46 イベント終了と運営の動き
《 緊急イベント「黒い悪魔」終了のお知らせ。
ユーザーの皆様にお知らせ致します。
現在開催中の緊急イベント「黒い悪魔」において、クリア目標である「汚染原因の駆除」および「王都全域の清浄化」を達成し、王都防衛に成功致しましたので、今この時をもってイベントは終了と致します。
獲得ポイントおよび部門別ランキングは、ただいま集計中です。結果の発表は◯月◯日を予定しております。
引き続き、ISAOをよろしくお願い申し上げます。 ISAO運営 》
……終わったか。
どこが緊急なんだっていうくらい長かった。これでジルトレに帰れるよな?
キョウカさん、ジンさん、ガイアスさんは、無事に上級職への転職が終わったって連絡があったし、早くみんなと合流して遊びたい。
*
やっと戻って来た。
久々のジルトレだ。まず、ウォータッド大神殿に顔を出して、クラウスさんに帰還の挨拶。厨房にも寄って顔を見せた後、俺の私室を確認した。
まだちゃんとあった。よかった。
設置しておいた【招運の木彫り置物(猫)】もそのままだ。多分インスタンスエリアなんだとは思うけど、もし無くなってたりしたら落ち込むくらいには、この部屋に愛着が湧いている。
やっぱりこの街が落ち着くな。
王都も街歩きをしたせいで、だいぶ慣れはしたが、なんかお客様気分が抜けなかったんだ。それに、街中を治療・清浄化しまくったせいで、NPCたちの視線がね……。
なんと言ったらいいか。
街を歩くと、NPCがみんな俺を拝んでくる。
だから気軽に買い物にも行けやしない。欲しかった料理道具とレシピだけは、気合いで確保したけどな!
*
ついさっき緊急イベントの報酬が来た。
◆[獲得ポイント] 10896 pt
◆[総合順位] 2位
◆[部門別ランキング]
・〈汚染源討伐〉圏外
・〈地下汚染地域の清浄化〉圏外
・〈王都市街地の清浄化〉1位
・〈罹患患者の治療〉1位
・〈生産品による貢献度〉圏外
・〈NPC好感度〉1位
3部門で1位。
これはまあそうだろうな。
だってこの3部門、ほぼ俺しか該当者がいないじゃん。
だが、[総合順位]2位には驚いた。俺、1匹も鼠を倒していないのに!?
[総合順位]1位になったプレイヤーは、火焔系特化の魔法上級職で、鼠をフロアごと焼き尽くす勢いだったとか。エリアボス「鼠王ゼプシス」も丸焦げにしたらしいし、納得の1位だ。
でもその1位と、俺の獲得ポイントは1000ptも違わなかった。
これは「疾病治療」で貰える評価ptが、かなり高かったというのがひとつ。
もうひとつは、公表されている3位以下の獲得ポイントが軒並み低いことから分かるように、討伐ポイントを1位のプレイヤーが、ほぼ総取りしちゃったということだ。
地上は俺が総取りだしね。
報酬は、ポイント報酬やランキング報酬がいろいろ。一覧はこの通り。
☆を付けたのが、俺が該当するところ。
《獲得ポイント報酬》
☆10001〜12000pt 120万G S/Jスキル選択券2 アクセサリ装備枠拡大券2
8001〜10000pt 100万G S/Jスキル選択券2 アクセサリ装備枠拡大券1
6001〜 8000pt 80万G S/Jスキル選択券1 アクセサリ装備枠拡大券1
4001〜 6000pt 50万G S/Jスキル選択券1
2001〜 4000pt 20万G アクセサリ装備枠拡大券 1
1001〜 2000pt 10万G アクセサリ召喚券 1
100〜 1000pt 3万G HP回復ポーション5 MP回復ポーション3
《総合順位ランキング報酬 1ー50位》
1位 ・SSR以上確定/職業別/防具召喚券1
・SSR以上確定/職業別/アクセサリ召喚券 1
・SSR以上確定/ジャンル別/武器召喚券1
・SR以上確定/アクセサリ召喚券1
☆2位 ・SSR以上確定/職業別/防具召喚券1
・SSR以上確定/職業別/アクセサリ召喚券1
・ SSR以上確定/ジャンル別/武器召喚券1
3位 ・SSR以上確定/職業別/防具召喚券1
・SSR以上確定/ジャンル別・武器召喚券1
・SR以上確定/アクセサリ召喚券1
4ー10位 ・SSR以上確定/ジャンル別/武器/防具召喚券1
・SR以上確定/アクセサリ召喚券1
11ー20位 ・SR以上確定/アクセサリ召喚券1 ・SR確定/アクセサリ召喚券1
21ー50位 ・SR確定/アクセサリ召喚券1
《部門別ランキング報酬 1ー3位》
