王様げえむ

「王様だーーーれだ?」


 満面の笑みを浮かべて、会議室中からかき集めてきた羽根ペンを握りしめたホニーが、またなんかバカなこと言い出した。

 王様って聞いたもんだから、日本大好き少女ホニーは、王様ゲームがやりたくなったのだろうか?


 それにしても——


「お前、王様ゲームのやり方知らないだろ?まだ、棒の先に何も書いてないじゃないか」

 俺がそう言うと、


「ウ、ウッサイわネ! 一回言ってみたかったのヨ! まあ、なんとなく、雰囲気だけは知ってるっていうか…… ねえ、ホントはこの『げえむ』どうやるの?」

と、ホニーが目をキラキラと輝かせて、俺に尋ねてくるではないか。


「仕方ない…… 教えてやるよ。皆さんもさっきから話し合いばかりで少しお疲れでしょう。休憩がてら、ここはホニーに付き合って、ちょっとゲームでもして遊んでみましょうか」


 俺はそう言うと、ホニーから羽根ペンを7本ふんだくり、ペンの先にいろいろ印をつけた。

 まあ、あんまり激しい命令——特にエロい命令——をしなけりゃ、そこそこ皆さんとの親睦をはかることも出来るだろう。


「じゃあ皆さん、俺が持っている羽根ペンを1本ずつ引いて下さい。あっ、それから、ホニーがさっきの合図を口にするまでは、印を見ないで下さいね」


 みんなが棒を引いたことを確認した俺は——


「よし、言ってもいいぞホニー」

とホニーに告げる。


「わかったワ! じゃあ、いくわよ。王様だーーーれだ!?」

 まったく。嬉しそうな顔しちゃって。


 早速、棒を確認してみたところ——


 あっ、俺が王様だ。


「おい、見ろホニー!」

 俺はそう言って、『王様』と書いてあるペン先をホニーに見せた。

 フッ、俺は昔からクジ運が良い男なのだ。


「じゃあ、そういうことで決まりね」

 ホニーが、またよくわからないことを言い出した。


「おいホニー、お前何言ってんだよ? 今からこのゲームの説明をしてやるから——」


「ウダウダうるさい男ネ! 『王様けえむ』で決まったんだから、今日からアンタがこの国の王様ヨ!」

「本当に一国の王様を、王様ゲームで決めてどうすんだよ!」


「ウッサイわネ! これが日本のルールなのヨ!」

「そんなルール、日本には存在しネエよ! 勝手にルールを作るな!!!」


「そんなこと言っても、アタシは騙されないんだからネ! 室町幕府の6代将軍足利義教は、クジ引きで将軍に決まったのヨ!!!」


「なんでそんなことまで知ってんだよ!!!」

「師匠から聞いたのヨ!!!」


「お前の師匠は日本史の先生かよ!!!」

「えっと…… 同じ地方公務員だけど、師匠は教育委員会とかの方じゃなくて、専門は土木の関係で確か建設課とかそっちの——」


「真面目に答えるなよ!!!」


「ホント、ウッサイ男ネ! 王様の命令は絶対なのヨ!!!」


「バカ! お前、王様じゃネエだろ! 王様は俺だよ!!!」

 俺がホニーに向かって、そう叫ぶと……


「おお! ついに、いんちき魔導士様が、自ら王になると宣言されたぞ!」

 え? あの、オソレナシー将軍、そういう意味じゃないんですけど……

 ついでに、俺の名前、『インチキ』じゃないんですけど……

 それはセッカチーのヤツが、勝手に言ってるだけなんですけど……


「はい! 私も聞きました。確かに今、いんちき魔導士様は、『王様は俺だ』と言われました!」

 いや、セイレーン卿、そういう意味では……

 それから俺の名前は……


「ついに、いんちき魔導士様は、我々の願いを聞き届けて下さったのじゃ!」

 ケッパーク卿、ちょっとお待ちを……


「「「 いんちき王万歳!!! 」」」

 将軍たち3人の叫び声が、会議室に響いた……


 こうして俺は、本日只今、晴れてナカノ国の王になったのでした……

 って、なんだよソレ?


 ホニーは満足そうな表情で、アイシューはあきれた表情でそれぞれ俺を見つめ、まったく興味のないミミーは、またお昼寝を再開した。


 まあ…… 状況的に、俺が王様になるしかないんだろうけど……

 王様ゲームで、本当の王様を決めてどうすんだよ!

 どんな質問をしてやろうかと、ちょっとワクワクしてた、俺の浮ついた心を返せよ!

 それから、 俺はロリコンじゃないから、下心は全くないからな!

 などと思っていたところ——


 ——チャラララ〜


 また天界からのメッセージが届いたようだ。

 もう面倒くさいので、その場で内容を確認したところ、それは——


 女神様からの祝電だった……

『オオサマ シュウニン オメデトウ ——』云々と書いてあるじゃないか……


 もうみんな忘れてるかも知れないけど、天界からのメッセージって、ステータス画面に表示されるんだよね。

 ステータス画面に祝電を送ってくるなよ……

 もう、なんでもアリかよ……


 それに…… これは女神様お得意のボケなのだろうか? それともガチなのだろうか?

 嗚呼ああ…… 俺には判断できない…… どうして俺に周りには、こうもややこしいヤツばかり集まって来るのだろう?


 まあ、それはさて置き。


 女神様も俺が王様になることに賛成なんだな。

 まあ、なんだかんだ言って、みんなが喜んでくれるなら、俺には不似合いだけど、ここはひとつ王様ってヤツを頑張ってみることにしますか。

 見ろよ、ホニーなんてスッゲー嬉しそうじゃないか。


 幸せそうな顔をしたホニーが、また口を開いた。


「ネエ! じゃあ今度は『山手線げえむ』しましょうヨ!!!」


 …………なんだよ、単に日本のゲームをエンジョイしたいだけじゃネエか……

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