18 街イベント

《ピコン!》


《The indomitable spirit of adventure online (ISAO)のユーザーの皆様にお知らせ致します。


 予めお知らせしていた通り、第二陣の受け入れを、◯月◯日より開始致します。


 それに伴いまして、既にご利用中の皆様にもお楽しみいただけるよう、街イベントを開催致します。詳細につきましては、「お知らせ☆イベント詳細」をご確認下さいますようお願い申し上げます。


 引き続き、The indomitable spirit of adventure online (ISAO)を、よろしくお願い申し上げます。》



 街イベント? 「お知らせ」ポチっと。


《第3回 街イベント「色妖精を手に入れよう!」開催のお知らせ。


 イベント期間中、始まりの街とジルトレの街中のあちこちに、いたずら好きの色妖精が出現します。


 色妖精の好物である「花の蜜」を妖精に渡すと、色妖精の好感度をあげることができます。


「花の蜜」は、イベント期間中限定で街の周辺部に出現するイベントモンスター、花モンスター「メル」を倒すことで、ドロップアイテムとして入手できます。


「花の蜜」には、NとRの2種類あり、Rは入手率は低いですが、Nの3倍の好感度上昇効果を得られます。獲得した「花の蜜」は、ドロップしたプレイヤー専用のアイテムとなり、他のプレイヤーへ譲渡や販売はできません。



 色妖精には、 赤・青・緑・黄・白・黒の6種類があり、各色妖精にそれぞれ好感度が設定されています。

 また、一旦プレイヤーから「花の蜜」を与えられた色妖精は、他のプレイヤーからは「花の蜜」を受け取らなくなり、他プレイヤーと競合することはありません。


 イベント終了時に高い好感度を得られた色妖精は、イベント報酬として、イベント終了後に皆様のところにマスコットとして現れます(お一人様1体まで)。


 なお、入手した色妖精は、他プレイヤーに譲渡や売買はできません(姿を現さないように設定することは可能です)。


 さらに、イベント期間中、各色の色妖精の中で、最も高い好感度を得たプレイヤーの方6名を対象に、獲得した色妖精に相応しい特別衣装をプレゼント致します(同率1位が複数名いた場合は、対象者全員にプレゼントされます)。


 ※イベント期間中に限り、「花の蜜N」にはHP回復効果(小)・「花の蜜R」にはMP回復効果(小)が付与され、回復アイテムとして使用することも可能です(イベント終了と同時に「花の蜜」は回収されます)。


 イベント期間は◯月◯日◯時〜◯月◯月◯時まで。皆様是非ふるってご参加下さい。》



 街イベントってもう3回目なのか。


 今まであったのは、告知を聞いたような気はするけど、他のこと(神殿の仕事とか神殿の仕事とか神殿の仕事とか)で忙しいから、スルーしてたんだよな。


 色妖精……6色あるってことは、属性持ち、あるいは属性と関係あるとかかな? あと、マスコットってなんだ? ペットみたいなものか?


 あっ、説明あった。


 《※ マスコットとは、プレイヤーアバターの周りに現れ、様々な動作で皆様を楽しませる存在です。戦闘に参加することは出来ません(戦闘中は姿を消しますが補正効果は継続します)が、フィールドや街中で活動の際には、プレイヤーのお供をし、若干のステータス補正・属性補正をプレイヤーに与えます。生産に、旅のお供に、是非入手を試みて下さい。》


 うーん、この説明を見る限りでは、街中にいることが多い俺には、ちょっと気になる存在かな。少しだけど補正も付くっていうし、生産職なら絶対欲しがりそうだ。


 でも結構面倒くさそう。「花の蜜」って、いくつ集めれば妖精をGETできるとか書いていないし。


 さて、どうしようかな。



 ◇

 


 ……で、ただいまフィールド。絶賛狩り中です。


 そう、メル狩り。花モン「メル」だ。


 知り合いに見つかると恥ずかしいから、シンプルな神官服に着替えてやっている。こういう時、地味メンで良かったとつくづく思う。大衆に埋没して目立たない……はず。


 最近、街中を歩いていると、知らないNPCが会釈してくるのは気のせいだ。手を合わせて拝んでいる婆ちゃんが見えるのも錯覚だ。



 ……で、ただいまフィールド。絶賛狩り中です(大切なことだから二度いう……ってわけじゃない)。


 いや、何もちっちゃい子が好きなわけじゃない(ないんだぞ!)。


 そう、俺はどっちかっていうと、お姉さんが好きだ(かなり好きだ!)!


