聖女と暗殺者、死者を蘇らせる
「そろそろ勇者を殺す準備を始めましょうか」
「準備ですか？」
「ええ。勇者の聖剣を引き剥がす準備です」
「確か前に手から切り落としても再生するからそれを抑える闇属性の魔法を練習するとかなんとか」
「そのつもりだったのですが、案外簡単に弱点が見つかりまして」
「それはなんでしょう？」
「簡単です。それは愛ですよ愛！素晴らしいと思いませんか？」
声高々に愛と叫んだ聖女に少し驚く。
「どういうことですか？理屈を説明してください」
「神が彼に聖剣を与え、挑ませた試練は愛だったということです」
「いまいち話が見えてきません。試練ですか？」
「ええ。聖王国では一般的に聖剣を与えられたものにはそれぞれの使命と神からの試練が与えられるとされています。それが彼は愛だったということですよ」
「はぁ....。ということは愛が彼には必要だと？」
「そういうことになります。愛があれば聖剣は手から離れます。ミラの記憶を一部覗いた時に聖剣を床に置いていましたので間違いありません。なのでここで彼女を使いましょう」
「まさか？」
「そこまさかですよ。【死者の再生】しかも私のは強力ですから1日は自我を持って生活できます」
「生き返った聖騎士が我々に殺された記憶を持っているというパターンはあり得ないのですか？」
「安心してください。彼女は死ぬ1週間前までの記憶しか保持できていません。これがこの魔法の都合のいいところでもあるんです」
「そういうことならやりましょう。どこに勇者を呼び出しますか？」
「前と同じ森では怪しまれますし、今回はダンジョンにしましょう」
「わかりました。勇者は私から誘い出しておきましょう」
こうして着々と勇者を殺す準備が進んでいた。
【死者の再生】
ずずずという音ともに聖騎士ミラが蘇る。
「私は何を？ティーナさんじゃありませんの。こんなところで何をなさってますの？」
「私とミラはどうやってゲイランを堕とすかを一緒に考えてた。そしたらミラが勝手に寝始めた」
「それは悪かったですわ。でどこまで話は進みましたの？どうも記憶が曖昧なみたいで」
「ミラがゲイランに告白するというところまでは話した」
「そんなティーナはいいんですの？」
「私はミラの気持ちには負けるからいい。今から案内するから急いでゲイランのところまで行こう」
「わ、わかりましたわ！私まだ心の整理ができてませんのに....」
「ミラはいつもそう言ってチャンスを逃してきた
。今回こそはね？」
「ありがとうございます！やっぱりティーナは優しいですの！」
「あっゲイランの様子が少しおかしいかもだけど気にしないでね。色々あって落ち込んでるだけだから」
「そうなんですの？なら尚更慰めてあげなきゃですわね」
「はい。頑張ってください」
気合を入れる死体の姿を見て私は思わず微笑ましく思ってしまう。死してなお愛があるというのは素晴らしいことだ。
「ラナさんなんだ？いいものが見れるって」
「最近噂になってるんですよ。死んだ人に会えるって」
「ラナさん、気を遣ってくれるのは嬉しいけど流石にそれは信憑性に欠けるだろ」
そんなことをいう勇者の目の前に死んだはずのミラが姿を表す。
「ゲイラン！」
「ミラ！？どうしてここに？」
「ゲイランこそどうしたんですの？死んだ人間が生き返ったみたいな顔をして」
私は辻褄を合わせる為勇者の耳元でこっそりと嘘を教える。
ここに出てくる霊は自分が生きているつもりなのだと。
「そうか、そうだったのか....。ラナさんありがとう。この恩は一生忘れないよ」
「いえいえ。凹んでいる勇者様を元気づけるのも仕事のうちですからね」
勇者と聖騎士は感動の再開を果たした。
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