第6章 先輩と後輩と二年生
第94話 VS.人間
エルフの里から森へ戻ると、里へ入る前と同じ場所に出た。出入り口は固定なのか。
唯一、入ったときと異なっていることといえば———
「ひーふーみーよー...ざっと30人ってところか。意外と集まったな」
俺の出た地点——つまりはエルフの里の出入り口が、数十人の人間に囲まれてることくらいか。
「お、やっと出てきたっスね。お兄さん」
「お前は...情報屋の」
「お、覚えててくれたんスか。光栄っス。なんせ、エルフの里へ通じる人に覚えて貰ってるんスからね〜」
すると正面から、情報屋の男が姿を見せた。
今回の件の首謀者はこいつだろう。よくこんな人数を集められたな。
「はて、なんのことやら」
「惚けても無駄っスよ。お兄さんが森の真ん中で消えるところも、何もないところから現れるところもこの目で見てるんスから」
この男は俺とオリアがエルフの里へ入るところを見てくれていたようだ。
それで里への入り口は分かったものの、その開け方が分からないといったところか。まあ入口すら自力で見つけられない奴らに開けるはずもない。
「お兄さんが素直にエルフの里へ案内してくれれば、我々も何もしないっス」
「無理だ、と言ったら?」
「少し、痛い目を見てもらうっス」
情報屋の男が指を鳴らすと、森の中からぞろぞろと柄の悪い男達が俺を取り囲むようにその姿を見せた。
「おやおや、これは大所帯で。お迎えご苦労様です。あんな汚い場所で過ごしている割には、礼儀を弁えているようで」
「いやいや、貴方をお迎えするならこれくらいは当たり前っス。なんせ、貴方は金のなる木を持っているんスから」
適当な嫌味に情報屋の男は笑顔でそう返す。
金のなる木、ねぇ...
その間にも周りの男達は、エルフの情報を待ちきれないのかジリジリと距離を詰め始める。やれやれ、まだ獣人の方が忍耐力あるぞ。
「おっと、もうみんな待ちきれないみたいっスね。じゃあ最後の質問っス。我々に、エルフの情報を提供してくれるっスか?」
「あー、遠慮するよ。お前達に教えても無駄だろうし。———なぁ、獣人?」
「は?それはどういう.......ッ!!」
やっと情報屋の男は気がついたようだ。
森の中から聞こえる、何かが高速で向かってくるような音に。まあ、今更気が付いてももう遅いのだが。
その次の瞬間には、森の中から数十人の獣人が飛び出してきた。
「多分、お前らはここで死ぬ。だから話す意味はない。まあ、自分が今まで行ってきたことの報いを受けるんだな」
「き、貴様ァァァァ!!」
「おいおい、キャラを忘れてるぞ。最期まで演じきれよ。じゃあ俺は帰るから、後は勝手にやってくれ」
「はい、ありがとうございます。こんな機会を設けてもらって」
そう返事をしたのは、亜人の森で出会ったライオンの獣人——レオである。
彼らと別れる直前、俺は彼らに以下のことを伝えた。
俺は協力することはできないが、チャンスを与えることはできること。
1週間後を目処に戦闘の準備をしておくこと。
それまで人間狩りをしないこと、あくまでも準備に最善を尽くすこと。
そして、俺の声をよく覚えておくこと。
亜人の森に入った当初から、あの情報屋が後をつけていることは分かっていた。
すぐに倒しても良かったのだが、それでは根本的な解決にはならない。だからわざとエルフの里へ入るところを見せ、俺を捕獲するための協力者を募らせた。どうせこの協力者達もろくな連中ではないだろう。
こいつらを一箇所に集めたところで、獣人達に処理をさせる。するとどうだろうか。俺は楽をすることができ、獣人達は親や友人の仇を討つことができる。そして人間からはゴミがいなくなる。一石三鳥だ。
「気にするな。俺が面倒ごとを省きたかっただけだ」
「そうですか。そうだとしても、この恩は一生忘れません」
俺はレオへ気にしないよう伝えるが、彼は恭しくその頭を下げた。
うむ......なんだかやりにくい。
「ま、まぁこいつらを殲滅すればここに入ってくる人間もかなり減るだろう。これだけの人間が一気に消息不明になるんだ。余程の馬鹿、或いは自殺志願者以外は怖くて近づけないだろさ。更に言えば、この森はうちの王国の領土じゃない。つまり、国の軍とかが立ち入ることはないだろうから、まあ、なんだ。元気にやってくれ」
「は、はい!本当にありがとうございました!」
そうして俺は、後方から流れる断末魔の叫びを聞きながら亜人の森を後にした。
その後、あの冒険者や獣人達がどうなったのかは知らなかったし、さして興味もなかった。
俺の知っていることといえば、亜人の森がエンドロールの領主によって立入禁止区域に指定されたことや、それでも獣人やエルフを狩ろうと森へ入る者も一定数おり、そのどれもが森へ入ったっきり消息不明になっていることくらいだ。
どうして、そんなことを知っているのかって?それは———
「さて、アルト君。君が行ってきたであろうエンドロールと亜人の森は今、こんなことになっているようだが。なにか心当たりはあるか?」
「全く、微塵も、これっぽっちも無いですね」
学園長ことアーレットが、それらを懇切丁寧に教えてくれたからだ。
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