第98話 お出かけ(デート?)
さてさて、そのアーネとのデート?の当日。
「はてさて、こんなところでわざわざ待ち合わせをする必要はあるのだろうか」
俺は今、王都で待ち合わせの定番とされる猫の銅像の前でアーネの到着を待っている。
「というか、毎日顔を合わせてるんだけどな」
当たり前だが、入学式から今日を迎えるまでの間には普通に授業があった。
その学園の昼休みの時間、アーネは必ず俺の元へ昼食を持ってやってきていた。俺が教室にいても外にいても、屋上にいても。
始めこそ彼女はなんで一箇所に居ないんですか〜とか言っていたが、遂に昨日は私から逃げられると思わないで下さいね、と言っていた。アーネちゃんレーダー恐るべし。
まあ、どこまで追跡できるのかを面白がった俺も悪いのだが。明日からは教室......は嫌だから屋上に固定するか。
「アルトさ〜ん!遅れてすみませ〜ん!」
そんなことを考えていると、正面からアーネが小走りで駆け寄ってきた。
「お、おう」
「?、本当にアルトさんですか?いつものアルトさんなら少し待ったぞ、とか言いそうなのに。」
「失礼な。でも少し待ったぞ」
「ほら!」
駆け寄ってきたアーネは、いつものアーネと違った。いや確かにアーネではあるのだが。
その見た目がなんというんだろう、おめかしをしている。昔にもこんなことがあったなぁとも思うが、あの頃の彼女の格好は子供が少し背伸びしたような不釣り合い感が否めなかった。
しかし今は違う。化粧は必要最低限に抑え、彼女自身の素材の良さを引き出している。
洋服は冬らしく茶色のコートに白ニット、黒い少し長めのスカート、頭には白い帽子をつけていた。
まあ一言で言えば、めちゃくちゃ似合っていた。
「...あー、その、なんだ。似合ってるぞ」
「え、ええっと、あ、ありがとうございます...」
それを素直に褒めると、アーネは顔を赤くして俯いてしまった。声も若干尻すぼみだ。
「...いつもは褒めろ褒めろうるさいのに、いざ褒めたらそうなるのか」
「う、うるさいです!」
そんな感じでアーネとのお出かけ (デート)はスタートした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「アルトさん!こんなのはどうですか?」
「いいんじゃないか?」
「アルトさん!これはどうですか?」
「そっちも捨てがたいな」
「アルトさん!こんなのもどうですか?」
「正直微妙かな」
「よし、これにします」
「なんでだ」
アーネとのお出かけが始まってから小1時間。俺たちはとある洋服屋に来ていた。
お察しの通り、その洋服屋内では現在アーネによるファッションショーが行われている。
それ付き合うこと自体は別によかった。むしろ、彼女のファッション七変化を見るのは意外と楽しかった。だが、
「アルトさん甘いですね〜」
勝ち誇ったように笑うアーネの持つ買い物カゴの中には、俺の好みの洋服が積まれている。そう、俺の好みの洋服だけが。
異性の服装について、自分の好みがバレるのは恥ずかしい。そんな考えの元、俺はアーネの質問に対し彼女がどんな格好であっても同様の反応を返していた。
だがアーネは何を根拠にしているかは知らないが、的確に俺の好みの洋服のみをカゴに入れていったのだ。
「そんなことをしても、アーネちゃんレーダーの前では無力です」
ここでもアーネちゃんレーダー、またお前か。といか、アーネちゃんレーダー精度良すぎるだろ。もう少し別の使い方をすれば、世界を救える気がするんだが。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あー、楽しかったです!アルトさんとこうやってデートをするのがずっと夢だったんですよ!」
自身の絡めた両手を大きく上へ突き出し、伸びをしながらアーネは言った。
洋服のショッピングを始めとして、俺たちはカフェやら本屋やら魔道具店など王都の色々なところを巡り気がつけば陽はもうかなり傾いていた。
「え?そうなのか?前にもアルクターレで出かけただろう」
「あのときはセインさんも一緒だったじゃないですか!アルトさんと2人では初めてです!」
「いや、カイナミダンジョ... 」
「あれはデートじゃありません!」
「ははは、そうだな」
「むー、アルトさん分かって言ってますね!」
「悪い悪い」
頬を膨らませて抗議をしてきたアーネに、俺は軽く笑いながら謝罪をする。