※各部門の獲得ポイントが2001pt以上のプレイヤーが対象。
〈1位〉 祝福・宝石 〈2位〉 祝福 〈3位〉 加護 〈NPC好感度 1ー3位〉特殊称号
・〈汚染源討伐〉圏外
・〈地下汚染地域の清浄化〉圏外
☆〈王都市街地の清浄化〉1位 【ヒュギエイアの祝福】・「蛇燦石」
☆〈罹患患者の治療〉1位 【パナケイアの祝福】・「螺旋宝珠」
・〈生産品による貢献度〉圏外
☆〈NPC好感度〉1位 特殊称号『救済者』
いろいろあり過ぎて、分かりにくいよな。ここから、俺がもらった報酬(☆印をつけたもの)を抜粋すると、
・120万G
・ S/Jスキル選択券2
・アクセサリ装備枠拡大券2
・[SSR以上確定/職業別/防具召喚券]1
・[SSR以上確定/職業別/アクセサリ召喚券]1
・[SSR以上確定/ジャンル別・武器召喚券]1
・【ヒュギエイアの祝福】・「蛇燦石」
・【パナケイアの祝福】 ・「螺旋宝珠」
・ 特殊称号『救済者』
この通り。ガチャチケは3枚だ。それもSSR以上確定。これは嬉しい。早速引こう。まずは、職業別からだな。
・[SSR以上確定/職業別/防具召喚券]1
→LR【アイギスの雲楯】VIT+90 MND+120 AGI+40 LUK+30 耐久800
※ あらゆる邪悪・災厄を払う。不浄耐性(超)・闇耐性(超)。胸当て。
えっ虹!? えっえっ? ヤバッ! つっ、次だ!
・[SSR以上確定/職業別/アクセサリ召喚券]1
→SSR【光赫焜耀玉のロザリオ】MND+80 耐久∞
だよな。そうだよ。うん。次っ!
・[SSR以上確定/ジャンル別・武器召喚券]1
→UR【テミスの天秤棒】 STR+200 AGI+60 LUK+40 耐久600
※ 破邪の力を持つ。不浄特効(大)
えっ、また? 「虹」が2つも!?
それにLR。……もしかしてインフレ? 俺の知らない間に、ISAO内でインフレが起きてた?
◇
《ISAO運営長室》
〈コンコン!〉
「失礼します。草薙です」
「緊急イベントの報告か?」
「はい。技術班からアクシデント・レポートが上がって来ました」
「アクシデント? 今度はいったいどんなミスだ?」
「総合順位ランキング報酬の[SSR以上確定召喚券]の召喚確率に入力ミスがありました」
「今回初めて実装したやつか。どの程度のミスだね?」
「本来SSR 97% のところを67%、UR3%のところを30%、LR0.03%のところを3%、GR0.0003%のところを0.03% です」
GR (3/1000000=0.000003[G]) 0.0003%
LR (3/10000=0.0003[L]) 0.03%
UR (3/100=0.03[U]) 3%
SSR {(100ー[Q])/100=0.97} 97% [Q]=SUM[G,L,U]
↓アクシデント・レポート
GR (3/10000=0.0003[G]) 0.03%
LR (3/100=0.03[L]) 3%
UR (3/10=0.3[U]) 30%
SSR {(100ー[Q])/100=0.67} 67% [Q]=SUM[G,L,U]
「ダブルチェックしていれば簡単に防げたミスだな。つまり……」
「URが10倍、LRとGRが100倍です。修正は済んでいますが、召喚券配布10名・15枚のうち、3名・9枚が既に使用済です」
「GRは?」
「出ていません。出たのは、URが3名・各1枚の計3枚。LRが1名1枚。合計4枚です。回収しますか?」
「……いや。そのままでいいだろう。緊急イベントのランキング報酬だ。この程度なら、たまたま運のいいプレイヤーが3人居た、いつもより景気がいい引きだった。……ということでおさまりがつく」
「では、告知もなしで」
「そうしてくれ。第四陣投入目前で、騒ぎになるのは避けたいからな。召喚確率の下方修正は、非常にデリケートな問題だ。下手にやると要らぬ憶測を生みかねない。だが、次回からは同じことが起こらないように、くれぐれも気をつけてくれ」
「はい。では、そのように伝えます」
*
「大型アップデートの進み具合はどうだ?」
「順調です。ジオテイク川に設置予定の『渓流下り』も実装準備は終わりました」
「間に合ったか。それは盛り沢山でいいな。レジャーコンテンツの追加は、ライトユーザー獲得に向けて追い風になるだろう。今回でいよいよプレイヤー数が10万人を超える。大事な転換期だ。ここで失敗するわけにはいかないからな」
