第六章 2つの解放クエスト
60 アドーリア冒険者ギルド
《アドーリアの街 冒険者ギルド》
足を一歩踏み入れると、ギルドホールにいる大勢のプレイヤーの視線が、一斉に俺に集中した。
うわっ、なんだこの雰囲気。メッチャ注目されてる気がする。
……気のせいじゃないよな?
なんとなく居心地の悪い雰囲気の中で、誰か知り合いがいないかと辺りを見回していると、
「ユキムラ君、久しぶりだな。来てくれてありがとう」
レオンさんだ。レオンさんには、さっき到着を知らせるメールを送っている。わざわざ出迎えに出てきてくれたみたいだ。
「レオンさん、ご無沙汰してます」
「丁度これから会議を始めるところだ。君にも参加して欲しいのだが、いいかな? 」
「はい。俺も全然状況が分からないので、参加させて頂けるとありがたいです」
「じゃあ、こちらについて来てくれ」
レオンさんについて会議室に入った。ここでも視線を浴びる。きっと
「みんな知っていると思うが、攻略に参加してくれることになったユキムラ君だ」
「ユキムラです。途中参加ですみません。よろしくお願いします」
パチパチ、パチパチ。
一応歓迎はされているみたいだ。新参者だし、周りからの視線が居たたまれないのもあって、会議室の1番後ろの席に座ることにした。
ジーッ。
席に着くと、早速4つのつぶらな瞳が見上げてくる。
上目づかいか……上手くなったな。爺までやるのか。
いやでも会議だし。飲食は……辺りを窺うと、飲み食いしてる人も案外多い。じゃあいいか。はい、どうぞ。お皿の上にお菓子を盛って置いておく。
「では会議を始めようか。現在までの進行状況から話してくれ」
「はい。まず耐火焔防具は、交換用を含めて8割方完成しています。素材集めも順調で、防具に関しては間も無く準備が整います」
「武器に関してはどうだ? 」
「通常の金属製武器では耐久が危ぶまれるということで、特殊合金の武器を製作中です。各クランのご協力の元、素材収集の真っ最中ですが、素材が揃えば防具よりも製作点数が少ないので、早く準備が終わると思います」
「こちらも順調か。アイテム類の生産については? 」
「はい。これは各種ポーションの推定必要数が非常に多いため、生産は順調ですが、まだかなり不足している状況です。特に火傷治療薬がまだまだ不十分で、素材もさらに集める必要があります」
「協力してくれる薬師の数はだいぶ増えたんだがな。まだ足りないか」
ふーん。
今回はそんなにポーション消費が激しいのか。いろんな状態異常攻撃があるんだっけ? アークのメールに、めちゃめちゃ忙しいって書いてあったものな。生産職は大変だ。
あれっ? もう食べちゃったの? おかわり!?
食べるペース早くないか、君たち。分かった分かった。あげるから落ち着け。なに? こっちの子にもあげて? それは、持ち主さんの許可がないと駄目だって。あっ、大丈夫ですか、そうですか。
えっと、こんにちは。赤い妖精さんか。
君向けのは、STR上昇のオレンジタルトかレモンケーキ。それか火属性の赤い果実でつくったパイだな。皿に盛っておくから、好きなのを食べてくれ。
おっといけない。話を聞かなくては。
「では次に『狂鳥ハルピュイア』に移らせて頂きます。岩石系の特化魔術師については、なんとか人数の確保の目処が立ちました。避雷針の作成についても、まだ素材の収集段階ですが、入手難易度がそれほど高くないものばかりなので、予定通りに進むかと思います」
「麻痺解除薬は足りそう? 」
「市場で購入した分だけでは全く足りません。現在、薬師がオーバーワーク気味ですので、生産も後回しになります。素材の確保については問題ないです」
「[沈黙・魅了]の治療薬と耐性を上げるためのMNDバフについては? 」
「『咽喉薬』と『鎮静薬』については、素材集め中です」
「集まりそう? 」
「まだなんとも。巨人の攻略が終われば人手が余るので、製作が一気に進むと思いますが、元々あまり需要のない薬ですので、市場で集めるのは難しいかもしれないです」
消耗品集めって、やっぱり大変なんだな。いちいち、その状態異常に対する薬が必要みたいだし。
最近、市場に「万能薬」っていう全状態異常に対する治療薬が流れたって噂で聞いたけど、まだ供給量が少なくてかなり高価なんだって。便利だけど、さすがにレイドでジャブジャブは使えないよね。
「足りなければ素材収集班を改めて編成するとしよう。MNDバフについてはどうだ? 」
「はい。こちらはMND+防具、アクセサリの収集を行っています。第三陣の『龍が淵』が終了しましたので、かなり市場に流れてきており、買取予定数は確保出来そうです」
「それはタイミングがよかったな。生産についてはどうだ?」
「聖属性の素材が足りません。皮革と宝玉はある程度集まっていますが、鉱石と生地が不足しています」
「購入宛はあるのか?」
「ジルトレの大神殿の物販所で、MND+素材が不定期に販売されることがありますので、それを確保に動いてます」
へぇ、初耳。誰が作ってるんだろう? エリーかな? 聖属性付与を出来るの、彼以外にいたっけ?
