第五章 シークレットクエスト編

47 街イベント③

《ピコン!》


《The indomitable spirit of adventure online (ISAO)のユーザーの皆様にお知らせ致します。


 予めお知らせしていた通り、第四陣の受け入れを◯月◯日より開始致します。


 それに伴いまして、既にご利用中の皆様にもご参加いただける、街イベントを開催致します。詳細につきましては「お知らせ☆イベント詳細」をご確認下さいますようお願い申し上げます》


 街イベントきたな。「お知らせ」ポチっ。


《第5回 街イベント「妖精ユールトムテを手に入れよう!」開催のお知らせ。


 イベント期間中、始まりの街・ジルトレの街・トリムの街中のあちこちに〈妖精ユールトムテ〉が出現します。妖精の好物である「ユールグロット」を妖精に渡すと、妖精の好感度をあげることができます。


「ユールグロット」は、イベント期間中限定で街の周辺部に出現するイベントモンスター「カプラ」を倒すことで、ドロップアイテムとして入手できます。


「ユールグロット」にはNとRの2種類あり、Rは入手率は低いですが、Nの3倍の好感度上昇効果を得られます。獲得した「ユールグロット」は、ドロップしたプレイヤー専用のアイテムとなり、他のプレイヤーへ譲渡や販売はできません。


 一旦プレイヤーから「ユールグロット」を与えられた妖精は、他のプレイヤーからは「ユールグロット」を受け取らなくなり、他プレイヤーと競合することはありません。


 イベント終了時に高い好感度を得られた妖精は、イベント報酬として、イベント終了後に皆様のところにマスコットとして現れます(お一人様1体)。


 なお入手した妖精は、他プレイヤーに譲渡や売買はできません(姿を現さないように設定することは可能です)。


 さらにイベント期間中、妖精に対し高い好感度を得たプレイヤーの方、上位30名を対象に、妖精の特別装備をプレゼント致します。


 ※イベント期間中に限り「ユールグロットN」にはHP回復効果(小)・「ユールグロットR」にはMP回復効果(小)が付与され、回復アイテムとして使用することも可能です(イベント終了と同時に「ユールグロット」は回収されます)。