何というか、アーネは面白い反応が返ってくるからつい適当なことを言っちゃうんだよな。
「もう、アルトさんなんて知りません!」
「ごめんって」
するとアーネは腕を組み、そっぽを向いてしまった。そんな彼女へもう一度謝罪をする。まあそれでも後ろをついてきてくれている辺り、本気で怒っているわけではないみたいだが。
「言葉だけの謝罪で私が納得する訳———わぁ!」
そっぽを向き、怒った演技を続けようとしたアーネは突如驚きの声を上げた。
その彼女の眼前には、夕焼けに照らされた王都全域の風景が広がっている。
「とても綺麗...ですね」
「ああ、そうだろう。俺のお気に入りの場所だ」
アーネの言葉に同意する。
この場所は学園の入試を受ける直前に王都の図書館に篭りきりだった頃。気分転換を兼ねて王都内を散歩していたときに見つけた場所だ。
見晴らしが良く王都を一望できる絶景スポットであるのに、人の姿はあまり多くない。俗に言う穴場スポットという奴だ。
「そこは、君の方が綺麗だよ...とか言うんですよ!」
「誰が言うか、そんな台詞」
冗談めかして言うアーネの頭へ、俺は軽くチョップをする。
「あー、痛いです〜、暴力反対です〜」
するとアーネは頭を両手で抑え、そんな事を言ってきた。痛い訳ないだろ。
「まあ、なんだ、その、あれだ。アーネは俺と同じ学園の生徒で、俺の後輩なんだ」
「...?そうですね?」
そう話を切り出すと、アーネは首をきょとんと傾げた。俺の真意をアーネちゃんレーダーは読み取ってくれていないようだ。
あー、こういう時こそ機能して欲しいのだが。肝心なところでは使えないレーダーだ。
「あー、なんだ。だからその、今日みたいに俺と出掛けたいなら、そのときは気軽に誘ってくれ。俺と一緒に出掛けることは夢なんかじゃない。もっと身近にある現実だ」
「~~~~~~~!!」
「ちょ、ア、アーネ!?」
照れ隠しのため頭を軽く掻きつつそう伝えると、アーネは黙ったままその目から涙を流していた。
「へ?え、い、いや、これはですね、アルトさんが急にらしくないこと言うから、お、驚いちゃっただけで...」
それに気がついたアーネは、自身の服の袖で必死にその涙を拭う。
「しょ、しょうがないですね。アルトさんがそこまで私とデートをしたいなら、私が誘ってあげようじゃないですか」
「ああ、そうだな。助かる」
「じゃ、じゃあ、取り敢えず、毎月の第一土曜日は、一緒に出かけるようにしましょう」
「ああ、そのくらいなら問題ない」
彼女にしては控えめなその提案を受け入れる。万が一にでも断られることを恐れたのだろうか。まあ、俺からしてもそのくらいの頻度が丁度いい。
「あ、あと、お昼も一緒に食べましょう」
「それは約束しなくてもアーネが勝手に来るだろ」
「か、勝手にとはなんですか!勝手にとは!というか、分かってるなら色んな場所に移動するのやめてもらっていいですか!?」
そのひどい物言いに、アーネはそう切り返した。いつも通りの彼女に戻ったようだ。
「まあそうだな。そのうんたらかんたらレーダーの精度も恐ろしいほど分かったし、来週からは屋上にいることにする」
「アーネちゃんレーダーです!っていうか、え、ほ、本当ですか!?」
「ああ」
「そう言っておいて、地下とかに逃げる作戦とかではなく?」
「おい」
俺を何だと思ってるんだこの娘は。失礼にも程があるだろう。
「まあ私のアーネちゃんレーダーにかかれば地下にいようが姿が見えなかろうが、全く関係ないですけどね!」
アーネは腕を組んで、自慢するように言う。まじかよ。やっぱりアーネちゃんレーダー強すぎだろ。
「まあ、言いたいことはそれだけだ。そろそろいい時間だし帰るぞ」
「はい!」
俺が学園へ歩き出すと、アーネはそう元気に返事をして隣へと走ってきた。
「ところで集合は現地だったが、解散はどうするんだ?ここで解散か?」
「何言ってるんですか!現地解散だと味気ないじゃないですか。ちゃんと私を寮まで送ってください!」
「そういうものか...」
そんな会話を繰り広げつつ、何事もなくアーネを寮に送り届け———られたら良かったのだが。
その道中。
「おや、アルトじゃないか」
「あ、本当だ。やっほー、アルト君。ってそっちの女の子は確か...」
買い物帰りだろうか、その両手に大きな袋を持ったイヴェルとシエルの2人に遭遇した。
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