第12話 変な動き3

次の日の午後も公園に集まる4人。


「動いた時だけ引っ張られるっていうのが不思議だよね」

カルラがいう。

4人は昨日ボールをいろいろな方向に投げて試したのだ。

「うん。引っ張られてるのか押されてるのかどっちかわからないけど」

エルネクもラグレンとキャッチボールした時のことを思い出す.


「ボールを真上に投げてるのに東の方に落ちてくるよね」

エレナが手に持ったボールを軽く上に放り投げる。ボールは小さく放物線を描き、ちょっと東の方にずれて落ちてくる。


「まっすぐ走るときに、曲がっていかないように無意識に気を付けてるって話を昨日したじゃない?」

エルネクが腕を動かして走るようすを表す。

「うん。そうだね」

エレナも昨日話したことを思い出す。


「走ってて方向を変えるときに体を傾けるけど、これも同じことかな」

エルネクが体をちょっと傾ける。


「え? どういうこと?」

ラグレンがちょっと驚いたようにたずねる。

「左に曲がりながら走る時って、体をこっちに傾けるよね」

エルネクが左の方に体を傾ける。

「うん」

うなずくラグレン。


「これも、体が右側に引っ張られるからこれに対抗しているのかなって思ったんだ」

エルネクが説明する。

「それは曲がるときにかかる遠心力に対抗するためじゃないかな」

エレナが指摘する。

「遠心力か」

エルネクは考え込む。


「そういえば、地面ってぐるっと一周してるけど、どこいってもこっちが下だよね」

エレナは足元の地面を指さしながらいう。

「そうだね。真上の地面も、こっちからみたら上だけど、そっちに行くとやっぱり地面が下になる」

エルネクも円筒形のこの街を見渡しながらいう。


「向こうの地面とこっちの地面の中間って、どっちが下になるんだろう」

ラグレンが足元と真上を指で示しながらいう。

「鳥みたいに飛ばないとわからないよね」

公園の木の方を見ながらカルラがいう。鳥を探しているようだ。


「スズメは木の高さくらいまでしか飛ばないね」

公園の植え込みのあたりにいるスズメを見ながらエレナがいう。

「ハトは木より高く飛ぶこともあるけど、それより上まで飛んでるの見たことないかな」

そういうと、ちょっと考え込むラグレン。


「鳥もどっちが上か下かわからなくなるから真ん中のあたりまで飛ばないのかな」

エレナも不思議そうだ。

「そうなのかも。真ん中だと、どっちを向いても下ってことかな」

エルネクも見上げながらいう。

「どっちを見ても下だと、上はないのかな」

カルラもちょっと考え込む。

「それも不思議だよね」

エレナがカルラの方を見ながらいう。


「もしかして、どこにいっても地面が下なのは、ここが回転しているからかな」

エルネクが地面を指さしながら腕をぐるっと一周まわす。

「え?」

エルネクの方を見る3人。


「遠心力ってこと?」

エレナがいう。

「うん」

エルネクがうなずく。

「この円筒が実は回転しているんじゃないかってこと」


「えー? そうは見えないけどな」

ラグレンが周りをみまわしながらいう。

「回ってるようには見えないよ。止まってる」


「丸壁も太陽の壁も地面もみんないっしょに回ってるからわからないんだよ」

エルネクが説明する。

「でも、見てわからないなら、ほんとに回ってるかわからないよね」

エレナが指摘する。

「まあ、そうなんだけど」

エルネクもこの疑問に対する説明は思いつかない。

「でも、東の方に引っ張られるのは回転が関係してるような気がするんだ」


「遠心力って外向きにかかるよね?」

遠心力について覚えていることをエレナがいう。


「うん。確かにそうだね」

エルネクも同意する。


「じゃあ、関係ないんじゃない?」

話を聞いていたカルラがいう。


「やっぱり関係ないのかな。何か関係あるような気がするんだけど」

ちょっと残念そうにエルネクがいう。


「ここが回ってるかどうか調べる方法ってないかな」

エレナが腕をぐるっと回して円筒形の地面を指しながらいう。


