戦国時代に宗教や産業を広めたら、モテウハでした〜俺、ルイス・フロイスです!
ライデン
過労死からの転生
第1話あなたは豊臣秀吉ですか?〜いいえ、違います
天正20年4月13日(西暦1592年5月24日)
おれは肥前国松浦郡にある名護屋城の天守に立ち、眼下を眺めていた。
そこには15隻の新式大型軍艦。数千隻に及ぶ、大中小の旧式船。
…こう書くと歴史に詳しい人が読んだならばある人物、ある戦いを思い浮かべるかもしれない。
―――豊臣秀吉。
そして、朝鮮出兵。
答えは否。断じて否である。
おれは太閤・豊臣秀吉ではない。
さらに、これから攻め入るのは朝鮮ではないし、その宗主国たる明でもない。敵は、世界を揺るがすもっと大きな存在だ。
側に控えている者たちからは、俺の双眸が先を見据えて青く光っているように見えるだろう。髪や髭の色は茶色。身につけるは漆黒の宣教師服。俺の顔はほりが深く、知性と野性味を帯び、精悍で整っていると自負している。自意識が過剰すぎるかな?
俺はこの時代においていろんな方面でモテているし、人生も勝ち組の部類にはいるのではないか、と考えているのだが…。
海風の中、おれは呟く。
「やっと、おれの使命を果たす時がきた」
それから、これまでの苦難をしみじみと思い返すのだった。
♠️
令和2年4月中頃
カタカタカタカタ…。草木も眠る丑三つ時というか…まだ深夜の2時だが、無粋な音がおれの部屋に響き渡っている。今流行りの在宅ワークってやつ。
おれはゲーム会社に勤めるプログラマー。在籍歴の長さから、ゲーム開発の班長を任されているものだ。
今作っているのは、知る人ぞ知る人気ゲーム〝信長の◯◯〟の最新作。
この仕事では良くあることだが、急な仕様変更やシナリオ追加が納入期日を圧迫しまくっている。
制作メンバーは過酷な労働を強いられ、ここ一週間ろくに寝ておるまい。1人また、1人と倒れていってる報告を受けているし、シナリオライターに至っては逃亡したらしく消息不明。
さらに変な新型病原ウイルスが流行って、在宅ワークを強いられているというのが現状である。
とはいえ、このゲームを待ち望んでいるであろうファンは裏切れない。だから、班長たるこのおれは8日連続の徹夜作業を敢行しているのだ。
まあ、貫徹という訳ではなく仮眠を毎日3時間程度はとっているがそんなので疲れは取れない。徹夜と一緒。
「ふぁーあ」
俺は欠伸と伸びをしながらふと考える。
(しかし、シュールだな。今回のこのゲームの謳い文句)
〝戦国時代は超絶ブラック。目指せ、立身出世。果たせ、下克上!!〟というのが今回のうたい文句なのである。
「戦国時代は超絶ブラック?ブラックってのは、俺の今の仕事だよ。戦国時代は1発逆転を狙えるいい時代だったんじゃねぇのか?今の世の中、立身出世するのも下克上も容易じゃない。あー、生まれるなら戦国時代に生まれたかった」
自分でも何を言ってるかわからない。かなりポンコツな現実逃避だと思う。シナリオライターが逃亡した穴を自信満々に引き継ぐ程度には、戦国時代の知識に自信があるが…。
(いかんいかん)
疲れすぎているようだ。
こういう時は、あれだ。先見の明のある俺の部下たちが残していってくれたもの。
かの金ヶ崎の戦いにおいて、決死のしんがりを申し出た秀吉にせめてもの手向けとして仲間達がおいていった鉄砲や火薬、弾丸といったもののごときもの…眠気覚しドリンクやそれに類するサプリメントを飲む時だろう。
徹夜がデフォのこの仕事。部下達がおいていった代物達はパッケージからして毒々しい。警戒色って奴だ。
サプリメントは結構飲んだけど、ドリンクの方はこれまで飲むのをためらっていた。
が、仕方ない。
俺が手に取ったのは、黒地に白で〝激眠◯◯〜限界のその先へ〟と書かれた代物。
まぁ。これを手に取ったのは、他のやつと比べてパッケージがおとなしめだからだろう。
(限界のその先って、なんだ?)
そう思いつつ、ふたを開けて半分くらい一気に飲む。
グビッ。グビッ。グビッ。
最初に来たのは、コーヒーの味。
後から舌がピリッとする。
そして、コーヒーの味とピリピリ感が喉に絡みつく。
コーヒー味の飲み物が激しいピリピリ感を舌と喉に与えるという、強烈な違和感。
それら全てが一体となって、
(まっずっっ…)
「ウッ」
トイレへダッシュ。
「ウッエッー」
吐いた。
「ゲー……ウェッ…ゲー」
吐いても吐いても吐き気は治らない。むしろ増強している。
(誰だ?こんなものを俺に渡したやつは…いや、このドリンクの成分が俺の体調に合わなかっただけか?)
…そんなことを考えた刹那─
「うっっ」
俺は胸部を刃物でえぐられたような鋭い痛みを覚えて、うずくまる。
その痛みは時間を追うごとに収まるどころか、酷くなっていき…
数十分間、激痛にのたうちまわった挙句、限界がきたのか、意識が遠のいていく。
(急性カフェイン中毒から心臓発作が誘発された?)
そんな思考が俺の脳裡を掠める。
(救急車を呼ばないと…)
だが…だ…めだ。スマホは部屋に置いてきた。…戻れな…い。
こうして俺は〝限界のその先〟とは死であることを思い知ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます