第6話

 十分前くらいに偶然出会ったとどろき愛里好ありすちゃんに奢って貰った冷たいお茶は、あっという間に飲み干し、佐奈は必死に美羽を探していた。探すと言っても、周りには山や川、民家しかないので、探す場所は限られているし、美羽ちゃんはこの地をよく知らないであろう。

 そんな事を考えながら、河川敷沿いをキョロキョロしながら佐奈は走る。


※※※


 三時間四五分。

 この数字が意味するものは、美羽ちゃんを探していた時間だ。「あ、探すまでにそんなにかかったのか」と思ったそこの君!残念まだ見つかっていないのだ。

 結局、愛里好ちゃんから貰った残りの八百七十円も三時間四五分で自動販売機で飲み物を買いまくり九十円にまで減ってしまった。多分このお金がなければ今頃、熱中症になっていただろう。心の中で「ありがとうとどろきちゃん……」と念じると、「いいですよー♪あと先輩ワザと言ってますか?」と笑いながら(目は笑ってない)返事が返ってきた気がした。

 てな感じで、絶賛帰宅中の私です。あーあ、お母さんに怒られるんだろうなーと、白目になりながらヨタヨタとゾンビのように歩く。多分、この後、家族全員でまた探しに行く事になるんだろう。私を含め。そして私が怒られる。理不尽すぎる…………。

 ようやく我が天音家あまねけが視認できる距離になった所で、急に後ろからむにゅっと自分の両胸が誰かの手のひらに揉まれ、ビリっとした甘い感覚が胸から脳へ電気が走り、そして脳へ伝達された刺激は無意識的な吐息となって口から漏れる。


 「んっ……ッ!」


 Dカップある佐奈の胸が誰かの手の中で縦横無尽じゅうおうむじんに動き、ばいんばいんのぶるんぷるんっ!と暴れ回る。これ以上はヤバいと思った佐奈は、咄嗟に胸を揉みしだく腕を掴むと、掴まれた腕はスルッと後ろへと引っ込んだ。

 すぐさま佐奈は、解放された胸を両腕で自分を抱くように守り、後ろを向くとそこに居たのは――――ッ!


 桜木さくらぎ 美羽みう


 今の今まで必死に探していた人物が、両手をわきわきとこちらに見せながら動かしていた。


 「佐奈さんの胸って、ほんとダイナマイトですよね!」

 「美羽ちゃん!今までどこにいたの!??」


 佐奈の問いかけを無視し、すたすたと天音家あまねけの玄関へと歩いていく美羽ちゃん。そんな彼女の背中に向かって佐奈は叫ぶ。


 「ちょっと美羽ちゃん!!」


 だけど美羽ちゃんは止まる事なく、家の中へと消えていき、佐奈は一人となる。美羽ちゃんが入っていった玄関をじっ!と睨みながら佐奈は思った。 

 年下は何を考えているか分からないと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る