急襲クエスト! 〜嫁入りをめぐる決闘!〜

 自分が決闘する時は、なんかカウントダウンのようなものが見えたのだけど、第三者からはそれは見えないらしい。

 とにかく、数メートルほどの距離をとって睨み合っていた二人は、同時に動き出した。



 ――シュンッ


 ――シュンッシュンッ



 セレナちゃんが左右にステップを踏みながらスナイパーライフルから青いビームを放つ。セレナちゃんのライフルって何発か連射できるみたいなんだけどどういう仕組みなんだろう……?


 動きながら撃つことで射線をずらして回避を難しくさせる作戦みたいだけど、アンラマンユは大剣をビュンビュンと振り回しながら器用に弾き返した。


「――チッ、貫通無効武装ですか……!」


「魔剣だからな。そんな攻撃ではビクともしねぇぜ? ――んじゃあ次はこっちの番だな!」


 アンラマンユは走り込みながら凄まじい勢いで大剣を横薙ぎに振るう。



 ――ビュゥゥンッ!!



 大剣が風を切る轟音が響いた。私の隣でキラくんが息を飲む。回避が間に合わずに咄嗟に『魔導盾』を四枚重ねて攻撃を防ごうとしたセレナちゃんだったが……。


「……くっ!?」



 ――グシャァッ!!



 金属がひしゃげるような、耳障りな音がした。アンラマンユの大剣はなんとセレナちゃんの魔導盾を四枚一気に破壊してしまった!


「――【開放(バースト)】!」



 ――バァンッ!!



 破壊された魔導盾を爆破し、衝撃で距離をとったセレナちゃんは、なんとライフルを捨ててナイフを構えた。そしてそのままアンラマンユに突進する。アンラマンユはまだ爆破の衝撃から立ち直れていない。


「なっ!?」



 ――グサッ



 セレナちゃんはアンラマンユの脇腹を切り裂いて背後に斬り抜けた。やった! これはかなり効いているでしょう!――が、二人のHPバーを見比べた私は驚愕した。

 アンラマンユのHPはほとんど減っていない。確実に攻撃は当たったはずなのに!


「なんだぁ? 蚊が刺したのかな?」


「――チッ」


「そんなちゃちぃナイフの攻撃で、このアンラマンユ様が倒せるわけねぇだろ? 大人しくアンラマンユ様の妃になれ。な?」


「――だれが! 【自動迎撃(オートインターセプト)】!」



 ――バシュッ!


 地面に捨てられたセレナちゃんのスナイパーライフルが火を噴く。レーザービームは、アンラマンユの右肩を貫いた――が、これも大してダメージを与えられていない。


「なんだ、つい食らっちまったけど、そっちの武器も大したことねぇな。――ほらよっ!」



 ――ブゥンッ!!



「くはっ……!?」


 セレナちゃんがアンラマンユの大剣の一撃を受けて吹き飛ばされた! と同時にそのHPが消し飛ばされる。――まさか一撃で!? ソラさん並、いやそれ以上の攻撃力だ。


「セレナ!」


「セレナさんっ!!」


「クソっ! オレが戦っていれば!」


 クラウスさん、ユキノちゃん、ホムラちゃんが口々に叫ぶ。

 吹き飛ばされたセレナちゃんは、遠巻きに眺めていた私の近くまで飛んできた。助け起こそうとした私を彼女は右手を上げて制する。手を出すなということだろう。セレナちゃんのHPはミリ単位で残っている。【即死回避】で耐えたのだ。


「【自動回復(オートリペア)】」


 セレナちゃんが呟くと、たちまち彼女の身体は緑色の光に包まれ、HPは全快した。とはいえセレナちゃんはアンラマンユに有効な攻撃を持ち合わせていないように見える。――なにか、何か手はないのだろうか?



「――ココアさん」


「は、はいっ!?」


「しっ、静かに。あいつに気づかれないように」


「はい」


 倒れた体勢のまま、小声で私に話しかけてきたセレナちゃん。――まさかこっそり私と話すためにわざわざ敵の攻撃を受けて吹き飛ばされてきたの!?


「――このままでは負けてしまいます。――不本意ですが、あいつの妃になるのはもっと不本意なので奥の手を使います」


「奥の手?」


「はい。しかしこれはHPとMPの消費が激しく……使用すると【自動回復】は使えなくなってしまいます。そこで敵の攻撃を受ければ一発で負けです」


「わ、私は何をすれば……?」


「決闘には乱入ができます。気づかれないように乱入すれば……そのためにはココアさんは直接戦うのではなく……」



 ――セレナちゃんは私の耳元で二、三言囁いた。私はセレナちゃんの碧と金のオッドアイを見つめ返す。――そしてこくりと頷いた。


「――わかりました。やってみます」


「辛い思いをさせてしまいますが……ココアさんにしか頼めないので」


「大丈夫です。私、ドMらしいので! あとこれはHP極振りの私が適任ですよね」



「さてと、そろそろトドメさすかぁ!」


 大剣を振り上げたアンラマンユがセレナちゃんに歩み寄ってくる。私はセレナちゃんから離れて距離をとった。そして、こっそりウィンドウを操作して『決闘メニュー』から『乱入』のボタンを押した。――アンラマンユから見たら私の頭上にHPバーが映るだろうけれど、幸い彼はセレナちゃんに夢中なのでこちらを見向きもしない。


「――心配すんな。妃になる娘を無惨に殺したりはしないさ。それに魔導族は一部破壊されても再生するんだろ? ――だったら」



「――【オーバードライヴ】!!」


 セレナちゃんの凛とした声が響いた。その瞬間、彼女の身体は銀色の光を放ち、美しい銀髪がブワッと広がる。辺りにキラキラ光る粒子が散らばった。――なにあれ!? あれがセレナちゃんが言っていた『奥の手』ってやつなの!?


「な、なんだぁっ!?」


 アンラマンユも突然のことに驚きを隠せないようだ。

 よく見ると、セレナちゃんの右手には銀色に輝く日本刀のようなものが握られており、両足は変形してよくアニメとかで見る機械のブースターのようなものがついている。そして――


 セレナちゃんの全快だったHPは徐々に減少を始めた。あの形態はそう長くはもたないのだろう。


「――覚悟っ!」


 凄まじいスピードでアンラマンユに斬りかかるセレナちゃん。明らかに先程とは動きが違う。アンラマンユも大剣を振るってその攻撃を防ぐが、徐々に押され始めた。


「あははっ! すげぇな! マジか! あいつ、めちゃくちゃインファイターじゃねぇか! なんであれをソラとの戦いの時に見せなかったんだ!?」


 ホムラちゃんが興奮した声で叫ぶ。そう、私もそれが気になっていた。あの時の――決勝戦のセレナちゃんは、のだ。それが私が感じた違和感の正体――そしてセレナちゃんが皆に知られたくなかったもの。


「多分だが……セレナは、を持っていることを知られたくなかったんじゃないか?」


 クラウスさんが指さした先、セレナちゃんはなんと、強化形態の【オーバードライヴ】でHPを削られれば削られるほど、身体の輝きが増してスピードと技の威力が上がっていくように見えた。


「――それはお嬢ちゃんが一番よくわかってるだろ?」



「はい。――受動(パッシブ)スキル【被虐体質】です。――多分」

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