第14話 三国同盟 - 4 -
二人の間に、優しい歌が流れる。
聖堂には、歌詠たちの他に兵士やその家族、城下町からも数十人の城に縁ある人たちが集まっていた。皆、灰色のローブを羽織りそれぞれの言葉を詠み亡きクラウス王を偲んでいる。
「カヴァリヤ国民の皆さん」
聴き慣れたカイの声が聖堂に響き渡った。いつの間にか、歌詠たちの声は止んでいた。
「争いは、多くのものを奪って終結しました」
芯のある透る声に、皆が耳を澄ましている。嗚咽を漏らす者もいる。
「歌詠の我が国が、言葉でできたことが多くはありませんでした。しかしクラウス陛下はカヴァリヤ国民だけでなく、戦火を逃れてきた全ての人に歌を詠み、癒してきました。我々は時として、カヴァリヤに伝わる言葉が力を持つように錯覚しますが、そうではないことを陛下は教えてくださった。カヴァリヤの血に宿る力を秘めた、陛下の力強いお声を忘れてはいけません」
カイは堪えるように俯く。
「———陛下はエクレールに向かう前、我が国の国宝である予言書を所望されました。予言書は、王位継承の儀で用いられ、継承者が開くと新たな代に関する予言が示されるとされています。異例とも言えることですが、まだ幼いフェリックス殿下のことを慮って万が一に備えたのでしょう。そこにはクラウス陛下即位の際に、いえ代々と変わらない救世主に関する文言に新たな一文が加えられていました」
カイはフェリックスに視線を移した。
「『苦難が起こった10年目3度目の新月の頃、異国より救世主が現れ再び世界に平和が訪れるだろう』と」
安堵とも、歓声とも取れる言葉にならない声が聖堂の中を埋め尽くした。
しかし、フェリックスだけはまだ小さい拳を力強く握りしめていた。
救世主は、フェリックスの母親が死んだ日も、エクレールで父親が襲われた日も現れなかった。
一人残された世界で、救世主が現れても一体何が変わるのか。平和なんてもう二度と訪れないではないか。
「救世主なんか、信じない」
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