第31話 七歳の誕生日とプレゼントと新しいお友達

 私は七歳になった。

 国王陛下は『遠心分離機』を約束通り探してくださって、少し時間は経ったが私の七歳のお誕生日プレゼントとして遠心分離機を贈ってくださった。

 そして、今年は魔導師長さんと騎士団長さんの連名で『毒消し草』の苗をいただいた。お父様の説明だと、魔物狩りの遠征でこういった薬草類があるところに行ったそうで、『いつもの納品のお礼に持って帰ってプレゼントしよう』ということになったらしい。


 えっと、ありがたいけど、なんで私が苗で欲しいか知っているのかしら。あ、商談の時、畑で材料を育ててるって言ったっけ。


 誕生日プレゼントが遠心分離機と毒消し草の苗。


 ……世の中にはこんな令嬢もいるのね。


 ……私だけど。


 まあでも、自分がまだ子供であることもあって採取に行けないのがネックだ。そのおかげで、ここの所新しいポーション作りができていなかったのも実情で、ありがたいプレゼントである。二株あるから、土に慣れて質が上がってきたら早速使えるかな。


 あー!採取に行きたい!


 ひとまず私は、贈り物をくださった皆さんにお礼状をしたためて、ポーションを添えてお送りすることにした。


 ◆


 その後、私にはもうひとつ欲が出来てしまった。頂いた『毒消し草』のことだ。


 普通の解毒ポーションは、毒消し草と水と魔力草で作れる。市場にも多く出回っているものだ。だが、これで治るのは基本的な毒である。高レベルモンスターからの被毒や、普通の解毒ポーションを常備していて当然である王族や貴族を狙って使用される強力な毒には、普通の解毒ポーションでは効かないのだ。


 そういった毒を治すには、強力解毒ポーションが必要になる。しかし、これは市場にはほとんど出回らない。というより、ほぼ存在しない。……なぜか。材料に『マンドラゴラの根』が必要だからだ。錬金術師であればその理由を知るものもいるだろうが、世間一般にはポーション類のレシピなど知られてはいない。


 ちなみに、マンドラゴラは、伝説の魔物で花のように土に植わっているといわれている。しかし、その根を奪おうと土から引き抜くと、世にも恐ろしい叫び声をあげるので、叫び声を聞いた人は死んでしまうのだという。


 でも、良くしてくださっている魔法師団と騎士団の皆さんが望んでいるのは、強力解毒ポーションのような気がするのだ。だって、普通の解毒ポーションは買えるんだもの。


 だから私は、頂いた苗を畑の空いたスペースへ植え、しゃがんで座り込んだままの令嬢らしからぬ格好でため息をついていた。


「どうしたの?デイジー」

 ふよふよと緑色の妖精さんが飛んできて私の肩にとまった。

「うーん、マンドラゴラの根っこが欲しいの。でも、私はまだ子供で、マンドラゴラを討伐に行くお許しは得られないし……そもそもマンドラゴラって叫び声を聞くと死んじゃうんでしょう?」


 私は両手で頬杖をついて溜息を吐いた。


「ちょっと待ってデイジー!マンドラゴラは妖精の仲間よ!殺すなんてとんでもないわ!」

 待って待ってと慌てて私の周りをクルクル回る妖精さん。


「あれ、妖精さんなの?それじゃあ、あなたたちのお友達よね。……なおさら入手は困難かあ。困ったなあ」


「うーん、ちょっと待ってね。出来たら何とかしてあげるわ!」

 そう言って、妖精さんは空高くどこかへ飛んでいってしまった。


 ◆


 数日後。

 私の畑の空きスペースに、何かが二株勝手に植えられていた。

 ひとつは赤い、もうひとつは青いマーガレット状の花。どちらの花にも何故か愛らしい人の顔がついていて、その小さな口で楽しそうに歌を歌っていた。


 私は驚いて、ペタンと地面に尻もちをついた。

「か、顔……歌ってる……」

 私は震える指で彼らを指さす。


「初めましてデイジー、ご所望と聞いてやって来たよ」

 青い花がしゃべった!

「この畑はとても素敵な畑ね。前の精霊の木の周りも良かったけど、ここはもっと埋まっていて気持ちがいいわ!」

 続いて赤い花もしゃべった!


 私は呆然として尻もちをついたままだ。


「マンドラゴラたち連れてきたわよ」

 そこへ、例の緑の妖精さんがやって来た。

「あのね、彼ら、この土に慣れたら根っこが丈夫になるから、分けてあげてもいいって」

 妖精さんの言葉に、うんうんと頷くマーガレット達。


「でもね、勝手に引っこ抜かないでね!僕達が自分で引き抜いて分けてあげるから!」

「無理に引っこ抜かれるとびっくりして叫んじゃうかもしれないからー!」


「それはやめてー!」


 ちなみに、引っこ抜かれたら叫ぶけど、びっくりさせるだけで死んだりはしないらしい(驚いている間に根っこを足にして走って逃げるそうだ)。家族には危険がない。良かった。

 例の死んでしまうという伝説は、乱獲を恐れて色んな妖精さんたちに頼んで撒いてもらった嘘が元になって広がった伝説なんだって。


 こうして、私の畑にまた奇妙なお友達が増えたのだった。

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