出席番号2番君の話
そのぐるりと円を描く路線の外にも少しだけ桜ヶ原の土地はある。と言っても本当にほんの僅かだけど。
大半が円の中に収まっているはずなんだけどね。みんなの家も、基本的にはちゃんと円の内側にあるはずだよ。
でも、私の実家は円の外にあったんだ。今はもう影も形もない私の実家。
私の住んでいた家は、ある日の嵐の夜に土砂によって埋められた。
「まもなくー
土の下ー
土の下で、ございまーす
お降りの方は地上に大切なものを置いて、お降りください」
土の下は、寒くて冷たいんだろうな。
~『両隣の家』~
俺の両隣の家は爺さんと婆さんがそれぞれ住んでいる。
爺さんは頑固で口うるさい雷おやじ。
婆さんは優しくてお菓子もくれるゆるふわ系。
どっちも昔から世話になってる人だ。
その二人が数年前亡くなった。
爺さんの時はうるさいのがいなくなって清々した。
婆さんの時は泣いた。
その後、両隣の家には別の人が入った。
更にその数年後、連日に及ぶ大雨で近くの山が土砂崩れを起こした。
不思議なことに俺の家とその爺さんの住んでいた隣の家は無事だった。
衝撃的なのは直後の片付けの時だった。
その婆さんの住んでいた隣の家の片付けを近所だからっていう理由で手伝っていたとき、床下からいくつか骨が出てきたんだ。
婆さんがまさかの殺人鬼だった…
てことはない。
婆さんのとこは、昔旦那さんと愛犬を散歩のとき事故で亡くしてたんだ。
独りになった婆さんは、寂しくて淋しくてどうしようもなくて。
葬儀の前にそっと骨の一部を持ち帰ったらしい。それを床下に埋めて、自分を護ってくれてると信じていたそうだ。
後日、婆さんの家族の人がそんなことを話してくれた。
これが婆さんの話。
それと、もう一個。
婆さんのとこの骨を供養してもらう為に地元の寺に行ったときのこと。
「貴方、男性の方に憑かれていますね」
と言われた。
泣いた。
詳しく聞くと、あの亡くなった隣の爺さんが俺にとり憑いて護ってくれてるらしい。
土砂崩れで俺と爺さんの家が無事であった理由がこれだ。
あの雷おやじが?
爺さんのとこは、奥さんも子もいなかった。
つまり、めっちゃ寂しかった。でもあの性格のせいで言うこともできなかった。
俺に対してうるさかったのは、爺さんなりの優しさと思いの裏返しだったんだ。ほんとはもっとかまって欲しかったんだろうな。
これが爺さんの話。
俺の両隣の家の住人は、とてもさみしがりやである。
もとい、とてもさみしがりであった。
一方の優しかった婆さんは亡くなった家族が自分の隣にいると死ぬまで信じて骨を隠した。
もう一方の頑固だった爺さんは亡くなった後すこーしだけ素直になって、自分のお気に入りであった俺の隣に居座り護ろうとしてくれている。
俺は。
俺は、自分が亡くなる前に隣にいてくれる大切な人へ精一杯愛してるを伝えたい。
後悔しないように。
今年も俺は、両隣の家にいた二人の爺さん婆さんの為に泣くのであろう。
出席番号2番君みたいな話、私もよく知ってるよ。
桜ヶ原では意外と土砂崩れが起きるんだよね。特に、円の外にある山。
町の人たちの共通認識みたいなものだとは思うんだけど、隣の町との境は案外ぞんざいに扱われる。
これは私の土地。あっちはあいつの土地。そっちは私の土地だけど、それはお前の土地。昔からどこにでもある土地の奪い合い。土地を持てば権力が生まれる。欲しい欲しいもっと欲しい。あいつよりもっと。隣よりもっと。誰よりもっと。
くっだらない。
結局こどものおやつの奪い合いと何にも変わらない。
ヒートアップして手を出して、血が流れる大喧嘩。互いに寄越せ寄越せとそればかり。
だから、桜ヶ原では円の外はどうでもいい。その代わり、円の中には絶対に入ってくるな。
円の内側は桜ヶ原の民だけのものだ。
昔の人はそうしたんだろうね。
円の外は増えたり減ったり。
それこそ外の勝手な都合でだろうけど、中はいつだって私たち桜ヶ原の民だけのものだった。
だ・け・ど!
私の実家は円の外にあったの。町内ではあったんだけどね。
多分、一度外に出て中に戻れなくなっちゃたんだろうな。まったく、運が悪いよ。
運が、悪いんだよね。
薄々気づいてたさー。
私自身の運のなさに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます