第20話「対峙」

「あんたたち! MF何か持ち出して、いったい、何の用なの!? 」


 レナはウィルから再びヘッドセットを借り受けると、アレスに設置されたスピーカーを使って目の前の3機に向かって叫んだ。


「あんたたちも、腐っても賞金稼ぎでしょう!? 私にどんな用があるかは知らないけれど、ここが宇宙港だってこと、忘れてない!? ここでトラブルでも起こしたら、アンタたちは賞金稼ぎの認可を取り下げられて、逆に賞金首になるのよ! 」

≪まぁまぁ、そう目くじら立てるなって、姉ちゃんよ≫


 レナの言葉に、なだめるように答えるアヴィドの声が聞こえてきたのは、アンテナ付きのアイアンドールからだった。


≪別に、俺たちはケンカしに来たわけじゃねぇんだ。今、出て行ってやるから、待ってな≫


 アヴィドがそう告げた直後、3機のアイアンドールのコックピットハッチが開かれ、毒蛇(ヴィーペラ)団の3人組が姿を現した。

 アンテナ付きの機体からはアヴィドが、接近戦仕様の機体からはプシャルドが、支援仕様の機体からはトントが姿を現した。


「ケンカ売りに来たってんじゃないなら、どうしてこんな騒ぎを起こしたのよ? 」

「姉さんに話が合ったんだが、居場所が分からなくってな。少々急ぎで、アンタにすぐ会える方法を取らせてもらったのさ」


 怪訝そうな顔をしたレナに、アヴィドは筋肉のたっぷりと突いた太い腕を分厚い胸筋の前で組みながら、不敵な笑みを浮かべる。


「何よ、その、話って」

「ふへへ、なぁに、安心しな、姉さん。俺たちの相手しろとかは言わねえからよ」


 怪訝(けげん)そうな顔をしたレナに、プシャルドが下品な笑みを向けたが、レナは不快そうな表情を見せただけでそれを無視する。

 こういう手合いにイチイチつきあっていたらキリがないと分かっているからだ。


「情報さ。それも、耳寄りな話だぜ」

「情報? いったい、何の? 」

「キッドについてのことさ」


 レナはアヴィドのその言葉を聞いて、ちらりとウィルの方へ視線を送っていた。

 ウィルは、真剣な目で、食い入る様にアヴィドの方を見つめている。

 キッドについての情報と聞いて、無関係ではいられなくなったのだろう。

 それから、慌てて視線をアヴィドの方へと戻す。


「どんな情報よ? それと、いくらかしら? 」

「いいや、金はいらねぇさ」


 疑り深そうな視線を向けるレナに、アヴィドは肩をすくめて見せた。


「なんせ、そんなにいい情報じゃねぇ」

「いいから、さっさと言いなさいよ」

「せっかちだな。……ま、いいさ、教えてやる」


 もったいぶるアヴィドにレナがイラついた様な視線を向けると、アヴィドはようやく、その情報を話し始めた。


「実はな、もうすぐこの星に、宙賊のでかい集団がやってくるんだ。マレフィクス宙賊団、姉さんも知っているだろう? 」

「……ええ。知っているわ」

「そのマレフィクス宙賊団の目的は、かつて自分たちを裏切り、姿を消したキッド。まんまと宙賊団から逃げ出して今まで姿をくらましていたキッドを、見せしめにすることさ」


 アヴィドのその言葉に、レナは、自身の拳を白くなるほどきつく握りしめた。

 唐突に突きつけられた事態は、レナがこれまでに遭遇してきたどんなトラブルよりも深刻なものだった。


 マレフィクス宙賊団は、数ある宙賊の中でも規模の大きな集団として知られている。

 MFや戦闘機はもちろん、大型の軍艦である巡洋艦クラスの戦闘艦も数隻保有している、下手をすれば人類連合宇宙軍の艦隊並みの戦力を誇る宙賊たちだった。


 そして、そのマレフィクス宙賊団は、かつて、伝説的な宙賊である「キッド」が所属していたことでも知られている。


 そして、キッドはマレフィクス宙賊団から突然、姿を消した。

 宙賊団の掟(おきて)では「勝手に足ぬけする」ことはご法度であり、行方をくらませていたキッドがサンセットにいるという情報をどこかでつかんだマレフィクス宙賊団は、その掟(おきて)を行使するためにやって来たのだ。


「それで? アンタたちは、マレフィクス宙賊団が来るっていう情報を、どうして私にわざわざ教えてくれるの? 」

「なぁに、大したことじゃねぇ。同業のよしみってやつさ。姉さんがこのままキッドを追っかけて、マレフィクス宙賊団の奴らに殺されちまったんじゃ、寝覚めが悪いからな」

「あんたたちは、どうするの、これから? あんたたちだって、キッドを追いかけてたんでしょう? 」

「ああ、そうだ。だがな、俺たちは、降りることにしたぜ」


 アヴィドはそう言って肩をすくめて見せる。


「アンタたち……、手を引く、ってことは、このまま逃げ出すってこと? 」


 そんな毒蛇(ヴィーペラ)団の3人組を、レナは、怒りと軽蔑(けいべつ)の入り混じった視線で睨みつけた。


「散々、偉そうな態度をとっていたくせに、本当に強い敵が来たらそうやって逃げ出すの? ここに住んでいる大勢の人が、巻き込まれるかもって思わないわけ? 」

「そう言われてもな、姉ちゃん」


 だが、アヴィドは少しも罪悪感など抱(いだ)いていない様子で言う。


「10機くらいだった俺たちだけでも相手になってやるが、奴らは少なくとも20や30はMFを出してくるだろう。多勢に無勢、どうしようもない。勝てない戦いをわざわざ挑む趣味は俺たちにはねぇ。キッドの賞金は惜しいし、この星の住人は気の毒だが、この命を捨てるほどの義理もねぇのさ」

「い、命あっての物種(ものだね)、なんだな」

「ああ、トントの言うとおりだ。俺たちは慈善事業で賞金稼ぎやってるわけじゃねぇし、ここで命張る理由がねぇ」


 毒蛇(ヴィーペラ)団の腹は、すでに決まっている様だった。


「そう。……ご忠告、どうも。あんたたちは、勝手にしなさい! 」

「そうさせてもらうさ」


 アヴィドはそう言うと、2人の子分に手で合図をし、コックピットの中へと姿を消した。

 毒蛇(ヴィーペラ)団の3機はそのまま、自分たちの宇宙船に向かって歩き去って行く。

 このまま、マレフィクス団がやって来ないうちにこの星から逃げ出すつもりの様だった。

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