急襲クエスト! 〜魔王配下『アンラマンユ』襲来!〜

「いや待て」


 口を挟んできたのはなんと長老さんだった。


「本当にこの辺りの『はぐれ魔獣』を一掃してくれたのか!?」


「だからそうだって言ってるでしょ?」


 リーナちゃんが面倒くさそうに答えると、長老さんは露骨に訝しげな表情になってしまった。そして、村の方を振り返り、大声で叫んだ。



「おぉぉぉい!! そこから見渡して『はぐれ魔獣』は見えるかぁぁぁっ!!」



 しばらくして、櫓(やぐら)から男の声で返答が返ってきた。


「あ、あのぉぉぉっ!! ……見えませんっ!! おかしいですねぇぇぇっ!! 今朝は沢山いたはずなんですけどぉぉぉっ!!」


「それは本当かぁぁぁっ!!」


「本当ですぅぅぅっ!!」


 長老は目を見開いたままゆっくりとこちらを振り返った。


「ほらね?」


 リーナちゃんはかなり得意気だけど、多分リーナちゃんよりもホムラちゃんとかセレナちゃんの方が沢山狩っていたんじゃないかな?


「――あれだけの『はぐれ魔獣』をあんなに短時間でたった七人で……?」


「いえ、三人です。私と、そこのニンジャ娘と、そこの赤いバカの三人でやりました」


 セレナちゃんが責められた末に開き直って悪事を白状する子どものような口調で訂正すると、長老さんはあんぐりと口を開けて固まってしまった。そんなにありえないことなの?

 まあ、あの三人は所謂(いわゆる)『戦闘狂』の類で、戦うことに快楽をおぼえてそうだから、調子に乗ってモンスターを狩り尽くしていても不思議じゃないか……。


 それに対する長老さんのコメントは以下のとおりだった。


「――化け物か?」



「言っただろ? 頼りになる人達だって。この調子なら魔王も討伐してくれるんじゃないか?」


 そして、何故か得意気になるフェリクスさん。あの、いくらうちの戦闘狂たちがバーサーカーっぷりを発揮したとしても魔王を倒すのはさすがに無理じゃないですかね? 魔王ってこのゲームの中で恐らく結構強い存在だと思うけど、まだゲームが正式リリースされて1週間ちょいでそんなのが倒されちゃったらゲームバランスどうなってんの? ってなりかねない。


「うむ……しかし……」


 長老さんは未だに納得ができないようだ。たまにいるよね、自分の目で確認しないと納得しない人。

 と、その時、櫓の上で遠くを眺めていた見張りの『ハーフリング』が声を上げた。


「長老ぉぉぉっ!! 早く村の中へぇぇぇっ!! ヤツが来ましたよぉぉぉっ!!」



「え、なに? ヤツって何?」


 まあ、ギルドのみんなに聞いても知ってるわけないか。


「な、なんだとぉぉぉっ!? ヤツがぁぁぁっ!? それは本当なのかぁぁぁっ!?」


「本当ですぅぅぅっ!!」


 長老さんと見張りさんはかなり慌てている。――だからヤツってなに!?

 その時、ドドドドドという地響きが聴こえてきた。なにかが猛スピードで迫ってきている!? どっち!? どっち!? 私がキョロキョロしていると、セレナちゃんが私の顔を両手で挟んで、無理やり右の方向に頭を向けてくれた。嬉しいけどいきなりやると痛いからやめてほしい。


「……ふぐっ!?」


 ん? なにあれは? 遥か彼方の地面が黒い……そしてなんか蠢(うごめ)いている?


「随分たくさんいますね……」


 とセレナちゃん。たくさん? 敵? 敵なの? あの動いてるやつ全部敵!? え、やば!! めちゃくちゃ多いじゃん!! そりゃあ長老さんが、ビビるわけだ!!