 イベント期間は◯月◯日◯時〜◯月◯月◯時まで。皆様是非ふるってご参加下さい》



 どうみても、色妖精イベを焼き直しただけのイベントだけど、初心者応援イベントだから、それは仕方がないか。


 おっ! ユールトムテの情報がある! [詳細] ポチッ。


《妖精ユールトムテ》レベル1[HP]5[MP]5

【赤い帽子】効果なし

【聖夜の贈物Ⅰ】LUK+10

【トムテの応援】DEX+10 生産スキルに+補正(小) ※生産品のレアリティ上昇・成功率上昇


 爺さんの妖精か……。


 白い髭が生えていて、小人だけどちょっとサンタっぽい? スキルに聖夜の贈物ってあるし、帽子も赤い。何か関係があるのかもしれないな。


 この爺さん、スキルが生産職向けだ。


 俺の【調理】も生産なわけだし、この妖精は取っておきたいな。おNEWの武器もあるし、身体も動かしたい気分。日程的にも大丈夫だ。


 いっちょ頑張りますか。



 *



 ジルトレの街の東の高原に来ている。


 ここなら比較的、新規参入の初心者と競合しないので、彼らの邪魔をしないで済むと思ったからだ。


 いつもは「高原黒魔牛」が長閑に草を食んでいる場所だが、今はその姿はなく、俺の周りにはヤギ・ヤギ・ヤギ・ヤギ・ヤギ……白いヤギの群れが取り巻いている。


 絶賛、ジャックポット中。


「カプラ」は、白髭を生やしたヤギのモンスターだった。


 中には立派な大角を持つ個体もいて、集団で襲われると結構危ない。


 ……だがそれは初心者の話。


 上級職の俺にとっては、もちろん超雑魚。


 棒をブン回して、なぎ倒しで一掃できる。ゲーム感満載だ。


 フィールド上にいるプレイヤーは少なめで、お互いにかなり距離をとっている。それぞれがジャックポットを起こし、大量ドロップを狙っているからな。


 きっと彼らも生産職なんだろう。俺も(支援職だけど)頑張ろうっと。


 *


「ねえ、見て。あそこ。すごいヤギの群れ」


「ああ。ジャックポット中なんだろう。ほらあっちにも、向こうの方にも、同じような群れがいる」


 広い草原のあちこちに山羊の群れが湧いている。


 だが決して牧歌的な光景ではなかった。群がる山羊の中心にいるのは山羊使いならぬ棒使い。


 草原を見渡せば、通常の武器を使用する者以外に、包丁やくわなどの生産系武器を振るっている者を見つけることができただろう。


「本当だ。群れの中心にプレイヤーがいるね。でも1人みたい。こういうのって、ソロでするのが基本なの?」


「基本っていうわけじゃないが、街イベントは個人競技だからな。ソロが多いだろう」


「ふうん。今度の妖精って、お爺ちゃんのだよね。それもちょっと怖い顔をした。それなのに人気があるの?」


「生産スキル補正を持っている妖精だから、欲しがる人は結構いると思う」


「私たちは、戦闘職だから関係ない?」


「LUKとDEXの補正も付くから、戦闘職でも弓師や魔法職は欲しがるかもしれないな」


「そっかあ。あれ? あそこにいる人、神官っぽい。神官職でも欲しい人がいるんだね」


「コレクションとして、ゲームアイテムを集めるのが好きな人もいるからな。人それぞれだ」


 カップルプレイヤーが和やかに話している前方では、次々とイベント山羊たちが宙を舞っていた。その様子は、まるで小さな竜巻でも起こっているかのようだ。


 吹っ飛んでは、光になって消えていく山羊たち。そこには全く遠慮はみられない。


「うわー。ヤギさんたち、吹き飛んでる。なんか、かわいそう」


「イベントモンスターは初心者向けのステをしているから、上級者が闘ったらああなるな」


「そうなんだ。ヤギ、あんなにいたのに、あっという間に倒しちゃったね」


「もしコレクターなら、当然ランキング入りを狙っているだろうから、あれくらいの勢いで、ひたすら倒し続けていく必要がある」


「大変なんだね」


「まあ、いろんな部門でランキング入りを狙うのも、こういったゲームの楽しみのひとつだからな。案外楽しんでやっているかもしれないぞ」


「ランキングかぁ。私たちもそのうち入れるかな?」


「なかなか難しいと思うが、全く見込みがないわけでもないぞ」


「本当!?」


「ああ。この間あった王都の緊急イベントみたいに、参加人数が少なめなら可能性はある」


「それなら、ランキング入りを目指して、一緒に頑張っちゃおうか?」


「もちろんだ。じゃあ、俺たちも行くぞ」


「おー!」


 相変わらず仲のいい通りすがりの二人であった。


 *


 誰かに見られているような気がしたが、気のせいか……。


 凄く調子がいい。


 ジャックポットがいい感じで起こってる。


 この調子でガンガン狩るぞ!


 今回は上位30名が妖精装備を貰えるが、相手は生産職だからな。油断できない。支援職だけがライバルのときより、もちろん厳しい競争になる。


 だから、狩りだけじゃなくて調理方法も調べてみた。


「ユールグロット」は、北欧でクリスマスの時に食べられている甘いお米のお菓子だ。「クリスマスポーリッジ」とも呼ばれるが、簡単に言えば砂糖を入れたミルク粥だな。


 各家庭がそれぞれ、ちょっとずつアレンジをしていて、シナモンで香りをつけたり、バターを落としたり、生クリームや練乳を混ぜることもある。出来上がった甘い粥に、酸味のあるフルーツーソースをかけてもいいらしい。


 材料はバッチリ揃えた。爺さんの頬っぺたが落ちるようなやつを作ってやる!


 *


 ゲームとはいえ、久々に思いっきり動いたせいか、とても気分がいい。


 リアルでもジョギングくらいはしてるけどな。それじゃなんか物足りないんだ。たまには道場にでも行ってみるか。


 大神殿に戻り、大量GETした「ユールグロット」の調理を始めた。


 味見をしてみたらシンプルなミルク味だったので、幸い加工はし易い。


 ……メレンゲ、それはお前の食べ物じゃない。お前はこっちな。


 メレンゲに、以前作っておいた「金冠鶏卵使用・特製カスタードプリン」を渡し、作業を続行。


 爺〜さん、爺〜さん、お〜粥が好きなのね。


 変な歌が出ちゃったよ。(キョロキョロ……。)誰も聞いてないからいいか。……いや。いるじゃん。


 砂糖壺の影に爺が1匹。……違った、1人。


 出来上がるのを待ってるのか? ロックオン状態だな、おい。目付きがヤバイぞ。


 まあ、折角あちらから来てくれたんだ。早速出来立てをどうぞ。ほれっ。


 凄く嬉しそう。


 美味そうに食べるな。そんなに好きなのか。


 ……だからメレンゲ、それはお前のじゃない。プリンお代わり? 仕方ない。もうひとつだけだぞ、ほら。


 爺の視線が〈ジ─ ─ ─ ─ ─ッ〉。


 えっ!? 爺もプリン?


