婚約破棄にため息を

フォウ

20周年パーティー


 豪華絢爛な王城の大広間を解放してのパーティー。

 普段はお互いに限りある予算を取り合って舌戦を繰り返す文系貴族と軍系貴族が朗らかに笑い合い。

 勢力争いに明け暮れる上位貴族達も互いの健闘を称え合う。

 今日は本当にめでたい日なのだ。

 国王即位20周年のパーティー。

 それは滅亡の危機にあったファイン王国の復興を周辺諸国に高らかに喧伝する意味があるからだ。

 想えば、苦労の連続だった。


 25年前この国は強力な伝染病で多くの人々が命を失い荒廃を極めた。

 他国からもたらされたこの流行り病はファイン王国を含む中原地方一帯で猛威をふるった。

 当時、辺境地方で生活していた俺は、この世界に感染予防の知識と石鹸を提供し、周辺地域の防疫に努めた。

 結果、感染者数を他の地方の半分以下の被害に抑え込んだと自負しているが、それを知ったファイン王国の先王により防疫を担当する大臣に抜擢され。

 やっと国内が落ち着いたと思ったら、ファイン王国の噂を聞き付けた周辺国からの難民、難民、難民!

 2次流行に関わるからと口を出せば、すぐさま移民対策部長官を兼任することになり。

 食料不足を相談されて、個人事業であった漁師や猟師を組合組織化すればなんとかなると返して、……そこから俺のドラ○もん化が加速した!

 あれが欲しい! これをどうすれば! と訊いてくる貴族達をひたすら助けていたら、最後の方は農業大臣、商工大臣、防疫大臣、移民対策部長官を兼任していて……。

 そのうち、


『お前、明日から宰相ね?』


 などとふざけた任命をされ、その直後に第一王女と辺境伯子息の婚約破棄騒動が勃発して、宰相から王配へとスライド。

 ご都合主義のサクセスストーリーとしか思えないような短期間での立身出世。


 まあ、その裏にはこの国の特性がある。

 この国には法衣貴族と言う、国から報酬を貰って働く貴族が居らず、貴族は全て領地貴族なのだ。

 王国政府はその土地を保証し、土地間のやり取りをスムーズにする潤滑剤。

 だから国情が安定しているなら代官に任せて、中央で働く貴族達も、不安定な時期が続いていたあの頃は自分達の領地を優先的に手当てしたかったのだ。

 日本の室町時代と酷似した政治体系だな。

 室町幕府は将軍の領地が少ないせいで衰退したが、王家の直轄地が広いファイン王国では上手く回っていた。

 それでも流行病から始まった国難に戦国時代突入は秒読みで、地方で暮らしていた俺もヤバイ空気を肌で感じていた。


 そんな情勢下、日本で農業系の専門学校に通いつつ、異世界物の漫画ばかり読んでいた転移者の俺がいたわけだが。

 病気が流行り始めた頃は、世話になっていた村の農地改革を経て、その領地の領主に役人見習い名目で便利屋をしていた時期だった。

 それが王宮に遣いに行って、ロックオンされた。 

 そこから王宮の便利屋になり……。

 

 後は、ひたすら目の前の事案解決に努力していたら、国王になっていた。

 それからも奇跡ような綱渡りで、何か1つでも失敗していれば、公開処刑エンドが視界の隅にチラついていた。

 しかし、即位20年のパーティーを開けるまでに復興した今日この頃は、もはや引退まで現状維持で十分なほどに功績を上げた。

 後は、王太子である第二王子スタイリーの成人と王太子妃ベストリーチェの婚姻まで5年頑張れば、田舎で隠居生活が待っている。


「ベストリーチェ!

 私は貴様との婚約を破棄し、その非道を弾劾する!」


 !!!


 広間に大きく響く聞き覚えのある声が、これまた聞き覚えのある名前を叫び、思わず后と顔を見合わせる。

 嫌な予感しかしない宣言を聞かなかったことにしたいが、


「無理でしょ」


 王妃様は許さない。

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