ダンジョンボス
俺たちはこのダンジョンの最下層である50階層にやって来た。ダンジョンボスであるトカゲモドキーから十分距離を取った場所で様子を見ている。距離が離れているのでハッキリと姿が見えないのだが、ヤツがダンジョンボスであることに間違いない。向こうはまだこちらに気づいていないようだ。
ユニークスキルを使ってトカゲモドキーを調べてみると、なんと、レベルが85もあるではないか。
今の俺のレベルは99だけど、いまいち実感がないんだよね。前回のターンでの俺のレベルは86が最高だった。だからはっきり言って、この『トカゲモドキー』さん、俺からするとメチャクチャ恐ろしく見えるんだけど。
「ちょっとカイセイ! ひょっとしてアンタ、ビビってんの?」
「バカ、黙れ。いいかホニー、アイツのレベルは85だ。もしお前が一人の時、アイツと出くわしたら一目散に逃げるんだぞ」
「でも、カイセイさんのレベルは99なんでしょ? カイセイさんなら倒せるんじゃないの?」
アイシューめ、余計なこと言いやがって…… ほれ見ろ、ミミーがキラキラした目で俺を見つめてるじゃないか。
「ま、まあ俺一人ならなんとかなると思う…… かな。でもほら、お前らが一緒だから、ここは安全に配慮して——」
「オレっちたちなら、ここでおとなしくしてるから、オニーサンは思う存分戦っていいゾ!」
あのなぁ…… レベル85って言ったら、魔人族で言うと魔王の次に強い『魔人族四天王』クラスなんだぞ。そんなの俺に倒せるのか? 女神様は『容易に倒せる』って言ってたけど、なんせあの女神様の言うことだし……
なんだよ、ミミーだけじゃなく、ホニーとアイシューの目まで輝いてきたじゃないか…… しまった…… 見栄なんてはるんじゃなかった。
ああもう、仕方ない!
「わかったよ! じゃあ、ここから超級魔法を使った遠距離攻撃を試してみよう。でもいいか? 俺はトカゲモドキーと戦ったことがないんだ。だからアイツが反撃してきたらすぐに逃げるからな。俺が撤退って言ったら、すぐ俺につかまるんだぞ」
俺は火、水、風の超級魔法陣を各々一つずつ発現させ、トカゲモドキーの頭上へと移動させた。
そして——
トカゲモドキーに向かって超級魔法を連打した!
轟音が鳴り響き、目を覆うほどの光が溢れた!
うわっ、スゲー。自分でやったこととはいえ、超級魔法の3連発って恐ろしい威力だな。トカゲモドキーのHPが、残り3分の1程度に激減してるじゃないか。俺のMPは、まだ8割程残っている。これ、いけるんじゃないか?
何が起こっているのかわからない様子のトカゲモドキーは、慌てた様子で周囲をうかがうのみ。こちらに攻撃を仕掛ける様子はない。これはチャンスだ。
俺はもう一度、超級魔法の3連発をトカゲモドキーにぶちかます!
再び轟音と閃光が周囲の世界を支配した。
トカゲモドキーは完全に沈黙した。HPはゼロになっている。
「オニーサン、やったのカ!?」
興奮した様子でミミーが尋ねる。
「たぶんやったと思うんだけど…… 俺、ちょっと確認してくるよ。念のため、お前らはここで待機な」
トカゲモドキーに近づいて見たところ…… 確かに仕留めたようだ。自分のステータス画面を確認したところ、少しではあるが経験値が加算されている。
俺は動かなくなったトカゲモドキーを眺める。コイツ、見た目は確かにトカゲっぽい。でも……
「なんでトカゲのくせに、翼が生えてるんだ?」
俺は思わず独り言をつぶやく。
俺はこの世界に来て、トカゲモドキーを見るのは今日が初めてだ。でも、俺はコイツのことをよく知っている。日本にいた頃、マンガやアニメでよく見た記憶がある。
「コイツ、ドラゴンじゃねえのか?」
あれ? でも、この世界にはドラゴンなんて生息していないのでは?