 イベント菓子じゃないぞプリンは。上に乗せればOK? それってありなのか?


 凄いボディランゲージ。身振り手振りでアピールしている。


 ………うん、わかった。そんなに訴えなくても大丈夫。


 ポトンッ! どうぞ召し上がれ。


 ゲームだし。固定観念は捨てよう! 美味ければいいってことで。


 ◇


 街イベントが始まって1週間。


 長いことユーキダシュに居たトオルさんとアークがジルトレに戻ってきた。ジルトレで転職クエスト「自分の工房を持とう!」の最終段階をクリアして、もちろん2人とも上級職になっている。


 ヤギ狩りの合間に、食事や飲み会をして互いの近況を報告し合う。一緒に遊びに行く約束もした。いろいろコンテンツが溜まってるしな。


 乗馬・川釣り・磯釣り・渓流下り


 今回のアップデートの目玉である渓流下りは、王都のそばを流れるジオテイク川を遡った上流の渓谷がスタート地点だ。


 王都は遠いので、まずハドック山の麓……魚人の集落の近くで川釣りをして、次にトリム近くの牧場で乗馬スキルをGET。それから、王都へ行って渓流下りだ。


 みんなで話し合って、そう決まった。


 磯釣りは、今回は時間がないからまた次の機会になった。そうだ。バーベキューもしなくちゃ。いい肉があるし。



 *



 上級職になったトオルさんに、アクセサリの強化をお願いした。


 以前、クワドラの街の北にある湖沼地帯で手に入れた「真珠」を使うと、【護符】の強化ができる。属性を問わずに強化できるので、とても便利だ。


 持っている2種類の護符の装備を外して、真珠と一緒に預けた。その際、以前作ってもらった【慈愛の指輪】も、別の宝石で強化できるそうなので一緒に渡しておいた。


 先に上級職になっていたガイアスさんとジンさんには、常闇ダンジョンで入手した「流星シリーズ」と「加重シリーズ」の武器・防具を素材にして、新しくブーツとガントレットを、更に素材が余れば胸当ても作ってもらうように、既にお願いしてある。


 どんなものが出来上がってくるのか、とても楽しみだ。



 *── 第5回 街イベント「妖精ユールトムテを手に入れよう!」結果──*


 好感度ランキング 16位


《妖精ユールトムテ》NEW!

 レベル1[HP]5[MP]5

【赤い帽子】効果なし

【橇・ユールボック(藁のヤギ)】DEX+20 LUK+10 ※ランキング報酬・特別装備

【聖夜の贈物I】LUK+10

【トムテの応援】DEX+10 生産スキルに+補正(小) ※生産品のレアリティ上昇・成功率上昇



 *── 《強化装備・新作装備》 ──*


 N【星霜の護符】MND+10 耐久∞ +[真珠]

 →R【星霜の神符】MND+30 耐久∞


 N【水精の護符】 INT+10 水耐性付与(中)耐久∞ +[真珠]

 →R【水精の神符】 INT+30 水耐性付与(大)耐久∞


 R【慈愛の指輪】MND+15 LUK+10 耐久∞ +[星蒼玉]

 →SR 【星降る慈愛の指輪】MND+30 LUK+20 耐久∞


〈ブーツ〉SSR【流星天馬の軌跡】VIT+30 AGI+60 耐久 500

 ベース [天馬の皮革] +SR【流星の脚甲】


〈籠手〉SSR【隕星の籠手】VIT+30 AGI+40 INT+10 耐久500

  ※攻撃を仕掛けてきた相手の相対速度を遅くする

 ベース SR【流星の籠手】+SR【加重の盾】


〈胸当て〉SSR【隕星の胸殻】STR+20 VIT+50 AGI+50 INT+10 耐久400

  ※攻撃を仕掛けてきた相手の相対速度を遅くする

 ベース SR【加重の鎧】+SR【流星の剣】


〈額冠〉SSR【天隕のダイアデム】 VIT+20 INT+20 MND+30 LUK+10 耐久500

  ※攻撃を仕掛けてきた相手の相対速度を遅くする。

 ベース SR【加重の兜】+宝石 [星蒼玉]



*──備考──*


◆物語の中では11月〜12月位の時期の話になります。


◆生産品のレアリティについて

上級職の生産者が増えてきたので、生産品のレアリティも上昇してきています。もっと攻略が進み、マップが広がって、入手できる素材のレアリティが上がれば、さらに高レアリティの生産品が作れるようになっていきます。


◆通りすがりのカップルプレイヤーについて

30 街イベント「収穫祭」の回で、フィールドですれ違った2人と同一人物という設定です。

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