ISAOの販売は、いよいよ第四陣の参入を控え、大詰めを迎えようとしていた。
第四陣からは、ゲーム単体での販売が開始されるため、他ゲームからの流入や、ライトユーザーの増加が見込まれており、コンテンツの拡充は必須であった。
「既存プレイヤーは、各街へかなり分散しましたし、主要コンテンツの分岐インスタンスエリアも、予定通り追加しましたので、新規プレイヤーの受け入れは問題なく進むと予想されています」
「よしよし。第四陣の予約も好調だと営業から聞いている。ここまでは順調だな」
「王都緊急イベントの『バジリスク戦』を映した促販PVの評判が高く、他ゲームからの乗り換えユーザーに加えて、『特典付き新VRギアパッケージ』の購入者も増えているようです。やはりああいった派手なプレイを望むユーザー層もまだ多いですね」
「あれは編集がよく出来ていた。活躍したプレイヤーも大した身体能力だっだが、それを編集で上手く生かして観せていた。また、ユーザー層に馴染みが深い大型の悪役モンスターというのも、よりアピールできた要因のひとつだろう」
「私もそのように思います」
「今後、各ゲームメーカーも年末消費を狙って促販に力を入れてくるはずだ。それに対抗するには、PVが、ある程度煽った内容のものになるのは仕方がない。第四陣の誘致が終わるまでは、その方向で行ってくれて構わない」
「編集者に伝えておきます」
「そう考えると、第四陣参加の直前イベントで召喚が緩くなったのは、そう悪い結果にはならないかもしれんな。まあ、対象者が少ないし、たいした影響はないだろうが」
「次回促販PVは、予定していたレジャー関係のものに加えて、戦闘系のものも追加して欲しいと営業から要望が上がってきていますが、どう致しますか?」
「そうだな。何かいいネタはあるか?」
「構想班に確認したところ、現在攻略組が取り組んでいる、ジオテイク川下流域解放の三戦が、舞台としてはいい絵が撮れるのではないかと言っていました」
「ふむ。確か美女モンスター3戦だったな。いいかもしれんな。他の人気NPCもピックアップして、PVには台詞とナレーションの両方を入れる。映画の予告編風にテンポ良く仕立てあげるというのはどうだ?」
「NPCの構成はどう致しますか?」
「女性NPCが多いほうが受けるだろう。しかし、男性NPCもある程度格好良く登場させておいた方がいいな。今のご時世、何で反感を買うか分からないからな」
「では、絵コンテが出来次第、報告に上がります」
「うむ。忙しいだろうが、よろしく頼むと伝えてくれ」
*── 第四章 第4章 王都編 [了]──*
この回のアクシデント・レポートの下りは、書籍版ではかなり書き換えています。実際のゲームでは、召喚バグで獲得したアイテムは回収されるの一般的だからです。
次回は番外編「書籍2巻発売記念SS」を掲載予定です。
そのあと第五章が続きますので、引き続きよろしくお願い致します。
*──作品中に登場した疾病について──*
※以下は余談です。本編の進行とは関係ない内容なので、読み飛ばして頂いても支障はありません。
◆「黒い悪魔」
今回作品に登場した流行病にはモデルがあります。
中世ヨーロッパで猛威を振るい、人口の1/3─1/4、都市によっては半数以上の住民を死に至らしめたパンデミック「黒死病」です。
「黒死病」は、近年では1894年に香港で流行していますが、その時に原因菌である「Yersinia pestis(ペスト菌)」が発見されています。発見者はフランスの細菌学者であるイェルサン(Alexandre Emile Yersin, 1863ー1943)。ペスト菌の学名は、発見者である彼の名前から取られました。
同時期に北里柴三郎(1853─1931,次の千円札になる方です)も、ペスト菌の発見を医学雑誌に発表していましたが、単一の細菌として分離同定に至っていなかったため、学会に発見者とは認められなかった……と言われています(いろいろ諸説があります)。
1896年、ペストが日本に上陸した際に「伝染病予防法」の設立に尽力し、患者の隔離、検疫、流行地域の消毒やネズミの駆除に至るまで精力的に動き、日本でのペストの蔓延を防いだと言われるのが、北里柴三郎です。他にも、破傷風菌の純粋培養や様々な抗血清の開発など、沢山の業績があり「日本細菌学の父」と呼ばれています。
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