第260話 いにしえの神々
みんながそれぞれ腰を下ろすのを見計らって、まずは簡単に自己紹介をした。
精霊王様の愛し子ということも相手には知られているようなので、私とリィンはそれを含めて自己紹介する。
「……それで、いにしえの神々が去ったっていうのは……」
それが済んでから、私が先ほどの話を切り出した。
「まず、この世界は双子の天空の女神と大地の女神が作りました。そして、火の神が生まれ、水の女神が生まれたのです。原初の女神達は人も動物たちも産みました。彼らが、生きとし生けるものたちを守護していたのです」
「今の創造神様は、いにしえの神々とは違うのですか?」
「……創造神は、いにしえの神々がこの世界の天と地を創造されたあと、別の次元からやってこられました。そして、はじめに大地の女神と神産みをなされ、精霊王様達がお生まれになりました。次に、天空の女神と神産みをなされ、その他の数多の神々がお生まれになったのです」
……でも、だったら神々は仲良く過ごしていたのではないのかしら?
私は疑問に感じて尋ねてみることにした。
「でも
「いにしえの神々は、人に火と、魔法を操る力を与えました。けれど、それは神々が愛した美しい森を焼く。その上、それの力をもって、人と人とで争うようになったのです」
「……」
「人を産んだ原初の神々は嘆き悲しみました。……そして、この世界を去ったのです」
「……そんな……」
それではまるで私達が産みの親である原初の神々に見捨てられたような気がして、私は一言呟いて俯いた。
「……そんないにしえの神々も、最後に一つの希望を残して去られました」
「希望?」
「ええ。我々の中に善き心を持つ者が現れたとき、その者に
抽象的すぎてよくわからない。
それが管理人の説明を聞いたときの私の率直な感想だった。
きっとそれが素直に顔に出てしまっていたのだろう。
「……確かに、漠然としすぎてわからないでしょう。でも、いにしえの神々は嘆きに耐えられず去ってしまわれましたが、……すべてを見捨てて去ったわけではないのです。それは覚えておいてください」
「……」
「……希望を持つこと。それが最後の人に残された宝なのですから」
「……はい」
そうして話を終えると、管理者が話を切り替えた。
「そうそう。お引き留めしてしまいましたな」
「……そうです! ここにある、月のエルフの里への転送陣をお借りしたいのです!」
その話題に話が移ると、アリエルが身を乗り出した。
「そうでしたね。元々はアグラレス様からのご依頼で、転送陣を使っていただくというお話でした。……世界樹が枯れれば世界が傾き、やがては崩壊する。それを緑の精霊王様の愛し子様がお救いになることができると」
そう言うと、管理者が私へと視線を向ける。
「はい。世界樹が枯れ始めた原因は、何者かが仕込んだ黒い虫のせいです。それが、世界樹を食い荒らし、枯らすのです。……なぜか、私は世界樹の声を聞き、見て、それを取り除くことが出来るようなので……」
私は彼に説明する。
「あと、最後の一本なのです! ですから、最後の月のエルフの里へ行きたいのです! 転送陣をお貸しください!」
私の言葉を途中で遮る形で、前のめってアリエルが懇願した。
「大丈夫。そう必死になられずとも、世界樹の問題は、我々にとっても死活問題。世界樹が枯れれば、その枝で支えられているこの島も崩落することでしょう。……ですから、転送陣はお約束通りお貸ししますよ」
その言葉を聞いて、アリエルがあからさまに、ほっとした表情をする。
「では、行きましょうか」
そう言って腰を上げた管理人に倣うように、私達も腰を上げる。
「……さあ、こちらです」
そうして、神殿のさらに奥にある、上へ上へと続く階段へと導かれるのだった。
ずいぶんと長い間らせん階段を上ったあと。
最後に小窓がたくさん並んだ明るい小部屋が現れた。
「……転送陣……」
それは、今まで陽のエルフの里、星のエルフの里へ向かったときの転送陣と酷似していた。
それが、部屋の床の中央に白く描かれていたのだ。
「……ここから、月のエルフの里へ行けます。彼らにはすでにアグラレス様からお話がいっているとのこと。……問題なく、彼らにも受け入れられることでしょう」
そう言うと、管理人は「さあ」と勧めるように、手を転送陣の方へと差し出した。
「行くわよ!」
私はみんなの顔を見回す。
異議を申し立てる者は誰もいない。
みんなが、真剣な顔で、うん、と頷いてくれた。
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