「あ、あれが魔王なのか……?」


「魔王だろうがなんだろうが、あれを狩り尽くせばクエストクリアだろ?」


 クラウスさんの言葉に、ホムラちゃんが前に進み出て武器を構える。――が、そんなホムラちゃんの肩をグイッとセレナちゃんが引っ張った。


「アホですか? 彼我の戦力差を考えてください。根性でなんとかなる数ではありません。――それに」


「――んだよ、ビビってんのか!?」


「違います! 私が思うに、あれは村を攻め落とそうとしている訳ではなく、ただの脅し。攻めるなら四方から囲んできますから、あんな一点が突出する錐状の陣形をとりません。――違いますか? 長老さん?」


「――その通りだ。恐らくまたイブリースの配下がちょっかいをかけに来たのだろう。――ちょうどいい。お前ら、ヤツ――『アンラマンユ』を追い払ってみろ。それで実力を認めてやることにしよう」


 長老さんはニヤッと笑った。――まさか追い払えるはずがないだろう。そんな感じのことを考えている様な顔だった。プライドの高いホムラちゃんとかはかなり頭にきただろう。



「くそ! バカにしやがって! 魔王の配下が倒せずに魔王が倒せるかっての! おもしれぇオレ一人で倒してやるわ!」


 案の定、ホムラちゃんがヒートアップしてしまった。そうこうしているうちにも黒いものはどんどん近づいてきていて――その全貌がだんだんよく分かってくる。


 それはなんと、体長5メートルほどの黒いトカゲのようなものの大群だった。その中でも特に群れを率いている先頭の一匹は立派な黒い鶏冠(とさか)のようなものがついていて、身体も少し大きめだ。あれが『アンラマンユ』ってやつなのかな?



「仕方ねえな。『フォーメーションデルタ』だ!」


 ……はい? クラウスさん、なんですかそれは? みんなぽかんとしてますよ?


「いやほら、察して! 『フォーメーションなんとか!』ってやってビシッとギルドメンバーが整列するとかっこよくない?」


「……いつもボケないクラウスさんがこの状況でボケないでください」


 珍しくユキノちゃんがツッコミに回るという珍現象が発生した。


「えっと、ほらあれ! 長老さんとフェリクスさんを守りつつ戦闘隊形!」


 クラウスさんの指示をやっと理解した私たちは、前衛と後衛に分かれて『ハーフリング』の二人を背後に庇うような隊形に並んだ。すると、前衛のすぐ近くまで迫ってきた先頭のトカゲさんが、黒い光に包まれて、なんと人型に変身した! あれ、この世界の強いモンスターって人間の姿になる習性があったりします? ミルクちゃんみたいな。


 トカゲさんから変身したのは、黒髪長身のイケメンで、前髪が長く顔の半分が隠れている。ふーん、タイプではないけどなかなかモテそう。


「よお、魔王『イブリース』の配下、アンラマンユ様が直々に来てやったぜ。――『ハーフリング』の爺ちゃん。いい加減ここから立ち退く気になったか?」


 イケメンさんは渋い声で長老さんに話しかけた。私たちのことなど眼中に無いかのようだ。余裕の表れだろうか。


「――先祖代々守ってきたこの土地をそんな簡単に手放せるわけないだろう」


「まあ、だろうなとは思ってたわ。でも、魔王様の手前手ぶらじゃ帰れねんだよ。……てことで爺ちゃん、一緒に来てもらうぜ」



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 急襲クエスト【アンラマンユ襲来】が発生しました!


 ※このクエストは受注拒否できません


【アンラマンユ襲来】

 魔王 『イブリース』の配下『アンラマンユ』を撃退し、『ハーフリング』の村を守れ


 達成条件︰『アンラマンユ』の撃退


 失敗条件︰『ハーフリング』の長老が死亡、村の損壊、パーティの全滅のいずれか


 達成報酬︰エクストラクエスト【望まぬ救済】の進捗ボーナス


 編成条件︰差別種族(魔導族、ダークエルフ、ドラゴニュート、ホムンクルス)を5名以上編成した1パーティ8名まで


 禁止制限種族︰なし


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 私の目の前に、クエスト発生のメッセージが浮かび上がった。

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