19話 復讐の旋律
ーーーいっ…今のって、そんなにやばいのか?!
『この世界の人間にとっては大変な事だと思うよ。竜王って言ったら、歴史上に存在した竜人族の王で、高慢で邪悪な存在だからね。』
ーーー学園長先生が飛び出していくくらいだもんな。相当やばいのはわかった気がする。でも、大丈夫なのかなぁ…
『う〜ん…おそらくだけど、ライブラリ君では太刀打ちできないかもね。さっき飛んで行った奴、かなりの魔力量だったもんね。』
ーーーたっ…太刀打ちできないって事は負けるって事?
『ただ負けるだけならいいけど、相手が相手なだけに死んじゃうかもね。』
ーーー!!!?
《タケシ…お爺ちゃんが心配だよ。確かにあれはやばいよ…僕の素式感知でもわかるもん…》
ーーー…そうだ!ワイドがいるぞ!!あいつは学園長先生よりも強いって噂だし…ワイドが倒してくれるんじゃないかな!
『ワイド=チョークのことかい?確かに彼は優秀だけど…魔力量が足りないかなぁ。勇者くらい魔力がないと、たぶん負けるよ。』
ーーーまじかよぉ…あぁ〜!!もう!!他に竜王に太刀打ちできる奴はいないのか?!その…勇者って奴は?!いないの?!
『勇者は伝説の存在だからね。前の竜王を倒したのがその勇者らしいけど、彼がその後どうなったかは、誰も知らないらしいよ。その血筋すら、残っているかは定かじゃないって。』
ーーーじゃあ、どうしたらいいんだよ!!このままじゃ、俺の異世界ライフも平和じゃなくなっちまうよ!!あ〜くそ!!いないのか?勇者並みに魔力を持ってる奴は!!
『いるじゃない、ここに。』
ーーーあっ?どこに?ツクモ様まで、頭おかしくなったか?
『怒ってるとはいえ、僕にそこまで言うかよ…まぁ、そういう奴は嫌いじゃないけど。なんで気づかないかなぁ…きみだよ、きぃみ!!黒板消し君。』
ーーー!!!?俺?!
《そっか!そうだよ、タケシ!!君なら竜王の何倍…いや、何百倍もの魔力を持ってるんだ!!なんとかなるかもしれないよ!!》
ーーーリーナまで何言ってんだ!無理に決まってるじゃないか!!そんな…戦うってことだろ?黒板消しだよ!?俺!魔法だって、"動く・見る・吸う"しかできないんだよ!!
《任せて、タケシ!!僕に考えがあるんだ!!ツクモ様との交信で、タケシの魔力も結構使ってるから…うん、いけそうだね!!》
ーーーいけそうって、おまっ…リーナ!!無茶だろ!!勇者しか勝てない相手だぞ!?
《その勇者は今いないんだから、タケシが勇者になっちゃおう!!》
ーーーアホかい!!黒板消しの勇者なんて、聞いたことないわ!!!だめ!絶対行かない!!俺は嫌だ!!!
『どうやら話は済んだようだね!』
ーーーうおぉっい!!ツクモ神!!済んでるわけないだろが!!今の話をどう聞いたらそう結論が出るんだ!!!
『僕としても、今この世界で竜王が暴れるのは好ましくないんだよね…。リーナ、任せていいかい?』
《もちろんだよ!!タケシ安心してよ!勝算はあるからさ!!》
ーーーそういう問題じゃなぁぁぁぁい!!
『じゃあ、今回は特別に、僕がライブラリのところに転移してあげよう!』
ーーー話を聞けぇぇぇぇ!!!!!
《ツクモ様、ありがとう!!!》
『どういたしまして!後で土産話、聞かせてねぇ〜ほい!』
その瞬間、タケシたちはツクモの魔法でライブラリの下へと転移させられるのであった。
◆
「奴が向かった方角は…なんちゅうことじゃ!まさか学園の方とは…急がねば!!」
ライブラリの視線の先には、少し高い丘の上に見える学園の校舎が映っている。
上空を飛び抜けていった邪悪な気配。
その気配が学園の方から感じられ、ライブラリの頭に嫌な予感がよぎった。
(頼む!間に合ってくれ!!)
そう考えながら、急ぎ学園に向かっていると、急に目の前に黒板消しが現れ、ライブラリはとっさにそれをキャッチする。
ーーーくっそぉ〜!ツクモ神のやつ、嫌だって言ったのにぃぃぃ!