 じゃあ、なんでここに来ているのかっていうと、これには深〜いわけがあるんだ(そうだ理由があるんだ!)。



 *



 街イベントが始まってすぐ、俺がいつものように厨房で賄いを作っている(相変わらず作っている。……が、これにも理由がある)と、いるんだ。目の前に。パタパタちっちゃいのが。


 で、ジーって調理中の食材を見ている。


 で、やりやがった。小麦粉ダーイブ!


〈 バッフン!!〉 (粉・粉・粉・粉……)


 辺りも俺も真っ白さ。


「はっはっは。神殿長様、やられましたね。もうそんな季節ですか」


(どんな季節?)


「色妖精は、花の蜜が好きなんですよ」


(知ってる)


「花の蜜は、この時期になると街の周辺に出没する花モンスターから採れます」


(それも知ってる)


「一旦、目を付けられますと、蜜をあげるまでいたずらを止めませんよ、その子たちは」


(なんだと!)


「ここは私がやっておきますから、神殿長様は是非、蜜を集めに行ってらして下さい」


(ありがとう! おっちゃん。)


「では、お言葉に甘えて、早速出かけてきます。すみませんがあとはよろしくお願いします」



 *



 ……というわけだ。


 NPCのおっちゃん(厨房の料理人。そう、この神殿には専属の料理人がいる)の勧めで来ているわけです。


 はい。


 リアルでは平日の午前中だからか、幸いフィールドに出ている人は少ない。これぞ学生特権。


 ……ってことで、狩って狩って狩りまくる。「メル」たちごめんね! 俺の栄養になってくれ!


 なんかこの「メル」って花モンスター、モンスターらしくないんだよね。接近すると、ピュッって蜜飛ばしてくるだけで、たいしたダメージにはならない。


 外観は、あの頭に花を咲かせた某カッパによく似た三頭身。こんな無害そうな生き物を撲殺している俺って……。


 はい。ゲームです。遠慮なんかしないよ。


 一応モンスターなわけで、どんどんいけます。少しだけど経験値も入るし。蜜も集まる。


 久々に思いっきり得物を振り回しているうちに、なんだかとても楽しくなってきた。危険がないから、棒の扱いをいろいろ試してみる。今の俺は、斉天大聖・孫悟空さ(チュウニ)!!


〈ブンブン、クル〉っと。


 風圧を起こしながら、バトンみたいに片手で棒を回す練習をしながら、


〈ドス、ドス、クル〉っと。


 距離をはかって、回しては突く回しては突く。


 こういう動きは竹刀じゃできないもんね。特に、クルって回すのが気に入っている。


〈ブンブン、クルクル、ドスバコ、クルクル………〉


 大きくぶん回して、敵をまとめて弾き飛ばし、手元で回してタイミングを計りながら突いて叩いてまた回す。


 このカッパ君は、頭頂部の花が潰れると一発でノックアウトできるので、積極的に狙っていく。うまくぶん回しが当たると、まとめて何体分もの花が散っていくので楽だ。



 *



 はい。調子に乗りました。


 ログアウト用に仕掛けておいたタイマーの音で、ふっと我に返ってアイテムボックスを覗いたら、


 ・イベントアイテム[花の蜜N]468

 ・イベントアイテム[花の蜜R]102


 やだよ、俺。5時間近くボッコしてた。


 その割には蜜の数が多いんじゃないかって? なんかね、30分くらい連続して花モンをボッコしてたら、ジャックポットっていうの? 一時期、凄い大量湧きするんだよ。周りに人がいなくて独占状態なわけだから、いわゆる総取りになった。


 フィールドの遠くの方でも、俺と同じようにモンスターに埋もれている人を見かけたから、俺だけじゃなくて誰にでも起こりえる仕様だと思うんだけどね。


 おっといけない。ログアウト。昼飯食べて講義受けに行かなきゃ。


 妖精に蜜をあげるのは、帰ってきてからだな。リアルで夕方にログインだと、こちらはまた昼時間帯だ。


 明日は土曜だからフィールドは、超混んでいるだろう。だから明日は、採ってきた蜜を妖精にあげて、やつが大人しくしているうちに神殿の仕事を消化するとしよう。



 


 はい、ログイン。


 ただいまクッキング中。蜜プリン、蜜ビスケット、果物の蜜煮…で、今は蜜カステラを焼いているところ。……なんでこんなこと(お菓子作り)をしているかというと、


 一言でいえば、スキルのせいだ。


 俺は、このジルトレの神殿に来た時点で、【調理Ⅴ】を持っていた。さらに職業固有スキルで「聖属性付与」ができる。


 それを知った厨房の料理人である「おっちゃん」(フランシスって名前だが、本人が呼ばれるのを嫌がるので、「おっちゃん」って呼んでる)に、【調理】中に「聖属性付与」を使ってみることを勧められた。