「ユキムラ君、大神殿の物販所の売り物は、誰が作ってるか知ってるかい?」
「素材については、物販所で販売していることを今初めて知りましたが、おそらくプレイヤーが作っていると思います。NPC製品ではないですね。心当たりがあるので、聞いてみましょうか? 」
「よろしく頼む。聖属性の素材は君も作れるんだったよな?」
「はい。龍が淵の時は、かなり作りました」
「今回も作ってもらうことになりそうだが、協力をお願いできるかな?」
「俺でよければ、協力させてもらいます」
「ありがとう。また声をかけるから、その時はよろしく頼む」
そのくらいなら、お安い御用だ。あの頃よりだいぶ総GP量が増えたからな。それ程手間はとらないだろう。
「あの、ユキムラさん。物販所で販売されている、MNDバフ効果のあるパンやお菓子について、何か情報をお持ちではないですか? 」
「ほう。そんなものもあるのか」
「NPC向けに販売されているようで、購入するにはかなり並ばないといけないのですが、数が確保できればとても有用だと思います」
「ユキムラ君、知ってるかい? 」
知ってるも何も……ね。
「たぶんそれ、俺が作ったものです。 」
「本当ですか?」
「ええ。ここに来る前も物販所用に大量に作ってきましたから」
「材料は何か特殊なものが必要ですか?」
「いえ。普通の製菓・製パンの材料があれば、あとはJスキルでできます」
「もしかして、今、その子たちが食べているのもそうですか?」
あっ! 見つかっちゃったか。
「これは、物販所のものよりもいろいろな材料を使っています。効果としては、そう大きくは変わらないと思いますが」
「なあ、この赤い妖精が食べているのもMNDバフ料理なのか?」
「いえ、その子のはSTRバフと火属性バフですね」
「火属性バフ? そんなのがあるのか?」
「素材が少ないので、あまり数はできませんが、他の属性のもありますよ」
参考にと、試作品である属性キャラメル11種を入れた瓶を取り出した。ひとつひとつ、透明なセロファンでラッピングしておいたから、色とりどりでとても綺麗だ。
「うわっ! カラフル。これ全部属性付き?」
「そうです。全部で11種類あります」
「11種類!?」
「基本属性6種類に、氷・雷・聖属性を合わせて9。あと2つはなんだ? 」
皆さん、興味があるのかな。全員こっちを見てるよ。
「残りは、磁属性と時空属性です」
「時空属性だって!? マジか。見せてもらえるか、それ」
おうっ。魔術師さんがいつの間にか急接近。
「えっと、この透明なのがそうです。どうぞ」
「マジだ……鑑定で時空属性って出てる」
そんなに驚くことなのかな? 魔術を使えない俺には全くピンとこないが。
バフ料理で上げることのできるステータスは、STR・VIT・AGI・DEX・INT・LUK・MND。
それに相当する属性は、火・水・風・土・闇・光・聖。
じゃあ残りの氷・雷・磁・時空は何の効果があるのかってことだけど、属性キャラメルを作ってはみたものの、妖精たちが食べたがらないので、俺も食べるのを控えていた。だから、その効果は全く分かっていない。
「時空属性のお菓子ってこれだけ?」
「同じものなら、もう何個かあります」
「売ってくれ。できれば全部」
「おいおい、勝手に商談を始めるなよ。欲しいのは、お前だけじゃないんだ」
ありゃ。別の魔術師さんも来ちゃったよ。
「そこまでだ。君たち、続きは会議の後にしてくれ。属性料理やバフ料理については、我々も話を聞きたいから、レイドの話が終わってから、別に席を設けよう」
「では料理については、ユキムラさんと改めて相談することにしまして、ハルピュイア攻略について、話を続けさせて頂きます」
レオンさんが仕切ってくれてよかった。
時空属性って珍しいのかな? って思っていたが、俺の想定以上にレアなのかもしれないな。転移魔術って、まだないんだっけ?
シークレットクエストの時に、やたらポンポン転移してたから、認識がおかしくなってるのかもしれない。
不明な属性キャラメルの効果については、情報ギルドに渡して調べてもらうのも手かもしれないな。
……なんて考えている内に、話は次に進んでいった。
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