再びボス戦! 〜自爆魔法で私のパーティ全滅!?〜

 ◇ ◆ ◇



 私たちは、初日に来た、虫がたくさん出てくるダンジョンに潜ることにしたのだが――


「ぜぇぇぇあぁぁぁぁっ!! はぁぁぁぁっ!!」



 ――ザシュッ! ザシュッ!



 クラウスさんが、剣を振り回して二匹の『キラービー』を撃ち落とし、トドメをさす。さっきから戦っているのはもっぱらクラウスさん一人で、たまにミルクちゃんが【リトルボム】というささやかな魔法で援護するだけで――


「これ、効率は前とあまり変わってないじゃん!!」


「まあ、だって弱い精霊と、後衛職の『プリースト』が一人増えただけだからな。こんなもんだよ」


 一人頑張るクラウスさんは、額の汗を拭いながら言う。すると、弱いと言われたミルクちゃんが不満そうに口を尖らせ、アオイちゃんがステッキを持っていない方の手を挙げて口を開く。


「あの……そろそろアオイも魔法を使っていいですか? 少しMPがもつか心配ですけど……」


「あぁ、次はボスだからな。支援頼む。指示した魔法を使ってくれ。――MPが尽きたら回復薬を飲んで回復させておくんだぞ」


 クラウスさんの言葉にアオイちゃんが頷くと、私も手を挙げて発言することにした。



「クラウス先生! 私からも質問です! どうしてまたこのダンジョンなんですか? もっと効率のいいダンジョンはないんですか?」


 すると、クラウスさんは顎に手を当てて困ったような表情をしてしまった。


「このダンジョンの敵は、基本的に物理攻撃しかしてこないから、俺が戦いやすい。――それだけだ。魔法使われたらお前たちを守れなくなるからな」


 あー、なるほど、そういう事か。確かに前衛が今のところクラウスさんしかいないので、クラウスさんが苦手とする魔法攻撃は避けたいところ。仕方ないのかなぁ。うーん、不甲斐ない。


 私たちはボスの現れる開けた場所にやってきた。


「――と、ボスのご登場だぜ。お嬢ちゃん、自爆の準備しとけよ!」


「りょーかいですっ!」



 ――ブゥゥゥゥンッ!! ブゥゥゥゥンッ!!



 一際大きな羽音がして、周囲の草葉が風でガサガサと揺れる。現れたな『アーマード・スタッグ』!


 私は、ウィンドウを操作して、【ディストラクション】の詠唱を開始する。今度は踏み潰されないように、広場の端に立っていると、体長10メートルはあろうかという巨大なクワガタムシのようなモンスターが目の前に降り立った。


「よし、行くぞ。【アクセラレーション】だ!」


「はい……! 詠唱(コール)、【アクセラレーション】!」


 アオイちゃんが黒いレーヴくんのステッキを振って魔法を唱える。すると、杖の先から青い光が迸り、クラウスさんの身体を包んだ。1回……2回……3回。クラウスさんの身体が青く光る。すると、のっそのっそと走っていたクラウスさんは、比べ物にならないくらいのスピードで加速し、『アーマード・スタッグ』の横腹にそのまま突撃して盾をぶつける。


「【シールドバッシュ】!」



 ――ガッシャーン!!



 大きな音を立ててクラウスさんの盾は敵を弾き飛ばし、『アーマード・スタッグ』は大きく後ろに仰け反った。『ノックバック』というやつだ。すごい、明らかに前より戦えている。もうクラウスさん一人でも倒せるんじゃないかなって感じだ。すかさずクラウスさんが叫ぶ。


「【ストライキング】だ! そして、お嬢ちゃんに【スピードキャスト】を頼む!」


「……っ! 詠唱(コール)【ストライキング】! 詠唱(コール)【スピードキャスト】!」


 続けざまにアオイちゃんが唱え、クラウスさんのロングソードと私の身体を赤と緑の光が包み込んだ。これも3回。なんで3回なのかな? 視界の下の方に浮かんできたメッセージを読んだ時、私はその理由(わけ)を理解した。



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 魔法【スピードキャスト】がかけられました! 【ディストラクション】の詠唱時間が10秒短縮されました!


 クリティカル発動! スキル【多重強化(たじゅうきょうか)】により魔法【スピードキャスト】の効果が再度付与されました! 【ディストラクション】の詠唱時間が10秒短縮されました!


 クリティカル発動! スキル【多重強化】により魔法【スピードキャスト】の効果が再度付与されました! 【ディストラクション】の詠唱時間が10秒短縮されました!


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「うぇぇ、強っ!」


 私は思わず声を漏らした。これはゲーム初心者の私でも分かるくらいの強化(バフ)だ。後でどんなチートを使ったのかアオイちゃんを問い詰めないと!

