第56話 試験当日

時は流れ、王都へ着いてから約3ヶ月の時間が経過した。今日は学園の入学試験当日だ。


「おはよう、アルト君」


「ああ、おはようセイン。遂に今日だな」


「そうだね。お互い頑張ろう」


「ああ、俺たちなら大丈夫だ」


そんな会話を交わし、身支度を整えた俺とセインは3ヶ月の間お世話になった宿を後にした。



試験までのこの3ヶ月間は図書館で見つけた学園の筆記試験の過去問を解くのと、知識の再確認をすることがほとんどだった。


筆記試験の過去問を閲覧できたのは良いことだったと思うが、その一方で剣術や魔法に関しては軽い素振りや魔力の操作程度のことしか出来ていないのため、正直不安が残る。


しかしセインには圧倒的な才能が、俺には十数年間積み重ねた努力がある。きっとなんとかなるだろう。


学園についた俺たちを出迎えたのは、そこの門へと続く長蛇の列だった。受験生はここに並んで受付を行うらしい。その列へ従って進んでいくと、3ヶ月前に見た巨大な門から受験の受付へと案内された。


受付では自分の名前と年齢の記入、及び身分証明書の提示が求められた。それらの記入が終わると担当者から番号の記載されたプレートを渡され、それに魔力を込めるように指示された。言われたようにプレートに魔力を込めると、プレートには迷彩模様が浮かび上がった。


話を聞くと、これは個人の持つ魔力の質によって浮き上がる模様らしい。その模様は人によって千差万別であり本人確認に用いられる、前世でいう指紋みたいなもののようだ。


それらの受付は3分程で終了した。

俺に少し遅れ、セインが受付を出てくる。


「待たせてごめん。それにしても凄い人だね」


「気にするな。流石、王国の名門の学園といったところだな」


校舎の方へ目を向けると、そこには千を優に超える受験者達が校舎前の敷地で待機をしていた。その待機場所へ向かう途中、セインの持っているあるものに気がついた。


「セイン。その赤い紙は?」


「え?ああ、名前を言ったら学園長の推薦だから持っておけって...」


「なるほど」


そんなシステムもあったなと俺は思い出す。

確かその赤い紙を持っていると、何かの試験を免除されるのだが.......なんだったかは忘れた。


俺たちが受付を終わらせてから30分も経つと、学園内にはさらに多くの受験生が集まっていた。


それから更に20分後が経過した。長蛇の列は徐々に解消され、列の最後の受験生が学園内に入ると重厚な音と共に学園の門が閉じられた。受験生の受付は終わった。

つまり、もうすぐ試験が始まると言うことだ。受験生の間には少しばかりの緊張が走る。


それから間も無く、校舎の目の前に設置された壇上に1人の女性が出現した。

真っ白な長い髪を靡かせた背の高い女性——グレース剣魔学園、学園長アーレット=ホウロウだ。


アーレットは拡声器のような魔道具を取り出し、受験生へ向かい喋り始める。


「あー、よし、声は届いているな。おはよう、受験者諸君。私はこの学園の学園長をしているアーレット=ホウロウだ。本日、入学希望者として入学試験を受けに来た人数は実に8074名。本来であれば、受験生全員の力を学園の教職員全員で評価した上で選抜を行いたいが、受験者数から分かるように時間も人手も足りない。そこで毎年のことではあるが、学園の入試に入る前に受験生諸君には選定試験というものを受けてもらう。この選定試験を突破した者のみが本試験である、剣術、魔法、筆記、それぞれの試験を受けることができる。尚、受験票と共に赤い紙をもらった者は、私が直々にこの学園へと推薦した者だ。その者たちについては選定試験を免除する。この話が終わった後、私のところへ来るといい。選定試験はかなり厳しい内容になるだろうが、本試験の会場で君達と会えることを心から祈っている。では、選定試験の試験官代表に代わるので試験の内容をよく聞くように。」


あー、忘れてた!

