聖獣の系譜
松長良樹
序章
海藻がつくり出す幻想的な海の森は海中の生態系を支えている。森が育む神秘の世界には深海魚が
蒼い光が照らし出す海底世界。その岩肌の奥深く入り組んだ迷路には、まるであのクトゥルフ神話の忌まわしい神々がいつ出現してもおかしくはなさそうだ。そんな風に暗い夜の底に沈んだ世界は様々な幻想を浮かび上がらせる。
その中にまるで周囲と調和しないものが静かに横たわっていた。
その異物に興味を示した深海魚が餌と勘違いして歯を立てたが、異様な弾力と反発力によって歯が立たず、やがて諦めてどこかに泳いで行ってしまった。
それは男の水死体のようで頬は蒼白く、死んだように目を閉じていた。長髪が緩い海流に揺れていた。ダークブルー一色の世界でそれは異質なオーラを発散していた。
それは磯巾着が頬を這った時に薄っすらと目を開いた。磯巾着を払いのけ男は大量の泡を口から放出させた。まるで母体の赤ん坊が身悶えするように男は体をくねらせ、
初めは視点が定まりもしなかった双眼に見る見る生気が蘇えってゆき、純粋な生存本能だけが男の身体を突き抜けてはしった。
数奇な運命に
そうだ、一介の人間であった彼はある時生まれ変わったのだ。彼は鋭敏な戦士であり、同時に強固な意志を持ち合わせた獣人である。
望月丈は一瞬海面を仰ぎ見ると、海上からの淡い光を頼りに力強く泳ぎ始めた。
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