決戦! 〜アンデッド・リザレクション!〜

 うぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?


 989秒!? 989秒も待たないと使えないのこれ!? そんなの……魔王相手に果たして持ちこたえられるだろうか! いや、多分無理! でもそっか、明らかに強そうな魔法だから、それくらい詠唱時間ないとすぐに魔王倒されちゃうからね……。


 私は悲鳴を上げそうになるのをなんとかこらえた。相手に悟られないようにしないと! 作戦変更! 速攻はやめて時間稼ぎをしよう!


 といっても、私たちはもうバリバリ戦闘を始めてしまっていて、目の前にはイブリースの振りかざした大鎌が迫っていた! とりあえずあれをなんとかしないと! 防――ぐのは怖いし、かわすっ!


 私の大幅に強化された素早さをもってすれば、イブリースの攻撃をかわすのはたいして難しいことではなく、身体を少し逸らしただけで大鎌の軌道から外れることができた。



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 スキル【自動反撃(オートカウンター)】が発動しました!


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「てやぁぁぁぁっ!!」


 鎌を振り抜いてがら空きになったイブリースの背中に、私はクルッと身体を回転させて、回し蹴りをお見舞しようとした。これで決まってくれればいいんだけど……! どうやらそんな簡単にはいかないらしい。そりゃそうだよね!



「――【幻影転移(ファントムムーヴ)】!」


 ふっとイブリースの姿が黒い煙のようになって消え去る。私の蹴りは空を切って、思わずバランスを崩してしまった。転けそうになるのを踏みとどまり、顔を上げると、視界に茶色がかった金色の髪が広がった。


「お返しよ」


「――ぐっ!?」


 幼女の右拳が思いっきりお腹に突き刺さり、私はあまりの衝撃にうめき声を上げた。目の前に星が飛んで危うく気を失いそうになる。

 ゲームの世界で気を失ったらどうなるのかは分からないけれど、きっとロクなことにはならないだろう。私は必死に耐えるが、イブリースの猛攻はこれだけでは終わらなかった。


「隙だらけよ」


 イブリースは私の足を素早く払い、尻もちをついた私の頭部に踵(かかと)を振り下ろしてくる。――左手に持った鎌は一切使わずに、余裕ぶっちゃって……!


「危なっ!」


 私はなんとか横に転がってイブリースのかかと落としを回避した。こんなの洋画のアクションシーンでしか見たことないけど、やれば出来るもんなんだね!

 ついでに幼女さんのおパンツを拝見しようとしたけど、悲しいかな、彼女もミルクちゃんと同様にドロワーズを着用されていたので、パンチラは拝めなかった。


 腹パンでHPは一割弱削られてしまったけれど、パンツ見る余裕があるんだから私もまだへーきへーき! と自分を鼓舞して立ち上がる。



「よくかわしたわね」


「あはは、まぐれですよまぐれ」


 チラッと【破滅の光】の詠唱カウントダウンを見てみると――うーん、まだ950秒くらいある。なかなか減らないなぁ。

 接近戦の経験がほとんどない私にとって今の状況はどう考えても不利。なんとか遠い間合いで戦えないかなぁ。――かといってホムラちゃんを巻き込んだところで彼女を危険に晒すだけだし。


 どちらにせよ状況は芳(かんば)しくない。だとしたらひたすら逃げに徹して……。

 と、私が考えを巡らせていると、イブリースがこんなことを口にした。


「私も、接近戦は得意じゃないのよね?」


「!?」


「聞いたことない? 『死霊術師(ネクロマンサー)』って」


「そういえば……」


 ある。ここら辺を覆っている分厚い雲についてクラウスさんとキラくんが考察してた時に、イブリースの職業(ジョブ)が『死霊術師(ネクロマンサー)』なんじゃないかっていう話があった。まさか本当だったなんて……クラウスさんとキラくんの考察は意外と的を射ていたようだ。



「そして、なんで私がわざわざ部下の大群を差し向けてあなたに殺してもらったのか……分かるかしら?」


「……?」


 私が首を傾げると、イブリースはため息をついた。


「死霊術(ネクロマンス)を使うためよ。――死体が消し飛んでしまったからゾンビやスケルトン、グール、マミーなんかは召喚できないけれど、その代わり――」


 イブリースは鎌を杖のように構えて、魔法を唱える素振りを見せた。

 させないっ! 魔王の魔法なんか絶対にヤバい魔法に違いない! 私はチート級の素早さを活かして瞬時にイブリースに接近すると、詠唱を妨害すべく右拳を振るう。

 しかし魔王は――笑っていた。



「――それを待っていたのよ。――【強襲反撃(カウンターアサルト)】! 【シャドウバインド】!」


「なぁっ!?」


 再びイブリースの姿が黒い煙となって消える。これもう一生攻撃当てられないんじゃないかな! さっきから聞き慣れないスキルとか魔法ばかり使ってきて……!

 それだけじゃない。今度はその黒い煙が私の身体にまとまりつき、瞬時に実体化して、黒い帯のようなものになって私の身体を地面に縫いつけた。


 力いっぱいもがいてみたけれど、拘束はビクともしない。これでイブリースに好き放題やられる。あんなことや……こんなことなんかも……こ、このっ!


「この変態幼女っ!」


「はぁ?」


 目の前に現れたイブリースは一瞬呆気に取られていたようだが、すぐに気を取り直して、口元に手を当ててふふふっと笑う。優雅でお上品だけど、やってることは人を拘束して楽しむってことなので、下品だ。



「ココアっ!」


「ホムラちゃん逃げて! 私は大丈夫だから……!」


「けどよ!」


「逃げた方がいいかもしれないわね? 抵抗するならあなた達も殺すわよ?」


「……クソッ!」


 私とイブリースに口々言われたホムラちゃんが、踵(きびす)を返して村の方に駆けていく。私の不利を悟って、犠牲者を一人でも減らすべく村の人たちを逃がしに行ったのだろう。それでいい。だってこれはゲーム。私は死んでも死に戻りリスポーンができるのだから!


「さて、邪魔なやつもいなくなったところだし、私の死霊術(ネクロマンス)を特等席から見ていてもらうとするわね」


 イブリースが鎌を構える。かまをかまえる……これは別にダジャレではない。


「不死の魂よ。生死の理(ことわり)を超越し、汝(なんじ)の復讐のため蘇(よみがえ)れ! 【アンデッド・リザレクション】!」



 ――グサッ!



 大鎌の柄が地面に突き刺さる。するとそこからゴゴゴゴッと地割れが発生し、いくつものヒビが地面に幾何学模様を描いていく。そしてその地割れから漏れ出る紫色の光――禍々まがまがしい炎。


「あははははっ! 恐れおののきなさい! これが魔王の力よ!」


 うわ、まさに悪役って感じのセリフ! 私はどうすることもできずにその様子を眺めていた。


 地面から赤黒い靄(もや)のようなものがいくつも立ち上り、それはやがて数多(あまた)の丸い塊を形成する。


「――お、おばけ!?」


 現実(リアル)で起きたらちびっちゃうくらいおぞましい光景だった。だって目の前が真っ赤で真っ黒でドロドロで……アレなんだもん(語彙力)!



「近いわね。――ファントム、レイス、スペクター。いろいろ呼び方はあるけれど、強い怨(うら)みによって顕現した霊体よ。対象に取り憑(つ)いてその精神を犯すの。ちなみに物理攻撃は効かないから注意ね。――まあ今のあなたに言っても仕方ないわね。ふふふっ♪」



 妖(あや)しく笑うイブリースの声に従うように、赤黒い塊は一斉に身動きの取れない私へと殺到してきた。

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