そうだそうだ、選定試験か。そんなのもあったような気がする。


いや、大切な試験について忘れていたことに関しては弁明したい。この試験はセインの特別感を演出したくて作った試験であるし、セインはそもそもこの試験を受けない。


そのため、記憶が薄いのもある程度仕方ない気がする。というか、どんな試験だっけ。

記憶の底の方を必死に漁っていると、その手に持った赤い紙を見つめるセインの姿が目に映った。


「取り敢えずセインは選定試験は受けなくてもいいのか。また、本試験の会場で会おう」


「いいのかな...僕だけこんなズルみたいなこと...」


セインは赤い紙から、周りの受験生へ目を移して言う。彼は自身が選定試験を免除されたことをズルだと思っているみたいだ。


「いやいや、セインは自分の実力であの学園長を認めさせたわけだし、それ自体、選定試験を突破することの何百倍も難しいぞ?あと、セインみたいな猛者が先に省かれることで選定試験の合格者の枠も増えているだろうし、むしろセインに参加されちゃうと合格者の枠が実質的に減ることになるだろ。そんな思い詰めなくていい、セインは堂々と学園長のところに行ってればいいんだよ」


「そ、そっか...ありがとうアルト君。選定試験、頑張ってね!」


少しだけ元気になった様子のセインはそう言うと、学園長が消えていった校舎の方へと向かっていった。


確か、学園長の推薦者はセインを含めて5人だったはずだ。

セインを含めたその5人は1つの部屋に集められ、学園長を交えて自己紹介などをしながら選定試験の終了を待つことになる。その部屋に集まった人間はもれなく全員がキャラの濃い人物であるため、部屋の中は少しピリッとした雰囲気で包まれたりするのだが…それは今の俺には関係ない話か。


受験生の集団から推薦者が離れた後、学園長からバトンを渡された50代くらいの男性が壇上へ上がった。


「えー、先程学園長から紹介に預かった、選定試験の試験官代表のナイオール=サインズだ。これより選定試験の概要を説明する。選定試験は各5kmの4つのコースについて、それらを走破するまでの合計時間を競う試験だ。その合計時間の短い者から順に合格とする。また試験の特性上、受験生は4つのグループに分けられ、同時に出発してもらうことになるが、詳しい話は各グループの担当から説明があるだろう。ここで伝えておきたいのは合格者の定員とその男女比だ。本試験での合格者の定員は400人となっている。また男女差を考慮するため、合格者の男女比は受験者の男女比と同じになるようにする。今年でいえば受験者約8000人のうち、約5000人が男、3000人が女であるため、合格者400人のうち、男性は250人、女性は150人となる。ここまで何か質問はあるか?」


サインズと名乗った中年の男は、淡々と選定試験の説明を進める。選定試験の内容を全く思い出せなかった俺は、その話を真面目に聞いていた。……マジで記憶にないな。


まあ詳しいルールはともかくとして、選定試験の受験者約8000人に対し、合格者はわずか400人。その割合は5%と非常に狭き門であることが分かる。厳しい試験になりそうだ。


「無いようなら早速グループ分けを行う。受験番号が0001から2000の者はAと書かれた所へ。2001から4000の者はBへ。4001から6000はCへ。6001から8074のものはDへそれぞれ移動するように」


誰からも質問の無いことを確認したサインズは、そう指示を出して壇上を降りる。


その指示に従い、受験番号が3466である俺はBと書かれたプラカードの立った地点へと向かった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「受験者の皆さん。おはようございます。Bグループの担当をさせていただきます、ミルト=アインスと申します。よろしくお願いします」


受験生の移動終了後、各グループには担当の教員が配置された。Bグループの担当は20代前半くらいの優しそうな女性だった。


「では、取り敢えず会場へ移動しましょうか。詳しい説明はそこで行いますね」


彼女はそう言うと、手を前にかざし


「ゲート」


と唱えた。


するとかざした手の先からは、光輝く巨大な扉が出現した。他のグループの方を見ると、それらの方でもそれと同じような巨大な扉が出現していた。


ゲート、ある特定の場所と自分のいる場所を繋ぐことの出来るスキルだ。

目的地とする場所は一箇所しか指定できないものの、今回のように特定の場所へ人を移動させたい場合や、緊急避難の場合などで非常に役に立つスキルである。


似たようなスキルに瞬間移動とワープがあるが、瞬間移動は自身の行ったことのある場所ならどこでも目的地に指定することができ、自身に触れている者を含んで移動させることができる。一方でワープは目的地は完全にランダムであり、自身の魔力の届く範囲内のうちどこかに対象を移動させるというスキルだ。


スキルのランクで言えば瞬間移動が最高ランクに位置し、その一つ下にゲート、さらにもう一つ下にワープがそれぞれ属する。ゲートは最高ランクのスキルではないにしろ、空間収納と同じランクに属するスキルだ。相当値が張るはずなんだが、そのスキルを使える人が複数人いるとは。


「さあ、では行きましょうか」


目の前で発動されたレアスキルにポカンとする受験者を見て、ミルトさんは笑顔でそう言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る