第38話論功行賞3
天正元年11月末 岐阜城大広間
「新五郎、言いたいことはわかっておる。異人であるフロイス師に市を娶らせて一門衆に加えることに反対なのであろう?だが…浅井の処遇を決めるのに、市の働きも大きかった。フロイス師と市が協力しあわなければ我らを裏切った浅井一族を助命した上に味方に引き入れるという離れ技などとてもできるものではなかったであろう。この離れ技を成し遂げた功労者の一人である市の意向をくんでやることの何が悪いのか?と言いたいところじゃが…まだ、論功行賞の途中じゃ。そのような異議は後にいたせ」
お待ちくださいっつつ!!と声を荒げたのは、新五郎こと、家老の林殿だった。
「は」
「では、論功行賞をつづける。木下藤吉郎」
「は」
「播磨一国を貸し与える。山陽地方へ進出するために、その地の国人領主たちをとりまとめよ」
「は?貸し与える、でございますか?」
珍しく木下殿がけげんな顔で聞き返す。
その顔は、まるで、◯泉洋!
「ふむ。まだ世が定まっておらぬゆえ、領地を本格的には与えない。領地を安堵するのは世が定まってからとする。それまでがんばれ。今後の仕事内容によっては国がえもあるから左様こころえよ。貸し与えた領地からは貫高に応じて一定の割合で金や軍事物資など織田家に上納してもらう。そのかわり、各戦線におけるそれらの物資の運用は織田家が請け負ってやる。---まぁ、実際に補給の任にあたるのは補給部隊だがな。兵達に支払う賃金はお主達が負担せよ。これは藤吉郎だけでなく、他の者達も同然じゃ」
「ははー」
「明智十兵衛」
「は」
「近江の坂本を貸し与えるゆえ、城を作ってみよ。それに加えて丹波、丹後、但馬を貸し与える。山陰地方へ進出するために国人領主をとりまとめよ。」
「ははー」
「与力には細川弥一郎をつける。弥一郎には若狭を貸し与える」
「は」
ざわざわざわと周囲がざわめく。
ま、明智殿に坂本を貸し与えられ、城を作る許しが出た点だろうな。
「柴田権六」
「は」
「越中を貸し与える。国人領主をまとめ、与力とともに上杉謙信に睨みをきかせよ。」
「ははー」
「権六の与力としては前田又左衛門、佐々蔵之介、安藤平左衛門をつける。その三名には加賀(能登を含む)を三等分して貸し与えるゆえよく勤めよ」
「「「ははー」」」
「丹羽五朗左、滝川彦右衛門」
「「は」」
「両名には紀伊を半国ずつ貸し与える。その地の国人領主や熊野水軍らを従えて、四国の長宗我部と連携して三好氏や十河氏を討つ準備をせよ」
「は」
「与力としては中川八郎、池田勝三郎をつける。八郎には和泉、勝三郎には摂津を貸し与える」
「「ははー」」
「儂の親衛隊兼補給部隊兼苦戦している戦線に転戦する遊撃軍として、フロイス師についてもらう。与力としては斎藤新五、不破市之丞、稲葉一鉄、氏家卜全らをつける。その4名には越前を4等分して貸し与える。補給も遊撃も大切な仕事であるゆえ、その仕事如何によっては加増もする。しっかり勤めよ」
「「「「「ははー」」」」」
「松永弾正」
「は」
「山城と大和の二国を貸し与える。そなたにも補給と遊撃の任務を与えるが…大和の連中に
「ははー」
「それから飛騨は織田の直轄地とする。東北地方は元いた大名達にそのままの土地を貸し与えることとする」
「そして、佐久間半介」
「は」
「その方には美濃の恵那郡を貸し与える。儂の後継である勘九郎に仕え、三河の二郎三郎どのが武田に襲われた時は救援にむかえ」
「ははー」
「それから林新五郎」
「は」
「美濃加茂郡を貸し与える。半介とともに勘九郎をささえ、ニ郎三郎殿が武田に襲われた時は目付役として兵をだせ」
「は。しかしながら…」
「ふむ」