少なくとも、俺はそう聞いてたんだけど……
「俺、強すぎるんじゃないのか?」
こんな最強生物みたいなヤツを、1分もかけずに倒しちまったんだぞ。俺、本当にヤバい存在になってしまったのでは……
まあいいや。名前の由来は『トカゲもどき』ってことなんだろうから、コイツもトカゲの仲間だと言うことにしておこう。ホニーにドラゴンを見たなんて言ったら、また面倒なことになりそうだからな。
気を取り直して周囲の様子を確認したところ、コイツのものだと思われる巣を発見した。その中には沢山の魔石があったのだが、残念ながら黒魔石はないようだ。
ただ、そこには人間の赤ん坊ぐらいの大きさの、異様に輝いている魔石が含まれていた。これは珍しい。では、このデッカい魔石も含めて、巣の中の魔石を回収しようかと思っていたところ——
ん? なんだか地面が揺れているような気がする。
改めて『広域索敵』で周囲の階層をを眺めて見ると……
あれ? 魔獣達が一斉に動き出してるぞ?
大部分の魔獣は上層を目指しているようだ。
あ? これ、やっぱり日本のマンガやアニメで見たことがあるぞ。これってスタンピードとか集団暴走とかいうヤツじゃないの?
え? この世界でもこんなこと起こるのか? 俺、聞いたことないんだけど……
まずい! 理由はよくわからないが、このままではダンジョンから魔獣が溢れ出してしまうじゃないか! それに、これだけ一斉に魔獣が動いたら、下手をするとダンジョンが壊れてしまう可能性もあるぞ。
俺は風魔法を使い、一気に娘さんたちの元へ向かう。
「おい、退却だ! 早く俺につかまれ!」
「チョット、カイセイ! トウタスーを持って帰らないと…… むぐっ!」
俺は有無を言わさずホニーを右手で抱き抱える。危険を察知したアイシューとミミーも俺にしがみついてきた。もちろん倒した魔獣を持って帰る余裕などない。
俺は3人をひっ捕まえて、一気に出口へと向かうため超高速で飛翔した。
出口へと向かう途中、ダンジョンに取り残された大勢の冒険者達と出会った。魔獣に囲まれている者もいたため、危険だと判断した者たちには魔獣撃退の手助けをしてやった。
「後で助けに来るから、それまでなんとか持ちこたえろ!」
とりあえず、冒険者たちの安全は確保出来たと思う。これでしばらく冒険者の連中が命を脅かされる心配はないだろう。
俺たち4人はダンジョンから脱出した。途中で冒険者たちの魔獣討伐を手伝ったため、思いのほか脱出するのに時間がかかってしまった。すでにダンジョンから溢れ出た魔獣もいたようだが、レベルの低い上層の魔獣だけだったようで、今のところ大事には至っていないようだ。
俺は娘さん3人に告げる。
「理由はわからないが、魔獣たちが暴走を始めた。俺はこれからダンジョンに戻って冒険者達を助けてくる。お前らは入口の前に陣取って、外へ出ようとする魔獣をやっつけろ」
「オウっ!」
「おお!」
「はい!」
「指揮はミミーがとれ。いいかミミー、人と魔獣を間違えるなよ? まあ、お前の索敵能力は超一流だから、大丈夫だとは思うが」
「オウっ! オレっちにドドーンと任せろだゾ!」
俺が3人に背を向け、急いでダンジョンに向かおうとしたところ——
「カイセイさん!」
「なんだアイシュー?」
「気をつけてね!」
「ああ、わかった!」
「オニーサン!」
「なんだミミー?」
「魔獣をやっつけろだゾ!」
「ああ、任せろ!」
「カイセイ!」
「なんだホニー?」
「トウタスー、持って帰って来てネ!」
「お前はもう喋るな!!!」
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