第8話 私はできる


 たぶん、怯えた私に気がついたんだろうね。

 仁堂くん、私に笑いかけてくれた。

 とはいっても、そういう感覚が伝わっただけ。


 イカの顔に笑顔って、なかなか難しい。

 私も微笑み返したいけど、感覚としては微笑んでいるんだけど、果たしてどんな顔になっているのやら。

 鏡が欲しいわ。

 女子が鏡を失うなんて、ありえないよね、まったくもー。


 てか、そもそも私の顔はどこよ?

 鏡があっても、どこを見れでいいのよ?

 私の、伝説級の美貌はどこにいったのよ。


 目はあるけど、間が開きすぎているわね。

 目の間に鼻はないわ。

 この溜息つくときの、水が吹き出る筒が鼻なのかなぁ。

 しかも、これ、感覚的にはうなじに生えているのよ。

 耳はない。

 でも、耳っぽいヒレはある。

 口は足に囲まれていて、見せることができないっていうか……。


 口を仁堂くんに見せようと思ったら、足を全て開いて、その奥を見せなければいけない。

 これって、スカートを捲りあげて、足を思いっきり開くみたいなポーズ。

 想像するだけで、顔が赤くなっちゃう。

 絶対にそんなコト、私からはできない。


 で、さらに気がついたんだけど、仁堂くんが足を失った時、その血は青かった。

 ということは、上気したら顔、赤くならないで青くなるんだよね、きっと。


 「きゃっ!」ときて、そして顔色ブルー。

 ないわー。

 これはないわー。

 これじゃ、どうやっても仁堂くんを誘惑できない。

 ただでさえ、ナイスバデーがなくなって、どう誘惑していいかがわからないのに。


 もー、いい。

 しばらくは、仁堂くんとプラトニックな愛を育むんだ。

 いつかは仁堂くんに濃厚に愛して欲しいけど、今はもう仕方ない。

 きれいな流し目と、女子っぽい態度だけで勝負するしかない。


 私はできる。

 私はできる。

 私はできる。

 よしっ、おっけーっ!!

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