「止まっているようにしか見えないけど」

カルラがいう。この円筒形の街が回転しているということにどうもなっとくがいかないようだ。


「回ってるとしたら、地面も木も家も僕らもみんな一緒に動いてるからわからないんだよ」

エルネクは両手で円筒形のものを掴んで回しているようなしぐさでいう。


「ボールを投げた時に東に押されるのも、東の方に向かって回ってるからなのかも」

エレナは、ボールでいろいろと試したことと回転の間の関係に思いいたる。


「ああなるほど。そんな感じだね」

エルネクも同意する。

「それ、自転車で試せるんじゃないかな」

自転車の方を指さしてエルネクが続ける。


「え? どういうこと?」

エレナが


「自転車で西か東の方にまっすぐ走りながら、真横にボールを投げてみるか」

「え? 北とか南の方向に走んるじゃないの?」

「元々東の方に引っ張られてるから、自転車が動いているから引っ張られるのかの区別がつかないから」

「ああ、なるほど」


「ぼくが自転車に乗るよ」

ラグレンがそういうと自転車に向かって走る。自転車を起こすと公園の西側に移動する。


「そこから西の方に走って、僕が立ってるところに来たら真横にボール投げて」

「わかった。いくよー」

ラグレンはボールを右手に持ち、片手でハンドルをつかんで走り出す。

自転車がエルネクに近づく。

「投げるよー」

ラグレンが乗った自転車がエルネクの横を通り過ぎるところでボールを真横に投げる。

「あ、前の方に飛んだ」

真横に投げられたボールは、自転車の進む方向に斜め前に飛んでいく。


「真横に投げたボールが、自転車が進む方向に曲がったってこと?」

「そうなんじゃないかな」

「もう一回やってみる」

ラグレンがボールを拾ったエレナに向かう。ボールを受け取ったラグレンが、今度は東側から西に向かって走り出す。

「二回目投げるよー」

エルネクが立っているところを通り過ぎたところでボールを真横に投げる。

「やっぱり前の方に飛んでいくよ」


「自転車から見たら、ボールは真横に飛んでるように見えるんじゃないかな」

実験を見ていたエレナがいう。

「え?」

エルネクは考え込む。

「なるほど。自転車と同じ方向にボールが進んでるから、自転車からはまっすぐ飛んでくるように見えるってことか」

「うん」


「もう一台の自転車で並んで走って、隣の自転車に向かって真横に投げたらキャッチできると思う」

エレナがいう。

「東向きに引っ張られるからちょっとずれると思うけど」

エレナが説明する。


「じゃあ、僕も自転車で一緒に走るから、さっき僕が立ってるところにきたら僕にボールを投げて」

エルネクはそういうと自転車に向かう。

「いいよー」

「じゃあ私がエルネクがいたところに立ってるよ」

カルラがそういうとエルネクが立っていた場所に移動する。


自転車を並べるラグレンとエルネク。

「じゃあスタート」

そういうと並んで自転車で走り始める。自転車の間隔は2メートルほど。

「そろそろ投げるよー」

カルラが立ってる場所にくると、ラグレンはボールを真横に投げる。

ボールはエルネクに向かって飛び、エルネクはボールをハンドルの上のあたりで片手でキャッチする。

「西から東に向かって走ってるからちょっと前に進んだかも」

自転車を止め、ラグレンがいう。


「確かに、同じ速さで一緒に動いているから、だいたい真横にまっすぐ飛んできたように見えた」

エルネクがいう。

「つまり、ここが回っているとしたら地面も一緒に動いているんだから、ボールはまっすぐ飛ぶように見えるはず」

エレナがエルネクに向かって言う。

「確かに」

考え込むエルネク。

「でも、東の方に引っ張られることと回転って関係ありそうな気がするんだけどな」

エルネクはまだここが回転しているという自分の考えをあきらめきれない。

「まあ、それはそうなんだけど」

エレナも考え込む

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