第9話

萩原と南に遊びに行ったその次の日、俺はいつも通り学校に来た


「あ、あのさ、平井くん」


「ん?松島さん、どうした?」


昨日と同じく松島さんが話しかけてきた。珍しい


「今日の放課後って暇だったりしない」


ん~と、まあなにもないか


「あ、うん、暇だけどどうかした?」


「あ、えっとよかったら放課後に駅前に来てくれない?

何をするかは向こうで言うから」


へ?なんだろうか


「まあ、全然いいけどなんか必要なものとかある?」


「え、ほんと?

持ち物はなんもいらないから大丈夫!

えっと待ち合わせは4時でいいかな」


「ああ、うん、わかった

4時に駅前だね」


何が起こるんだろうか


ーーーーーーーーーーーーーー


俺が駅前に着いたのは3時45分だったが、松島さんは既にいた


「あ、遅れてごめん、待った?」


「あ、平井くん

全然待ってないよ、今来たとこだし

というか、平井くんこそ早いね」


「ははは、ならいいんだけど

ところでこれからどうするの?」


「あ、えっとね、実は物理教えて欲しくってさ

たしか、平井くんって物理部だったよね」


ん?松島さんってかなり成績よくなかったっけ


というか物理部が物理得意とは限らないんだけどね


「別にいいけど、俺よりも松島さんの方が成績よくない?」


「ああ、うん、その話なんだけど

私ってなんか学校でも勉強出来る感じで見られてると思うんだけど実はただ記憶力が生まれつきいいだけで、実を言うとほとんど暗記で乗りきってきたから最近理解が追い付かなくっなっちゃった、て感じなんだけど」


へ~、そんな事情があったとは思わなかった

でもほんとに俺でいいのだろうか


「うん、わかったけど

ほんとに俺で大丈夫?

もっと出来る人がいると思うけど」


「あー、その事なんだけど

実を言うと暗記が得意ってなにかと妬みみたいな感情を向けられやすくって、あんまり知られたくないんだよね

カメラアイって知ってる?」


カメラアイ、たしか見たものを見たままに覚えてしまう生まれつきの能力だったっけ?


「うん、聞いたことあるよ

たしか見たものを見たままに覚えてしまう生まれつきの能力、的なやつだよね」


「おお、正解

それでもうわかると思うんだけど私ってカメラアイなんだよね

それで話を戻すと、それを知られる度に周りから「ずるい」だとか「うらやましい」だとか言われて嫌だったの

だからみんなに知られたくない、ってわけなんだよ

そこで口が固そうでなおかつ元化学部の平井くんを頼ったの

自分勝手な理由なんだけどいいかな?」


そうか、やっぱりいいことばかりじゃないんだな


というか思い出した

俺も昔、小学校の頃に学級活動の新聞作りでカメラアイについて調べる機会があったっけ

その時にいいことばかりじゃないことを知ったっけ


まわりのひとには珍しいものを見るような目で見られたり、妬まれたり、それだけじゃなくてフラッシュバックが起こったり、なにかと大変らしい


「もちろん!

俺はカメラアイじゃないけど、いいことばっかじゃないのは知ってるし、松島さんの力になれるなら喜んで力になるよ」


「あ、ありがとう

こんなこと言ってくれる人、なかなかいなかったよ

やっぱり平井くんに頼んで正解だったみたい」


「はは、そんなこと言ってくれる人なかなかいないから俺もうれしいよ

こちらこそありがとう」


「えっとじゃあそこのファミレスでいいかな」


「う~んと、いいけど教科書とかないけど大丈夫?」


「ああ、それなら私持ってるから大丈夫!」


「わかった、じゃあいこうか」

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