第167話 起床の少女
アーネ暴走事件から一夜が明け、それから更に12時間程が経過し再度陽が軽く沈み始めてきた頃。
「…今日も起きないか」
夕陽が差し、茜色に染め上げられた保健室の中で俺は一人呟く。
現在、保健室内にはアーネとシエル、そして俺の3人がいる。
ルーカスは昼過ぎに目を覚まし、オスカーは目を覚ましていないが王族の使用人が引き取りに来たため、それぞれもう既に保健室にはいない。
「——ぅ、ん……アルト…さん?」
「!!、アーネ!!」
今日も保健室に泊まるかと覚悟を決めたとき、ベッドで眠っていたアーネが目を覚ました。
「体とかどこかおかしなところはないか?」
「特に…大丈夫、みたいです」
「そうか。それは良かった」
彼女はその体を起こし、自身の体の動きと魔力の流れを確認する。大事が無かったようで何よりだ。
「「…」」
だが、問題はその後だった。
俺の言葉を最後に保健室内を沈黙が満たす。俺とアーネがお互いに相手の様子を窺っているためだ。
何分、こうして彼女と一対一で落ち着いて喋るのは中々に久しぶりなのだ。以前は仲の良かった分、緊張するのは当たり前だろう。
「「あ、あの、」」
勇気を振り絞って喋りかけようとすると、丁度彼女も同じことを考えていたらしく完全に被ってしまった。
「ア、アーネからでいいぞ」
「い、いえ、アルトさんからで…」
「い、いや、アーネから…」
相手と被ったことを悟った俺たちはお互いに相手に話題の主導権を譲り、一向に話が進まない。
「ぷ、」
そんな不毛な譲り合いがしばらく続いた後、アーネが小さく噴き出した。
「ふ、はは、ははは」
「あはははははは!!」
それを皮切りに笑いが伝播していき、俺とアーネはお互いに大きく笑い合った。
異様に静かだった保健室内に2人分の笑い声が響く。
その笑いの伝播は数分間続き、お互いに落ち着いた後、
「久しぶりだな、アーネ」
「はい、お久しぶりです。アルトさん」
俺たちはお互いに笑顔で、久しぶりの挨拶を交わしたのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「まずはアーネ、色々とすまなかった。聖王国でのことだけでなく、その前にしたことも。改めて謝らせてくれ」
互いに挨拶を交わした後、俺はすぐにアーネに対して深く頭を下げた。
聖王国では、アーネ達から全力で逃げたり、手加減なしの威圧を使ったり、何も言わずに学園へ帰らせたりとまあまあ迷惑をかけた。
まあ、それに比にならないくらいに聖王国へ向かう以前にも多大なる迷惑をかけているのだが。
「いえいえ、聖王国では私も悪かったですし、アルトさんが謝ることじゃないですよ。それ以前のことはもう許してますし——アルトさんの言おうとしていたことって、この事ですか?」
「いや、謝罪とは別でアーネと2人で話し合いたいと思ってな。都合の良い日とかを聞きたかったんだ。アーネさえ良ければ、別にこの後でもいいんだが」
現段階でも実質的に仲直りしているようなものだが、まあ一度くらいは腰を据えて話し合っておいた方がいいだろう。
そんな誘いに対し、アーネは口元に手を当てて考える素振りを見せた。
「話し合い……そうですね。それであれば私も色々と準備をしたいので、1週間後の正午に生徒会室ではどうですか?私の話したい事はそこで話します」
暫しの沈黙の後、アーネはそう提案をした。
アーネの言う準備が何かは分からないが、1週間後には学園は長期休みに入っているため時間的な余裕がある。確かに彼女の言う通りにした方が良いかも知れない。
「分かった。1週間後の正午に生徒会室で話し合おう。…ところで、アーネはこの後どうするんだ?このまま保健室にもう一泊するか?それとも寮に戻るか?寮に戻るなら送っていくが」
「あー……寮に戻ります。付き添いを宜しくお願いします」
「分かった。」
そんなやり取りの後、俺はアーネを寮まで送り届けた。その道中では何度か言葉を交わしたものの、やはりどこかお互いに白々しさがあった。
しかし、それは時間が解決してくれることだろう。呑気に俺はそんなことを考えながら、久しぶりに自分の部屋へ戻ったのだった。
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