第41話 強力解毒ポーションを作ろう②

 自宅にいる私は、まだ王城で変事があったことなど知らない。


 ただ、失敗した実験結果を目の前にするのみだった。

 ……失敗したのは、糧にしよう。うん。気を取り直して……。


 紙に書出して、素材ごとの抽出条件などを整理してみる。

 ①毒消し草→下処理不要、沸騰させるとダメ(検証済)

 ②マンドラゴラの根→沸騰させないとダメ?(未検証)

 ③魔石→触媒としての効果を発揮していない。成分が抽出できていないのでそれ以前?(未検証)


 まずは②のマンドラゴラの根の抽出温度を確認しないとダメだなあ。


 私は、新しいビーカーにみじん切りのマンドラゴラの根と蒸留水を入れて、加熱を始める。


【マンドラゴラのエキス???】

 分類:薬品のもと

 品質:低品質ーーー

 詳細:成分の抽出が出来ていない。


 もう少したつと、気泡が大きくなってきた。そして、沸騰前まで行っても状態は変わらない。


 そして、沸騰が始まる。

 ボコボコと気泡が泡立つ中、マンドラゴラの根のみじん切りが踊っている。


 よし、沸騰させても大丈夫!

 ならこのまま続けて……。


【マンドラゴラのエキス】

 分類:薬品のもと

 品質:高品質

 詳細:成分は十分抽出されている。


 しばらく煮込むと、エキスをちゃんと取り出すことが出来た!


 書き出したメモを訂正する。

 ①毒消し草→下処理不要、沸騰させるとダメ(検証済)

 ②マンドラゴラの根→沸騰させて煮出す(検証済)

 ③魔石→触媒としての効果を発揮していない。成分が抽出できていないのでそれ以前?(未検証)


 おそらく、毒消し草の抽出液とマンドラゴラのエキスを別々に作り、混ぜたものに魔石を入れて、魔石を触媒として成分を変化させる。温度は沸騰させてはいけないが、それ以外は不明。……ここまでは整理出来た。


 ……と、その時だった。


 バン!と大きな音を立てて、乱暴に実験室の扉が開かれた。

「お父様?」

 私は突然やってきた父に驚いて首を傾げる。だってまだ職務中のはずだ。

「デイジー、解毒ポーションは作っていないか?前に誕生日に毒消し草をいただいたよな?」

 お父様は急いで来たのか息も荒く、性急に尋ねてくる。


「ちょうど今『強力解毒ポーション』を作ろうと思って実験中ですが……」

「じゃあそれを急いで仕上げてくれ!」

 お父様が「よし、これで間に合う!」と、勝手なことを言っている。


 ……『実験中』と『できる』はイコールじゃない。

 だいたい今は試行錯誤している途中で、割り込まれるとすごく頭が混乱してくる。


「静かにやりたいので、お父様は居間で待っていてください」

 そう言ってお父様を実験室から追い出して、扉を閉めた。


 ……どこまで進んだかを、もう一度思い出そう。

 私はひとつ深呼吸をして、ノートに視線を落とす。


 毒消し草の抽出液とマンドラゴラのエキスを別々に作り、混ぜたものに魔石を入れて、魔石を触媒として成分を変化させる。

 今は、マンドラゴラのエキスが出来たところだ。


 次は、毒消し草のエキスを作る。

 私は、新しいビーカーにみじん切りの毒消し草と少なめの蒸留水を入れて、加熱を始める。

 沸騰直前まで加熱して止めると、エキスが抽出できた。


【毒消し草のエキス】

 分類:薬品のもと

 品質:高品質

 詳細:成分は十分抽出されている。


 毒消し草のエキスの中に魔石を入れ、だいぶ冷めてきたマンドラゴラのエキスを加える。

 そして、丁寧にかき混ぜていく。


【強力解毒ポーション?】

 分類:薬品

 品質:低品質ーーー

 詳細:複数の成分同士が反応できていない。


 そのままの温度であまり反応に進行が見られないので、慎重に加温していく。

 やはり、沸騰前であれば品質の低下は見られないので、そこまで上げて、その温度をキープする。


【強力解毒ポーション】

 分類:薬品

 品質:低品質ーー

 詳細:複数の成分同士が反応し始めている。


 うん、このままいけばいけるはず……。

 私は、棒でゆっくりかき回していく。


 すると。


【強力解毒ポーション】

 分類:薬品

 品質:高品質

 詳細:あらゆる毒を治療する。ただし他の状態異常は除く。


 お父様が急いでいるようだったので、タライに水魔法で氷水を出して、そこにビーカーを浸して素早く冷やす。そして、布でこして、薬をポーション瓶に入れた。


 二つポーション瓶を持って、お父様が待つ居間に急ぐ。

「お父様!出来ました!」

「でかしたぞ、デイジー!」

 お父様は私を抱き上げ頬擦りする。


「デイジーを連れて王城へ行ってくる!」

 お父様は私を抱き上げたまま馬車へ行こうとする。

「お父様、いつもの私のポシェットをとってください」

 お願いすると、気づいた侍女のケイトが私にポシェットを手渡してくれた。

「ありがとう、ケイト」

 私は新しいポーションをポシェットに入れて、肩からかけた。


 私とお父様は馬車に乗って、王城へ急いだ。

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