第185話 蜂蜜漬けのある場所

 リゾーリに戻ると、早速マンモスビーの蜂蜜を交換所に卸す。予定通り量は5tだ。50金貨を貰う。少し驚かれたが、逆に言うと少しだけだった。適切な量かどうかは分からないが、少なくとも注意を受けるような量ではなかったようだ。


 久し振りに普通の依頼をこなし、冒険心を満足させたコウ達は、ここに来た主要目的の一つとなったフルーツの蜂蜜漬けを探すことにする。街を歩くと様々なフルーツが売られている。


「この街でモモスの蜂蜜漬けを大量に売っている所は知りませんか? 他のフルーツでも良いですが」


 情報料代わりに焼いたフルーツを買う。焼いたフルーツというのはここで初めて食べるが、甘さが凝縮された感じで美味い。それに焦げた部分の微妙な苦みが、良いアクセントになっている。


「大量に? 普通に個人で食べる分だったら、店に売っているやつを買えばいいんじゃないか?」


 大量の意味を自分と意味を取り違えたらしく、店主はそう答える。確かにその辺りの店でも、買えるのは買えるが、おいてあるのは店全体で樽1つか2つとかそういうレベルだ。自分の望むレベルの量じゃない。


「そうではなくて、100樽とかそういう単位で買いたいんですよ」


「兄ちゃん達行商人なのかい? その量になると、商業ギルドでも行かないと無理じゃないかな。大店の店に行けば交易用の色々なフルーツのはちみつ漬けがあるけど、その量を個人に販売はしないだろうしなあ。何かつてがあるか、領主様の紹介とかあれば話は別なんだろうが」


 店主はそう言って少し怪訝そうな顔をする。何に使うんだと不審に思っているような感じだ。変なことに使う気はないのだが、確かに個人で買う量としては多いかもしれない。だが今度いつここに来るか分からないし、下手したら二度と来ないかもしれない。そう思うと100樽でも少ないと思えるほどだ。買えませんと言われて、はいそうですか、と諦めるわけにはいかない。一旦宿に戻り考え直すことにする。


 宿のリビングでくつろぎながら、購入方法を考える。


「とりあえずなんでも良いから、アイデアは無いかね?」


 コウはこれと言ってアイデアが出なかったため、他の3人に意見を求める。


「うーん。地道に回っても個人売買じゃあ、街全体で100樽有るか無いかぐらいだろうしなあ。時間をかけて入荷する分全部買っていったら、それなりに買えるんだろうけど、顰蹙ひんしゅくも買いそうだよな」


「王道的に領主の依頼をこなして、紹介状を貰うというのが良いように思えますけど、問題は、ここの領主が紹介状をくれるような依頼が出るかどうかですわよね」


「買えないものは作るか奪うしかありませんが、奪うのは論外ですし、ダミーの商会を作って購入するか、私達に販売するものを作る組織を作った方が確実かと思われます。時間的に言えば既存の商会を購入したほうが早いのでしょうが、一般に売りに出されるようなものではないようです。冒険者をやめて商人になる人も少なからずいるみたいですから、冒険者ギルドに行けば、その辺りの情報を得られるかもしれません。残念ながら詳細なデータについてはデータベースにありませんでした」


 三者三様の意見が出るが、どれも決定打に欠ける。強いて言えばユキの提案した商会の購入だろうが、商会を買う以上はそこの従業員に対する責任が出てくるし、真面目に仕事はしたくない。かと言って目的のものを購入した後放り出すのも、ちょっと世間体が悪いような気がする。


「手に入れるための方法は、時間をかけて地道に購入するか、お偉いさんの紹介状を貰えるような依頼をこなすか、自分たちで組織を作る、若しくは買うか、か……。後、奪うというのもあったな……。ん? そうだ、奪えばすぐ手に入るな。商品をじっくり選べないのが難点だが」


 コウはポンと手を打ってそう言う。


「奪うって、どこから奪うのさ。奪おうと思えばどこからでも奪えるんだろうけど……」


「わたくしとしても、今更無法者にはなりたくありませんわ。証拠を残さずに倉庫から奪うことはできると思いますけど・・・」


「コウは非合法なことはしませんよ。グレーゾーンには足を踏み入れますが……。ここまで現地政府に気を使った以上、よほどのことが無い限り、それをふいにするようなことはしないと思います」


 流石はユキ。付き合いが長いだけに自分のことをよく分かっている。


「ユキの言うとおりだ。今更現地政府に照らし合わせて非合法なことはしない。多分……。

無い所からは奪えない。それで、蜂蜜漬けが大量にある所はどこだと思う?」


「ええっと。店の倉庫だろう。後は作ってるところ。それ以外だと船かなあ」


「その通り。そして、積み荷を積んだ船を襲う奴が居るだろう」


「あ! なるほど海賊か」


 コウの言葉に、サラがなるほどという顔をする。他の2人も納得したようだ。


「今まで盗賊や海賊は襲われた時に倒すだけだったが、こちらから襲っても構わないだろう。今まで美味しくない、ということで見逃していただけだからな」


 そう、盗賊や海賊は美味しくない。実際に肉を食べたわけじゃないので、本当の意味で美味しくないかどうかは分からないが、流石にオークはともかく、人間を食べようとは思わない。

 それに今の自分たちにとってよほど大きな盗賊団でもない限り、報酬的にも美味しくない。さらわれた人間がいるなら、助けてやろうかな、くらいは思うが、探してまで救い出そうとまでは思っていない。そんなことをしてたらきりがないからだ。

 だが、相手が自分達の欲しいものを持っているのなら話は別だ。この港町から出る船の主要な交易品の一つがフルーツの蜂蜜漬けである以上、この付近の海賊の根城にはそれがあるはずだ。

 もしかしたら持ってない海賊もいるかもしれないが、別に一カ所しか襲ってはいけないという法律があるわけではない。寧ろ多くの海賊を襲った方が世のため人の為だ。


 カイヤ海の海賊たちを襲った悪夢が、フラメイア大陸を挟んで反対側にあるクノア海でも起ころうとしていた。


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