 スキル【多重強化】とやらによって同じ魔法を3回かけることによって効果は3倍。私にかけられた【スピードキャスト】の場合は、詠唱時間が合計30秒短縮されて、【ディストラクション】の発動に必要な時間はたったの30秒ということになる。


 そしてその30秒は既に経とうとしていた!



「食らえぇぇぇっ!! 【グランドスラッシュ】!!」



 ――ガイィィィンッ!!



 強化されたロングソードで『アーマード・スタッグ』の腹に一撃を加えたクラウスさん。



 ――ギシャァァァァァッ!!



 敵は耳障りな鳴き声を上げて後ずさる。そのHPバーはわずかとはいえ、明らかに減っている。攻撃が通っているんだ!


「準備完了ですクラウスさん!」


 わたしの呼びかけに、クラウスさんはなおも敵に斬撃を見舞いながら片手を上げて応える。そして、MPが切れたのか緑色のMP回復薬を飲んでいたアオイちゃんに声をかけた。


「アオイ、お嬢ちゃんに【マジックブースト】をかけろ、そして逃げろぉぁぉぉぉ!!!!」


「は、はい? 詠唱(コール)【マジックブースト】!」


 猛然と逃げ始めるクラウスさん、アオイちゃんも私に魔法をかけると後に続く。私の身体は紫の光に包まれ――



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 魔法【マジックブースト】がかけられました! 【ディストラクション】の範囲と威力が強化されました!


 クリティカル発動! スキル【多重強化】により魔法【マジックブースト】の効果が再度付与されました! 【ディストラクション】の範囲と威力が強化されました!


 クリティカル発動! スキル【多重強化】により魔法【マジックブースト】の効果が再度付与されました! 【ディストラクション】の範囲と威力が強化されました!


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 と同時に【ディストラクション】の詠唱カウントダウンは0になった。

 よし、準備は万端! ぶちかますっっっ!!!!



「地獄の縁で懺悔しろっ!! ――【ディストラクション】!!!!」



 私はクラウスさんを追おうとした『アーマード・スタッグ』の側面からその胴体目掛けて走り込みながら魔法を唱えた。

 お馴染みの、なんとも言えないムラムラした感じとともに、私の下腹部から黒い光が溢れ、辺り一帯を包み込む。同時に襲いかかってくる痛みと快感!



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 スキル【即死回避】が発動しました!


 スキル【究極背水】が発動しました!


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 ――ギャァァァァァァァォッ!!!!


「あぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」


「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


「たすけてぇぇぇぇぇっ!!」



 アオイちゃんの強化魔法によって強化された私の自爆魔法は、一帯の森を丸ごと消し飛ばし、ついでに『アーマード・スタッグ』とクラウスさんとアオイちゃんと……ミルクちゃんを消し飛ばした。しまった! ミルクちゃん!


「ミルクちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっっっっっっ!!!!」


 私は絶叫した。私の! 私の大切なミルクちゃんが私のせいで! 私のせいで!

 結婚までしたのに……たくさん魔法食べさせてあげるって約束したのに……多少の魔法は吸収できるのだろうが、それほどまでに私の【ディストラクション】の威力が高くなっていたということなの?

 呆然とする私の視界に、メッセージが浮かび上がる。



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『エンゲージリング』により、ミルクはスキル【即死回避】を発動しました!


『エンゲージリング』により、ミルクはスキル【究極背水】を発動しました!


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 ――。


 ――あれ?



 そうだ! 装飾品『エンゲージリング』の効果で、私はミルクちゃんのスキルと魔法が使えるし、ミルクちゃんは私のスキルと魔法が使えるんだった! よかった、【即死回避】を習得しておいて! お陰でミルクちゃんを救うことができた!


「……み、ミルクちゃん?」


 私は、未だに快感に支配されている身体を起こして、辺りを見回す。すると、近くに黒髪メイド服のミルクちゃんが倒れているのが見えた。急いでミルクちゃんの元に駆け寄る。


「ミルクちゃん! 大丈夫?」


 ミルクちゃんは、私の声を聞くと、ゆっくりと目を開けた。


「――えへへ、もうおなかいっぱい」


「……」



 唖然とする私の目の前に、ピコンッとメッセージが出現した。



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『アーマードスタッグ』を撃破しました!


 素材アイテム『クワガタムシのツノ』を手に入れました!


 ココアはレベル8になりました!


 ミルクとの絆が深まりました!


 ミルクはレベル3になりました!


 魔法【変身(メタモルフォーゼ)】を習得しました!


【変身】

 一定時間、邪龍の姿に変身できる。

 属性︰闇

 消費MP︰20

 習得条件︰契約主との絆が100を超える。


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