エゴイスティックだっていいじゃない!

枯れ尾花

第1話「サッカーやろうぜ!」あっこれ著作権大丈夫?

 ピッピッピッー。

 今日2度目の笛の音が鳴る。

 この笛の音で栄光を得るものもいれば、絶望を得るものもいる。

 俺はいや俺たちはどうやら後者の方だったようだ。 

 2対1で迎えたアディショナルタイム、味方のスルーパスを受けた俺はゴール前でキーパーと1対1になる。 

 これを決めれば同点になりPK戦に持ち込むことが出来る。

 俺はキーパーの左向きにかかるわずかな重心の動きを見逃がさず、重心と反対方向である右にボールを蹴った。

 思惑通り俺の蹴ったボールはキーパーの逆を突く。

 だが、そのボールは本来聞こえなければならない、ネットをかすめるあの音が聞こえなかった。

 そう、俺は中学最後の試合の最後のチャンスで見事に失敗したのである。

 俺はその時走馬灯のように色々なものが見えた。

 毎日のつらい練習や、監督からの暴言、時にはチームメイトとの激しい喧嘩。

 そんな中で強く見えたことは、毎日行っていた朝練だった。

 毎日、朝早くに起きて近くの公園で練習をする。

 正直、始めて3日程で辞めたいと思った。

 そんな俺がなぜ辞めなかったかと自問自答してみる。いや、そんなことしなくてもすぐに答えは出た。

 毎日一緒に朝練してくれたあの子がいたからに違いない。

 待ち合わせをしていたわけではない。

 知り合いという訳でもない。

 それなのに、目が合った瞬間、お互いの中で何かが共鳴したのが分かった。

 その子のドリブルはそよ風のようにしなやかで美しく、特にインサイドを使ったドリブルのキレは俺のディフェンスをまるで刃物かの様に切り刻む。

 俺がどんなに眠くてもその子の「おはよう!」と同時に放たれる天使の笑顔で朝から深夜テンションぐらいの何かが出る。

 俺は明日からどんな顔をして会えばいいのだろう・・・・いや、もう負けたんだし会わなくていいか・・・・。

 そんな現実逃避かのような走馬灯の後、俺は現状を再認識する。

 俺は後ろを振り返ることができなかった。

 後ろでは、俺を信じてパスを出してくれたチームメイトやチャンスを作るために働いたチームメイトがいる。

 俺は彼らの顔を見るのが怖くてたまらなかった。

 試合の後の最後のミーティング、チームメイトのみんなは泣きじゃくっていた。

 俺は泣けなかった・・・・。

 




 部活が終わればすぐに受験勉強に切り替えなければいけない。

 俺たち3年はもうそんな時期なのである。

 でも俺は魂が抜けたかのようになににもやる気を出せなかった。

 もちろん朝練にも行っていない・・・・。あの子はどうしているだろうか。

 ただ勉強が嫌いで、勉強をしない言い訳だったかもしれない、だが、なんだかもう全てがどうでも良くなっていた。

 正直もうあの有名な不良高校『鈴○高校』ですら良かった。

  まぁ伝統行事である1年生同士の喧嘩には全く自信ないけど・・・・。 

 




 そんなこんなで、何もしないまま受験勉強ラストスパートという時期まできてしまった。

 もう本格的に『鈴〇高校』ぐらいの学校にしか行けないような状況だった。

 「君も鈴〇?」と声をかけられたらどうしよう・・・・。

 そんなことを考えていると家の固定電話が大きな音を出して鳴る。

 うちの固定電話が鳴るなんて珍しいな・・・・まさかまたアダルチックビデオさんからの請求なのか・・・・。俺は無料のしか見てないと何度言えばわかるんだ!

 そう思いながら電話番号を確認する。

 『081-4545-0721』

 なんだよ!この中学2年が考えそうなバカな電話番号は!絶対いたずら電話だろ!

 ゆ、許せん!

 俺は怒りに身を任せ、受話器を手に取る。

 「はいどうも。こちら鈴〇高校です。」とあたかもその高校の生活指導のように言う。

 この高校の名前を出せばどんな人間でも電話越しに土下座をするだろう。

 ふっ。我ながら名案だな。

 俺は電話相手からの泣き声を待っていたが予想外の返事が返ってきた。

 「おじゃまします。」と電話越しにもわかる威圧感と冷徹な返事が来るのと同時に、家の扉がガチャリとこの世の終わりを伝えるかのように開く。

 複数人の足音が聞こえる。

 制服を着たゴツい覆面の男達がズカズカと俺の部屋まで入ってきた。

 「え、ちょ、何ですか!やめてください!お金はあるんで!あっ500円しかない。あ、あーーーーー!」

 俺の必死の抵抗は実を結ばず、家の前に停められた黒いバンに乗せられた。

 









 2時間ほど揺られ、ようやく俺の乗せられた車が止まる。

 目的地に着いたのだろうか。

 「出ろ。」と俺を拉致った覆面の1人が言う。

 「ひ、ひゃい。」

 怖いよ!なんか変な声出ちゃったじゃん!

