第6話 本格的に進路指導します

 神の存在?


 神の存在を知らないと発動しない?


 呪文を唱えても、発動しないとは?


 説明を受けても、あきらの頭の中ではハテナがいっぱいだった。

 魔法、使えるんだけど?

 大した魔法じゃないけど、火の魔法。

 松明の代わりに使う程度のだけど、魔法は使える。

 手のひらに、小さな灯りをともして、あきらは考え込む。

 神様の存在、とは?

 神様……漠然と茫漠と、その存在は信じている。


 まぁ、いるだろう。

 見たことないけど。

 名前を知らないけど。



「魔法、使えるけど?」

「それは、精霊魔法だよ」

 即答されて、理解した。

 使える魔法は、精霊魔法。神様に拠ってない。だから使える。そう言われると納得する。


 自分も含めて、みんなが使っている魔法は、火、風、水の魔法だ。神様にお願いはしていない。レベルが上がって、魔力があれば使える。


 うん、でも、しかし、神様はこの世界にいたはずだ。


 教会があって、神父やシスターがいて、だから、この世界の住人たちは神様を知っているし、そこそこ信仰しているとおもうのだけれど?

「え、でもぉ、この世界にも教会がありますよね?」

 あきらは、素直に疑問をぶつけた。


「うん、あるね」

 トーマくんのお母さんは、答えてニヤニヤしている。それで?とあきらに回答の続きを促すような顔をしている。


「神様、いますよね? 教会に、神像がたってますよね? 確か、女神で《火の女神》《水の女神》《風の女神》その三神が一体になってひとつの神像に顔が3つついてて、阿修羅神像みたいな あっ!」

 口に出してみると、意外なもので考えがまとまるのだ。


 この世界の神様って何?


 精霊魔法と同じのしかいなくね?


「あ……」



 あきらは、ひとつの仮説にたどり着いた。

 トーマくんのお母さんが言わんとすることがなんとなーく、わかってしまった。

「精霊魔法と、女神の種類、同じですね」

「正解」

 トーマくんのお母さんは、拍手で褒めてくれた。





 ヒロシたちが戻り玉で戻ってくると、公爵家の兵士たちが片付けをしている最中だった。

 賊の上に水晶玉をかざして、本人確認をしているようだった。水晶玉に映る何かを、書類に書き留めている。一人確認する度に、兵士たちから声が上がる。その反応から言って、なかなかの強者たちだったことが伺える。さすがは、公爵家のお姫様を狙っただけはある。


 戻り玉で、戻ってきたヒロシたちを見て兵士は一瞬身構えたが、少年たちと認識するとまったく相手にしてこなかった。

 話を聞いているのだろう。

 害はない。

 無関係、と。

 だからこそ、ヒロシたちは困ってしまった。

 声をかけたい人物が見当たらない。

 3人がキョロキョロしていると、目当ての人が岩陰から姿を現した。


「あっ」

 姿を見て今期したのもつかの間、

「あ、あああああ、あーーーーー!」

 3人揃って指をさして、大声を出した。

「コラコラ、人を指さすんじゃありません」

 チョーヨユーっ、顔で近づいてきたその人は、

「トーマくんのお母さん!」

 3人の少年にとって、すっごくよく知る人物。

 同級生の、幼なじみの、近所の、トーマくんのお母さんだった。



 トーマくんのお母さんは、3人の顔を見て、ふむふむとうなづいていた。

「ヒロシ、ヒロト、こーた」

 名前を呼ばれて、3人は反射的に返事をした。

 が、名前を呼んだトーマくんのお母さん、実はヒロトとこーたの区別がついていなかった。


 ヒロシは、近所で有名なお調子者の男の子。でも、悪い子じゃない。悪い子じゃないんだけど、ちょっと面倒臭い子。

 ヒロトは、黙っていれば普通。普通なんだけど、体がでかいからそれだけで怖がられている。母親がどっかの政治団体に献身的で、なんだかよく家にいない。そのせいで、ヒロトはテキトーに過ごしている子。

 こーたは勉強も運動もできる子。加えて体がでかい。

 やれば出来ちゃう。両親は国家公務員で、何とか省庁にいるらしく、朝早くて帰りが遅い。そんなわけで、こーたはいつもおじいちゃんちによくいる。

 みんな、悪い子じゃないんだけどね。で片付けられている。そんな3人。


 で、そんな3人は、トーマくんのお母さんをよく知っていた。ゲームをいっぱいするお母さん。だから、小学生の時はトーマくんの家に遊びに行って、たくさんのゲームで遊ばせてもらっていた。

ルールを守らないとゲンコツが落ちるので、集まった子たちはみんな仲良くいい子にしていた。要は、ガキ大将がトーマくんのお母さんだったのだ。


 そんなわけで3人は、トーマくんのお母さんより大きくなったのに、上から見下ろしつつ上目遣いになっていた。

トーマくんのお母さん怖い。

「お前たち、この世界の道理がわかってないんだろ?」

「分かりません!」

 反射的に答えていた。

 考えもしない。考える必要も無い。反射で答える。


 知らない。分からない。考えてない。


「毎日、ただゲームで楽しく遊んでいるだけだったんだろ、システムとか、マップの構造とか特に、考えないでいただろう」

 ただ遊んでいただけ。ってのを責められるとは思ってもいなかった。

「だって、課金してないからそんなに考えながら遊ぶ時間ないよ」

 こーたが口をとがらせて答えると、トーマくんのお母さんは軽く笑った。

「それなんだよ。それ」


 課金していないプレイヤーが遊べる時間は短い。購入して、30日間は無料オンラインで遊べるけど、その後は課金しないとゲームにオンできる時間に制限ができる。

 あきらも言っていた。キッズタイムに遊ぶ約束をしていた。

 そう、キッズタイムにしか遊ぶプレイヤーは、所謂キッズプレイヤー。キッズと呼ばれて疎まれる存在。夏休みはサバも分けられてしまうほど課金者から邪魔者扱いされているのだ。が、そんな時間帯にオンしているプレイヤーを転移させる意味がこの世界にあるのだろうか?ろくな魔法も使えず、この世界の秘密も知らない。この世界の道理を知らない。この世界の住人たちと同じぐらい無知な存在。


 そんなキッズプレイヤーをわざわざ転移させる必要があるのか?


 初めはそう考えていたけれど、少年たちの顔を見て分かってしまった。


 巻き込んだな。


 少年たち、ヒロシ、ヒロト、こーた、そして、あきらは、自分の巻き添えでこの世界のに転移させられた。

 トーマくんのお母さんは、脳内一人反省会をするのであった。

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