第46話 オルケニア草原

 私たちは、王都の南東にあるオークの森を出て、また街道沿いに、今度は西のオルケニア草原をめざして馬(私はリーフ)を歩ませる。


 すると、前方に街道の脇に森が茂る場所があり、そこでオーガ達に襲われている馬車と、それを守ろうと苦戦している冒険者達が見えた。オーガは森からはぐれ出てきたのだろうか?

「加勢しますか?」

 騎士がお父様に尋ねる。


「当然だ、ゆくぞ!」

 お父様が号令をかけると、全員その馬車を救うべく全力で馬を走らせた。リーフも併走する。


「デイジー嬢、さっきの土魔法の捉えるやつ、行けますか?」

 騎士が私を振り返りながら尋ねる。

 私は、大きく頷く。

「やるわ!」


 すると、リーフが少し速度をあげる。見ると、オーガ三体に冒険者四人。怪我人も出ているようで、冒険者が押され気味だった。


 魔法の射程距離に入ってきた。

「加勢します!」「茨の鞭ローズウィップ!」

 片手で頑張ってリーフの手綱を握りしめ、片手でオーガに向けて魔法を放つ。


 三体のオーガに地中から幾百という数の茨の蔦が生え、襲いかかる。

 オーガ達は新たな邪魔者を排除しようと蔦に殴り掛かるが、切っても切ってもそれは数を増して襲いかかってくる。

 やがて、オーガ達は茨の蔦で簀巻きにされて、地面に三体仲良く転がった。


 突然今までの危機的状況から解放された冒険者たちは、呆然としていた。

 ……いや、ぼーっとしてないで倒しなさいよ。


 オーガ達は、その後駆けつけた騎士の手によって、綺麗に首を落とされた。

 騎士たちは安全に討伐ができて嬉しそうだ。

「いやー、こういう遠征ならいつでも大歓迎だなあ」

「デイジー嬢、騎士団に入りませんか?」

 ……まさかの騎士団勧誘がきた!


「ダメですよ!私は錬金術師としてアトリエ開くって決めているんです!」

 私は騎士団入団のお誘いを丁重にお断りした。


 そんなお喋りを他所に、回復師のお姉さんは怪我をした冒険者たちの治療にあたる。


 すると、ガチャリと音がして馬車の扉が開き、中から恰幅の良い裕福な身なりの壮年の男性と女性が馬車から降りてきた。そして、馬車から降りては来ないが、中に少女っぽい人の影があった。


「私は王都で商売をしております、オリバーと申します。この度は、危ないところをお助け頂き、本当にありがとうございました。中に娘もいるのですが、足に少々難がありまして、馬車から出てくるのが難儀なため、ご挨拶できず申し訳ありません」

 そう言って、商人の男女が私たち一行に頭を下げる。


「感謝を言うなら、このお嬢様にだな。オーガ達を捉えてくださったのはこの方ですから」

 騎士のひとりがそう言って、私に話を振る。


「この可愛らしいお嬢様がですか?こんな年頃であんな魔法をお使いになられるとは、天才という方はいらっしゃるんですな!お嬢様、助けていただきありがとうございました」

 そう言って、オリバーさんが深々と私に頭を下げる。

 私は、苦笑いしていえいえと恐縮するばかりだった。


「あ!そうだ、お嬢様、少々お待ちください」

 そう言ってオリバーは、馬車の中に入って何かゴソゴソしてから戻ってくる。


「お嬢様にお贈りするにはささやかな品ですが、お礼の気持ちとしてこちらを受け取って頂きたく……」

 そう言って、オリバーが差し出したのは、小さなアクアマリンが小花を型取り、小さなペリドットが横に添えられた葉として用いられた、可愛らしい髪留めだった。


 お父様に顔を向けて、目配せで受け取っていいか尋ねる。

 お父様は、ひとつこくりと頷いた。

 私たちの隊は、公式な国の軍としてのものでは無い。対外的な立場としては、あくまで採取が必要な『一人の錬金術師の護衛』として派遣されたメンバーである。ささやかな感謝の気持ちまで拒絶しなくてはならない厳格さはない。


「お気持ち、ありがとうございます。とても可愛らしい品で、嬉しいです」

 お父様の肯定を受けて、私はその小さく可愛らしい品を笑顔で受け取り、礼を述べた。


 やがて、オリバー一行を守るべき冒険者たちの回復も終わり、彼らに別れを告げると、私たちは再び西へ歩を進めるのだった。


 結局、オルケニア草原自体では魔物とは遭遇せず、採取に専念することが出来た。その結果、『ドンナ草』は、程なくして見つかった。

『ドンナ草』は、葉と実に毒性を持つ植物である。そのため、フルプレートアーマーを装備した騎士にその植物を引き抜いてもらい、根を採取した。


 これで、必要な材料は揃ったのであった。

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