 ビビりながらも言われるがままにバンから出ると、目の前に大きな建物があった。

 周りには木木木木木木って感じで何もない。

 ぱっと見はどこかの貴族のお屋敷にも見える。

 だが、お屋敷にしては不可解な点があった。

 それは、お屋敷の真ん中にある広い芝のグラウンドだ。

 しっかり白いラインも引かれてあり、芝のグラウンドを囲うように陸上のトラックがある。

 「来い。」

 そう言って覆面の男の1人が俺の腕を引っ張り、目の前の大きな建物の中に入った。

 俺はされるがまま、一切の抵抗をせず従う。

 だって怖いもん・・・・。







 覆面の男達に連れられ建物の中を歩く。

 建物の中には、保健室やらなんやら部屋1つ1つに表記があった。

 どうやらこの建物は学校のようだ。

 1つ1つの部屋が広く、高級感がある。

 正直、学校として使うにはもったいない気がする。

 俺たちは1階、2階、3階までの階段を上がり、ある部屋の前で止まった。

 「ここだ。」

 「総帥室・・・・。」

 その部屋の扉はどの部屋よりも厳重で、どの部屋よりも高級感があった。

 扉の持ち手には皇帝ペンギンがいる。趣味悪・・・・。

 「入れ。」

 「う、うい。」

 そう言って俺は皇帝ペンギンを手に取り重い扉を開ける。

 その部屋は妙に重々しく、全体的に暗い。

 奥の方に、おそらくだが総帥っぽい人がいた。

 「おはようございます、総帥!」と俺を拉致った覆面の男たちが片膝を床に着け、頭を下げながら陸軍並みの声で挨拶をする。

 あっ、やっぱり総帥だったんだ。

 それにしても、なんだこれ。夢か?

 「面を上げい!」

 総帥のその一言で男たちはパッと顔を上げる。

 俺はあっけにとられてキョロキョロしていた。

 「遠いところからごくろうさん。渡辺幹人君。」そう言い終わるのと同時に暗かった部屋が明るくなる。

 どうやら総帥は女性のようだ。声が男性のように低くなく、高い。

 そして、明るくなって分かったことがある。

 総帥、なんでサングラスかけてんだ!

 そもそもここ外じゃないし、もともとこの部屋薄暗かったのに。

 それになんでサングラスのレンズ三角なんだ!

 髪型もポニーテールだからもはや某超次元サッカーアニメの総帥にしか見えない・・・・。

 まぁ一旦置いといて、「ご苦労さんじゃないですよ!一体何なんですか!警察呼びますよ!」

 危うく総帥のインパクトのせいで忘れるとこだった。俺、拉致られてたんだった。

 「まぁまぁ落ち着きや。ついついやりすぎたわー。」とおちゃめな感じで両手をすり合わせる。

 シュール。シュールすぎるよ!某超次元サッカーアニメの総帥っぽい見た目の人がおちゃめなんて!

 だ、だめだ。落ち着け。とりあえず色々聞かなければ。

 「まぁいいですよ。とりあえず、なんで拉致ったんですか?」

 「他にも方法はあったんやけどな、ミッキー君が鈴〇高校に憧れてるって聞いたから拉致ったんやで。」

 「憧れてはいませんよ!仮に憧れてても拉致られたくはないですよ!て、てかなんでミッキー君?」

 俺のことをミッキーと呼ぶのは母さんだけだ。

 母さんに外でミッキーと呼ばれると、とある理由のせいで周りの人に見られるから、この呼ばれ方はあまり好きではない。

 「ふふん!それはなー・・・・。じゃじゃーん!」

 総帥の口から発せられた効果音とともに見たことのある人物が出てきた。 

 「やっほー、ミッキー!」と手を振る。

 母親だった。何してんだこの人。

 「な、何でいるんだ?」

 「零ちゃんと話してたのよ。」

 「零ちゃん?」

 「零ちゃん、自己紹介してないのね。ほら!」そう言って母親は総帥の背中を叩く。

 「痛いねん、葵ちゃん!そうやな自己紹介忘れてたわ。うちは影山零。好きなものは皇帝ペンギン。嫌いなものは雷。以上!」そう言って三角レンズのサングラスをクイッと上げる。

 もうアウトだろ。これは弁解の余地がない。本当にすいません。

 「は、はぁ。それで母さんはどうしてここに?」

 「それは、ミッキーをこの学校に入学させるためよ。」と今までのおちゃらけた雰囲気とは一転し、まじめに言う。

 「だーかーらー!葵ちゃん!なんべんも言わせんといてや!『学校』やなくて『学園』やって!」

 「そんなのどっちだっていいのよ!今、まじめな話しようとしてるの!ミッキー、このままじゃあなた本当にお先真っ暗になるわ。たしかにあんなことがあった後じゃ仕方ないかもしれない。でも私の最後のおせっかいだと思ってここに通ってほしいの。」

 母さんは今まで見たことのない真剣なまなざしで訴えかける。

 俺はこんなにも心配をかけてしまっていたのか。

 「ミッキー君。あんた最低やで。自分の母親にここまでのことを言わせてるんやからな。正直、あんたみたいな子の世話するん嫌やねん。でもな、葵ちゃんがうちに・・・・友達のうちに頭下げてまで頼んでん。で、あんたはどうしたいん?」

 俺は最低だ。総帥の言う通りでしかない。

 自分がいじけるだけならいい。でも人に迷惑をかけてしまっている。

 母さんのおせっかい?違うな。これは最後のチャンスだ。

 「総帥。俺をこの学園に入学させてください。俺はこの学園に全てを捧げるつもりで毎日を過ごします。だから、どうか、よろしくお願いします!」

 「ふんっ。なかなかええ顔つきなったやんか。でもまぁ普通に入学は無理やねん。」

 「えっ。ではどうすれば・・・・。」

 「まぁまぁそれは明日分かるから。」











 総帥との会話の後、俺はまたあの黒いバンに乗せられ、総帥に1日そこで過ごすよう伝えられた。

 車中泊はサッカーの合宿で慣れていたので問題ないが・・・・。

 それにしても、普通じゃない入学ってなんだ。

 まぁなんにしても今度こそはチャンスを確実に活かそう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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