第137話 任務

「シエルとアルト君には、ワンド聖王国側から直々に招待があったからな。2人だけでは心配だし、他の生徒会役員も連れて行こうと思ったわけだ」


「む、アルトも招待を受けていたのか」


俺たちが招集された理由について、アーレットは何事でもないようにそう告げる。

それを受け、イヴェルは少し納得したような顔をした。


いや、シエルが招集されることは確かに予想出来ていた。だがそういうことではなく、


「…それを俺に伝えなかった理由はなんですか?」


俺が聞きたいのはこっちの理由だ。

そもそも、俺がアーレットから話を受けたのは一昨日のことだ。流石にその時点において、これだけのメンバーで向かうことが決まってなかったとは思えない。


「ああ、そのことか。多分だが、それを言ったら君は来なかっただろう?こう言ってはなんだが、最近の君らはどこかぎこちない。これを機に仲直りでもするといい。人生の先輩からの優しい心遣いだ」


それに対してアーレットは全く悪びれもせず、あっけらかんとそう言い放った。


全部分かってた上での判断かよ…こいつ…


「……そんな余計な気遣いが原因で、生徒が心に深い傷を負う可能性もあると思うのですが。というか、俺一人をギクシャクしてる集団に混ぜ込むとか、どう考えても俺だけがハブられるでしょう。心に深い傷を負ったらどうしてくれるんですか」


「確かに、君の言うことにも一理ある。そうだな…仮に、今回の招集が原因で君が精神的に病んでしまい通常の生活を送れなくなってしまった場合、それは間違いなく私の責任だ。それなら私が責任を持って、君を養ってやろうじゃないか。私の一生をかけて君の世話をしてやろう。これならどうだ?」


「「「———」」」


「!!?」 


アーレットがそう言い放った瞬間、俺はどこからか激しい寒気に襲われた。部屋の温度も急に下がった気がする。


「ははは、冗談だよ。だからそんな怖い顔をするな。3人とも」


その後すぐにアーレットが笑って言うと、その寒気はピタリと治り、部屋の雰囲気も正常に戻っていった。な、なんだったんだ…?


「さて、他に質問はないか?無いのなら、聖王国まで私の魔法で送るので一箇所に集まってくれ。———それとアルト君。少しいいか?」


「?、はい?」


聖王国へ旅立つ直前。アーレットに呼ばれた俺は、生徒会の面々とは少し離れた場所に移動する。


「どうかしましたか?」


「少し君に頼みたいことがあってな。……アイラ皇女殿下についてだ」


「頼みたいこと、ですか。それにアイラ皇女殿下?」


「ああ。一般には周知されていないが数日前、アイラ皇女殿下が何者かに誘拐された。そして、それと同じ日にオスカーも失踪した。未だその2人は見つかっておらず、現在も捜索が続けられているのだが………君は驚かないのだな」


「いえ、驚き過ぎて声が出なかっただけです」


嘘だ。

今、アーレットから告げられた内容は小説で書いていた内容と一致する。


ここ数日セインは学校を休んでいたし、オスカーも学校に来ていなかった。まあ何かしらのイベントが起きたのだろうと思っていたが、やはりアイラ関係のイベントだったか。


このイベントは簡単に言えば、セインのことを妬んでいるオスカーが実の妹であるアイラを人質に取り、セインに対して王位継承権をかけた勝負を挑むというものだ。もちろん、その勝負の内容はオスカーにとって非常に有利なものに設定されている。


しかし、自らを慕ってくれている妹をセインが見捨てるはずもなくセインはその戦いに挑む。その後、色々あってセインは無事オスカーに勝利する——という流れなのだが、この誘拐事件の裏にはある組織が関与している。


「オスカーの件は分からないが、アイラの件についてはほぼ確実に聖王国が関与している。それの調査を君には頼みたい」


アーレットはいつになく真剣な表情で言う。


実際彼女のその推測は正しく、今回のイベントの裏には聖王国が関与している。


聖王国側の重鎮がアイラを誘拐するようオスカーを唆し、その2人を聖王国へ誘致したのだ。聖王国側から見れば、実質的にアイラとオスカー2人の王族を人質として取った形になる。つまるところ、オスカーは聖王国に利用されているだけってことになるな。


「それを何故俺に?」


依頼を受けるかはともかくとして、取り敢えず疑問に思ったことをアーレットへ尋ねる。


この内容は国家の最重要機密であるはずだ。王子と皇女が行方不明になったなど、一般に知られれば混乱はまず避けられない。


「今回のような隠密行動には君が最適だと思ったからだ。因みに、この内容は生徒会には伝えていない」


「それは何故?」


「今回私が頼みたいのはあくまでも調査であり、武力による解決ではない。真面目な彼らが今の話を聞けば、無駄に奮起してしまい空回りしてしまう可能性があると考えた。まあ君が必要だと思うなら、彼らに話しても構わないが」


…なるほど。

確かに真面目な生徒会のメンバーならアーレットの想像通りに空回りしてもおかしくはないか———あれ、俺いま不真面目って言われたか?


「…そうですか。分かりました。一応、やってみます」


一瞬だけ考えた後、俺はアーレットにそう返事をした。


まあ何もしなくてもセインが1人で全てを解決するので、俺の出る幕はないだろうが。適当に情報くらいは集めてみるか。


「そうか、ありがとう。ああ、それと——」


「?」


話が終わった後、さっさと移動をしようとする俺へアーレットが口を開いた。


「もし君が本当に精神的に病んでしまったその時は——私が一生をかけて面倒みてやることも吝かではない。安心して行ってきたまえ」


「…冗談として受け取っておきます」


「ああ、それでいいさ」


俺の返答にアーレットは満足気に頷いた。

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