第233話 ダンジョンを作ろう1

 ユマール騎馬王国の王都に着き、ダンジョンを作ろうとした所の土地を買おうとしたところ、買うことができなかった。使用目的とか外国人とかいう理由で断られたのではなく、不動産を扱う店自体が無かった。正確には無くは無いのだが、建築がメインで、建てた建物を貸す店があるだけだった。土地は基本無料らしい。というか土地は基本全部国王のものなのだが、管理する者が居なくて、建てたもの勝ちという感じだ。建物が建って初めて土地として認識される。そんな感じだった。王都も計画性もなく勝手に住人が建物を建てているので、かなり雑多な感じだ。建物同士の間隔が広いので、通るのに困ることは少ないが、所謂大通りと呼ばれるような道や、真っ直ぐな道は無い。

 良く言えば攻めにくい街とも言えるが、ただ単に無計画に建物を建てた結果である。ダンジョンを作ろうと思ってやってきた町が、ダンジョンのようだった。位置信号を受け取ることも出ず、マップすら碌に無く、ここの住人はどうやって暮らしているのだろうかと不思議に思うぐらいだ。城すらも目立つほどの高さは無いのでマップが無いと見失ってしまうだろう。

 久々に感じたカルチャーショックだった。一応命を失うような危険なダンジョンにするつもりは無いが、将来はどうなるか分からない。それ故に何かの許可が欲しいのだが、欲しい土地の広さを話すと。誰もがその辺りに適当に作れば、と言うだけである。ちなみに欲しい広さは3m×3mの部屋が縦横30個入るだけの広さ、ちょっと余裕を見て100m×100mの土地だ。街で情報収集しても、らちが明かないので冒険者ギルドへと向かう。


 冒険者ギルドは2階建ての建物だった。ここでは珍しい、石造りのきちんとした建物だ。

 中に入ると造りは他の冒険者ギルドと変わらないのだが、全体的に寂れた感じを受ける。その理由の最大の理由が老人が多いことだろう。交換所の者はある程度経験を積まないと鑑定ができないので、老人が多いのは分かるのだが、ここは事務員だけでなく、女性がなる花形の職業と言われている受付嬢も老婆だった。少なくともこの星の人間の年齢で60歳は超えていると思われる。


「おやまあ、珍しい恰好をした冒険者の方ですねぇ。他国の方ですかねぇ。依頼の受注ですか? それとも素材の換金ですか? なんにせよゆっくりとしていってくださいねぇ」


 受付の老婆がニッコリとほほ笑んで声を掛けてくる。他の人達も自分達に注意を向けてくる。というかここには冒険者らしきものは自分達しかいない。


「えーっと。冒険者ギルドなんですよね」


 看板も見たし、受付嬢?の言葉から間違いないと思われるのだが、思わずコウは聞いてしまった。


「ええ、そうですよ。他国から来られた方は驚かれることが多いですねぇ。他の所は賑やかですからねぇ」


「差し支えなければ、理由を聞かせてもらえませんか?」


 コウは老婆にそう尋ねる。


「構いませんよ。深い理由なんて無いのですからねぇ。単純にここのものは皆遊牧が主でしょう。草原を巡って旅をして、時にはモンスターに出会い退治して、とそういった暮らしを送っているんですよ。要するに皆冒険者のようなものなんですよ。なので、わざわざここに登録する者が殆どいないのです。

 ここも正式にはこの国の冒険者ギルドなんですが、事実上はリューミナ王国の冒険者ギルドの出張所扱いですからねぇ。それもモンスターの素材買取専門に近いですねぇ。放牧している牛や馬、羊なんかは商業ギルドの方に卸しますから。ここまで旅されてきたのならお分かりになるでしょうけど、この国には冒険するような場所もありませんしねぇ。ちなみにここの職員の半数以上がリューミナ王国の出身ですよ。私もそうです。

