第8話 カヴァリヤ城 - 1 -
二度目にサラが目を覚ましたのは森の中ではなく、天蓋付きのベッドの上だった。柔らかいベッドと肌触りの良いシーツ、ベッドを囲う家具は華美な装飾が施されており、傍らの花瓶には控えめな香りながら溢れんばかりの薔薇が活けてある。
自分の部屋ではない以上、もはやここがカヴァリヤ城の一室であることは間違いない。サラはキングサイズのベッドの上を二回転半で抜け出し窓へ向かった。
初めての乗馬でお尻と太ももに違和感がありうまく歩けない。
カーテンを引いた。
部屋の明かりが落とされているせいで暗く感じていたが、どうやらまだ日は落ちていないようだ。草の匂いがする制服を着て、ロココ調の部屋にいるサラは、自分自身に失笑してしまう。
コンコン
カチャ……と開いたドアから現れたのは、簡素なワンピースに白いエプロンを纏った少女だった。小柄で短い茶の髪が彼女を幼く感じさせるが、目元には大人びた意志の強さを宿している。
「失礼します、救世主様。よく眠られていました。具合はいかがですか?」
「あ、はい、あのよく覚えてなくて……」
今日一日で、サラは自分の記憶力に自信を失った。
「そうですか。フェルデナント様がお抱えになって連れてこられたのですよ。具合がよろしければ、王がこれから救世主様と夕食の席を持ちたいとのことですが、いかがでしょうか?」
はぁ、と曖昧に頷いてからが早かった。
タオルとワンピースらしき衣装を渡され、まずは身を清めましょう、と小柄な少女は部屋の奥の小部屋に入り、何やらテキパキと準備を始めた。湯気と水の匂いが立ち込める。
「お手伝いしますか?」
「け、結構です、1人で入ります……あの、ずっと部屋の外で待ってたの?」
絶妙なタイミングで入ってきた彼女に、何気なく質問してみた。
「えぇ、使用人たるもの部屋のなかの気配は敏感に察知するんです」
「気配……って」
廊下でドアに耳をつけて、じっと待機している姿を想像する。
そんなサラの思考を読んだかのように、くすくすと少女は肩のフリルを揺らす。
「冗談です。本当は、そろそろ……」
どこからか、ボーン、ボーン……と時を告げる音が響いた。音は6回。
「6時になったら、様子を伺うようにと言われていたのです」
少し早かったですね。にこりと笑い、少女は石鹸ですと言ってバラの形を手渡した。
「では、1時間後にまたお迎えにあがります。……緊張してしまって、お声をかけて頂いてありがとう御座いました」
少女はペコリと頭を下げて、逃げるように部屋を出て行った。
本当に緊張していたのだろう。バスルームは水浸しで、お湯は熱すぎた。
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