抗すれば脅威になるだろうが、そんな無駄なことはしないだろうし。

 冒険者ギルドは一応中立を謳ってるけど、全く国の影響を避けられるわけじゃない。それはオーロラを見ればよく分かるだろう。そのギルドが単なる戦闘力だけのはねっかえりをAランクに認定なんかする訳がない。高ランクの依頼は貴族や王族が出すことが多いんだから。高ランクの冒険者はそれなりに時世を読めるはずだよ。

 そして、このパーティーにAランクの冒険者を呼ぶことによって、リューミナ王国は直接的ではないにしても、多くの高ランクの冒険者を影響下に置いたと内外に示すことができる」


 全く食えない王様だとコウは思う。普通なら主立った貴族を招いてパーティーを開くのが普通だろう。要するにお祝いなのだ。それに、幾つも意味を持たせるなど、普通はできるものではない。


「それでわたくし達はどう行動すればよろしいんですの?」


「別に何も考える必要は無いさ。この前と違って個人的に招待されたわけじゃなし、適当に楽しめばいい。その程度の余興ぐらいあるだろう。どうせほかの冒険者たちも似たようなもんだろうよ。極端な話、面従腹背な奴もいるだろうな。それも見越して大勢招待してるんだろうから」


 エスサミネ王国攻防戦を見る限り、Aランク冒険者は正に一騎当千の力を持つ。だが同時に個人の力では限界もある。招待にどう応じるかでリューミナ王国はその冒険者が国にどういう感情を持っているのかを知ることができる。そして冒険者達を通じてリューミナ王国の余力を見せつけることができる。恐らく実際は度重なる戦争で、戦力はともかく、財政的には火の車だろう。だがそれを悟らせては反乱の原因になりかねない。それを未然に防げるのなら戦勝パーティーの一つや二つ安いものだろう。本当に食えない王様だ、とコウは思った。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る