 ただ、この国の人たちは良く言えば大らか、悪く言えば国というのに無頓着で、長く住んでいたらいつの間にかユマール騎馬王国の人間として扱われるようになってしまいました。まあ、知り合いも多くできましたし、この歳でもうよそに移ろうとは思いませんから、私としてはありがたいことなんですが、他の国を知ってるものとしてはこれで良いのか、と思う時はありますねぇ」


 そう言って老婆は苦笑する。自分もなんて言って良いのか返答に困る……


「……えっと、事情はよく分かりました。実はダンジョンを作ろうと思ってまして、土地を買いたいのですが……どうすればいいんでしょうか?」


「まあまあ、ダンジョンをお作りになるのですか。そんな物をお作りになられるとは、あなた様方は高名な冒険者様でいらっしゃるのでしょうねぇ。建物の地下とかでなければお好きな所に作られてはいかがですか。どのようなダンジョンかによりますが、モンスターがあふれ出たりするようなことが無いのでしたら、この街の近くに作っていただきたいですねぇ。少しはここのギルドも賑やかになるかもしれません」


 まるで子供が遊び場を作るのを楽しみにしているような感じでそう言われる。あながち間違ってはいないが……それにしても割と自分達の顔は知られるようになっている。実際ロレイン王国では十分顔が知られていた。

 それなのにギルドの職員すら知らないなんて……何か騙されているんだろうか。しかし、目の前の老婆にそんな様子は見られない。


「一応、人が死ぬような罠は仕掛けないつもりですが、お宝は置くつもりですし、将来どんな変化が起きるか分かりませんから、流石にどなたかの許可をもらって、最低限の管理はしてもらいたいんですが……」


「それもそうですねぇ。それでは国王陛下の許可をもらって、ここのギルドで管理しましょうか。ただ、最低限と言っても管理をする以上は大体でも構いませんから概要を教えてもらわなければ流石に困りますねぇ」


「それは構いませんよ。なんなら皆様のアイデアも出していただけるのでしたら取り入れましょうか」


 コウはそう老婆に提案する。


「それは嬉しがるものが何人もいるでしょうねぇ。正直ここの勤務は暇でして」


 それはそうだろう。目の前の老婆以外、仕事しているような者はいない。うとうとと眠っている者もいる。会社なら、どう考えても人件費で赤字の支店だ。


「ちなみに、自分で言うのもなんですが、自分達はそれなりに名が知られていると思ったのですが、ここでは誰も知らないんですかね」

 何か理由があるのか、それとも騙そうとしているのか、見極めるためにコウはあえて尋ねる。

 そうすると老婆は目を細めて自分達を見る。


「そう言えば、重要なパーティーとかいう情報が昔来ていたような……ダン爺さん! ほれ起きな! ギルドマスター宛の注意事項になんかあったじゃろう」


「なんじゃもう。人が気分よう眠っておったのに……」


 どうやら居眠りをしていた人間がギルドマスターだったらしい……


「寝ぼけてないで、仕事だよ。あれだよ、あれ。あの通達事項を覚えとらんかね」


「そんな昔のことなんぞ、覚えてないわい。じゃが、通達事項は棚の中にある。そう言えば、奇妙な装備をした冒険者パーティーとかいうのはあったのう」


 そう言ってギルドマスターは、棚の中から資料をあさり始める。


「おお! あったあった。お前さん方“幸運の羽”というCランクパーティーじゃな。ランクの割には随分豪華な装備のようじゃが」


「いえ、自分達はもうAランクなのですが……」


「なんじゃと……おお! もっと新しい通達にあったわい。なになに? 絶対敵対しないこと、失礼な態度や、不愉快に思わせるような言動を慎むこと……怒っとらんよな……」


 ギルドマスターが心配げにこちらを見てくる。ふむ、情報は発信しただけではダメな場合もあるらしい。心に刻んでおこうとコウは思った。 

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