「タッ…タケシかっ!?」
《お爺ちゃん!僕らも一緒に行くよ!!》
「ムッ…ムゥ、相手は竜王じゃぞい。わしですら、手に負えるかどうかわからん存在じゃ…気持ちはありがたいが…」
《安心してよ!何も考え無しに来たわけじゃないからね!唯一の可能性…タケシの魔力量に賭けようと思ってる…それに、お爺ちゃんにも手伝ってもらいたいことがあるんだ!》
「わっ…わしにか?!」
《うん!!それにはまず、あいつのところまで行かないと!!》
「…わかった!確かにタケシの魔力量ならば、可能性はあるやもしれん!!急ぐぞぃ!!」
ライブラリはそう言って、再び学園へと急ぐのであった。
◆
「であるからして…」
学園では、いつも通り多くの講義室で授業が行われていた。その平和な日常を、一瞬で引き裂く轟音が響き渡る。
ズドォォォォォォォン!!!
校庭の真ん中に、爆音とともに砂煙が舞い上がる。
「なっ…なんだ!?」
「隕石か?」
「どうしたんだ!」
講義は中断され、多くの講師や生徒たちが野次馬のように校舎の窓から校庭を注視している。
そんな中で、ワイドだけが砂煙の中から感じられる邪悪な気配を感知して、校庭へと飛び出していた。
「こっ…この気配はまさか…」
背筋に冷たいものを感じながら、ワイドは晴れゆく砂煙を注視する。一瞬、人影が見えたかと思うと、激しい風が吹き荒れ、砂煙が瞬時にして吹き飛ばされてしまった。
「おや?懐かしい顔だな。チョークよ…久しぶりだな。どうしたのだ…?そんなに青ざめた顔をして…」
「ジマク…お前、生きていたのか!その…禍々しい魔力はどうしたんだ!!これではまるで…」
「ハハハ…竜王だ、とでも言いたいか?まぁ、あながち間違いではないが、私は竜人族ではないからな。…そうだな、あえて呼ぶならば魔人…いや、魔王か。そう、我輩は"魔王ジマク"である!!フハハハハハ!!」
その瞬間、再び激しい風が吹き荒れる。その風で校舎の窓が割れ、講師や生徒たちから悲鳴が上がる。
「…くっ、貴様にいったい何があったというのだ。なぜ、そのような魔力を手に入れることができた!?」
「…この力か?これはな、3年前、お前に殺されかけ、吹き飛ばされた先の地で、運良く見つけたある物のおかげだよ。」
「ある物…?いったい何を見つけたというのだ!!」
「知りたいか?…クククク、俺が何を手に入れたか…まぁ、教えてやらんでもないが…今から死にゆくお前が、それを知ってどうするのだ!」
そう言って、ジマクが右手をワイドに向けた瞬間、ワイドの目の前で大きな爆発が起こった。突然の衝撃に、ワイドは目を閉じて両腕で顔をかばい、体を背ける。
衝撃が消え、うっすらと開いた視界には、深さすら予想できないほどの大きな穴が開いていた。
ワイドはそれを見てゾッとする。
今の自分でも、ここまでの威力の魔力玉を練ることはできないからだ。
(ただの魔力玉を放っただけで、この威力とは…これは…まずいな…)
目の前で醜悪な笑みを浮かべているジマクに対し、ワイドはその場を動くことすらままならない。
「…強くなり過ぎてしまうのも考えものかな?ワイドよ…俺には今、お前がとても小さく見えるよ。」
ジマクは、そうワイドに告げると、フワッと宙へと浮かび上がる。
「お前への恨みが、俺にこの力を与えてくれたのだ。ある意味で、お前には感謝しなくてはな…」
「…貴様に感謝される筋合いなどない!」
「フンッ…その強がり、いつまで続くのかな?生徒たちを殺されても、まだそんな口が聞けるのか?」
ジマクはそう言うと、ワイドの少し後ろに見える学園の生徒たちに目を向けた。ワイドもそれに気づいて後ろを振り向く。
マリンやエミリア達が…先ほどまで自分の講義を受けていた生徒たちが、校舎から出てきており、こちらを見て叫んでいるのが見えた。
「あれがお前の生徒たちか。どれ…とりあえず…死ね!!」
ジマクは、ワイドの視線の先にいるマリンたちへと狙いを定めて魔法を放つ。それは先ほどと同様に、ただの魔力玉であった。
「くそっっっ!!」
紫色の魔力の球が、生徒たちをめがけて飛んでいく中、ワイドは咄嗟の判断で、自分の両足に魔力を注ぎ込み、瞬時に生徒たちの前へと移動した。
目の前に来たワイドに、マリンが怯えながらも声をかける。
「せっ…先生!!」
「大丈夫だ!!全員、私の後ろに下がれぇぇぇ!!」
生徒たちを庇うように両手を広げ、そう叫ぶと、ワイドは防御障壁を全開で発動させる。
そして、ワイドが展開した防御障壁に、ジマクの魔力玉が当たった瞬間、かつてないほどの大爆発が巻き起こったのだった。
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