 ……そしたら、出来ちゃったんだよ。


「聖なるパン」や「清聖のスープ」「載福のかぼちゃ煮」といった、MND+LUK+付きの料理が。



 最初に作ったときなんか、NPC神官の人たちは、涙を浮かべて食べていた。副神殿長のクラウスさんは、賄い料理を前にずっと祈っていて、なかなか食べてくれなかったけど。


 MND+料理(バフ料理)を食べると、聖なる力が体に宿って天国を身近に感じるんです……とか言って、みんな期待を込めた目で俺を見つめて来るので、それからも折あるごとに作っていたら、「聖なるシリーズ」の料理レシピがどんどん増えていった。


 さらに、俺がログアウトしている間にも摘めるようにってお願いされて、お菓子作りもするようになった。


 リアルでは、お菓子作りなんてやったことなんかなかったけど、[料理長]であるおっちゃんの指導の元に、指示通りに作業していったら、わりと簡単にレシピを手に入れることができたんだ。


 レシピさえ揃えば、あとはセミオートで作ることが出来るから楽なんだ。さすがゲーム。


 そして、それだけじゃなくて、変わったスキルも手に入ったし。


【J聖餐作成Ⅰ】MND+5 DEX+5


 あるんだな。こんなスキル(ISAO、奥が深いぞ)。



 それで、どうして今、そのお菓子作りをしているかというと……。


 フィールドで集めて来た「花の蜜」をあげようと思って色妖精を探すと、相変わらず厨房にいるのを見つけた。


 ……んだけどね、俺の作り置きしてた菓子類で餌付けされてやんの。おっさん他、神官たちに。


「花の蜜」以外も食べるんだ、こいつ……って驚いたけど、いざ「本命」の「花の蜜」の方が喜ぶだろうと思って勧めても、食わない。


 バグか? バグなのか?


 って思って運営へメールしようとしていたら、


「『花の蜜』でお菓子を作ったらいいんじゃないですか?」


 っておっさんが言いだして、目の前でパタパタいってるやつも、ブンブン首を縦に振ってた。


 NPCが言い出すってことは、仕様なんだよな、きっと。この妖精白いしな。天国を身近に感じたいのかもしれない。そう思ったので、それからずっと、お菓子作りをしている。


 作るそばから、すごい勢いで食べてるよ、この子。


 ねえ、どこに入っていくの、それ? 亜空間胃袋? おかしいだろう、サイズ的に。


 そして蜜菓子と一緒に、通常のお菓子も作っている。ついでだし。だいぶ減っていたから。うん。今日の「仕事」はこれでいいや。


 狩ってきた「花の蜜」を全部お菓子に変えて、今日はログアウト。


 ……なんか甘い匂いで胃がもたれてきた。シャワーを浴びて今日は寝よう。



 ◇



 そんなのを続けていたら、


《ピコン!》


《おめでとうございます。色妖精が仲間になりました。名前をつけてあげて下さい。》


 おっ。もう来たか。思ったより早いな。名前、名前ねえ。


 こいつは食いしん坊だから、お菓子っぽい名前がいいか。


 白いお菓子……マカロン……はカラフルだな。綿あめ……は、なんかベトベトしそうだ。大福……あっ、なんか睨んでる。……はやめて、ババロア……は婆さんみたいだしな……やめろ、突つくなって!


 よしっ、これに決めた!


《色妖精(白)》名前[メレンゲ]

[レベル]1 [HP]5[MP]5

【妖精の服】効果なし

【妖精の接吻I】MND+10付与 聖属性スキルの効果上昇(小)


 パタパタも気に入ったみたいだ。おっと、メレンゲだったな。だから睨むなよ。怖くないぞ、全然。


 それにしても順調に手に入ったな。これでイベントも終了……って、いてっ! 何? ダメ? もっとお菓子を食わせろだと。太るぞ、おい! っていてっ! だから、やめろって。


 ち・が・う?


 スカートめくって何してんだ? パンツ見えても嬉しくないぞ(本当だぞ!)。


 ピラピラ? パタパタ?


 ああ、衣装か。衣装が欲しいのね。ちびっ子でも女の子だもんな。だから、痛いって!


 わかった。わかった。わかりました。ハイハイ、蜜を採りに行けばいいわけね。


 ブンブン首振ってら。仕方ないな、もう。


 まあいっか。棒振りも楽しいしな。イベント期間中は、付き合うとしますか。



*── 第3回 街イベント「色妖精を手に入れよう!」結果 ──*


《色妖精(白)》名前[メレンゲ]NEW!

 レベル1[HP]5[MP]5


【妖精の服】効果なし

【渾天のドレス(翼)】MND+20 耐久∞ ※ランキング報酬・特別装備

【妖精の接吻Ⅰ】MND+10 聖属性スキルの効果上昇(小)

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