「それがしと佐久間殿に貸し与えられる領地は他の者と比べて少ないのでは?」
他のものたちは一国をを二等分から四等分していても10万石をこえる領地を貸し与えられている。
林殿と佐久間殿に貸し与えられた領地は5万石ほど。他の武将に与力につけられた者たちの半分以下の恩賞なのである。
「それが、そなた達の働きに対する評価じゃ」
「なっ……」
「筆頭家老としてのそなたらの働きには不満がある。佐久間半介っ」
「は」
「そちの小谷での失態と、そのあとにほざいた言葉は生涯忘れぬっ!」
小谷での失敗とは…
浅井・朝倉との戦いの最終局面において、信長様が〝小谷城の包囲が完成する前に朝倉義景は必ず越前に逃亡するからしっかりみはって報告せよ〟と林殿に命じていたにもかかわらず、朝倉義景の逃亡を見逃した件であろう。
信長様自身が朝倉義景の逃亡にきづいて一心不乱に追撃したからことなきを得たものの、逃亡されていては越前を建て直していまだに抵抗されていたかもしれない。佐久間殿の大失態である。
そして、そのことを怠慢と咎められた佐久間殿が言ったセリフが、
「お言葉ですが、我らほど懸命に働く家臣が他にございますでしょうか?」
という人を食ったような発言。
信長様は、よくあの場でぶちきれずに耐えたものだ。
まぁ、佐久間殿を今から7年後に追放する時に信長様が書いた折檻状に、小谷での佐久間殿の失態のことと、その時に佐久間殿が口答えしたことも明記されることになるはずだが。
信長様はそういうことを本当に忘れない。
「生涯忘れぬ」と言うだけのことはある。
失態の多い佐久間殿はともかく、林殿の方は過去の裏切りを理由に追放されることになるのだが…。その裏切りとは、信長様が家督を継いだ時に弟の信行の方についたことだと言われている。その事件が起こったのは林殿が追放される24年前の出来事である。この説が正しいとするなら、信長様は林殿を24年間ずっと追放してやろうと思いつつ重用してたのだろうか??
「は。申し訳ございませぬ」
「林新五郎も文官の筆頭でありながら目覚ましい政策を一つも提案したことがない。外様で外国人のフロイス師に多大な恩賞を与え一門に加えることに不満を持つ前に、半介ともども勘九郎の後見をしながらこれからの世のことを一生懸命考えてみよっ!ワシはなにか間違ったことを言っておるか??ん?」
信長様は林殿に圧をかける。
「ぐっ…ぬっ……いいえ。滅相もございませぬ」
先代からの筆頭家老たる林殿は、顔を青ざめさせる。
信長様の幼少のころから仕えているので、信長様の逆鱗の位置を知っているのだろう!
逆鱗に触れたら、斬られかねないことも。
周囲の者たちもヒヤヒヤしながら見守っているようだ。
周囲の空気がズーンっと重くなる。
「…ふむ。今日はなかなか聞き分けが良いの。今後の両名の活躍に期待する」
「「ははー」」
ふー。
(危なかったー!!!)
どうやら逆鱗に触れることは、回避したようだ。
「それから、急に勢力圏が拡大したゆえ家中の統制をはかることが難しくなるであろう。家中の統制をはかる為に法度をつくる。儂とフロイス師、そして林新五郎を筆頭とする文官達でつくるので協力せよ」
「はっ」
「それから、フロイス師の進言を聞き入れ、士官学校や職業訓練校・女学校などの学校もたくさん作っていく。重臣の子息、子女は率先して入学させよ!そこで才覚を示したものは、積極的に登用するゆえな!!」
「「「ははー」」」
こうして浅井・朝倉討伐の論功行賞は終わったのだった。
本能寺の変まであと、9年と5ヶ月
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